Loop1 5/22(日) 15:48【週末黙示録】

 いろいろな噂が立ち上った。カルト宗教に嵌まった両親、家庭内暴力、ヤクザの借金取り。根もはもない噂が表坂夏鈴を取り巻いた。

 

 だがオモテザカ自身を悪く言う者はほとんどいない。彼女が積み上げてきた信頼。皆、オモテザカが帰ってくると心から信じる者ばかりだった。


 誰かが日曜日にビラ配りをやろうと言い始めた。それに反論する者はいない。皆彼女のためなら一日ぐらい休日を捨ててもいいと言った。そして——



 2022年 5/22 (日) 15:48『桜ノ筋駅前』


「行方不明になった夢高生を探してます。よろしければご協力下さい」


 花も散り、青葉だけが鬱蒼と茂る桜の木。その新緑がまぶしい広場の真ん中で、ジュンペイはビラを配っていた。


「ちょっとミゾグチ君。テレビ見てないでちゃんと配ってよ」


 そこにはミゾグチの姿もある。といっても彼は雰囲気で参加しただけであまり戦力にならない。途中から駅前のショッピングモールにぶら下げられている街頭テレビを、だらだらと眺めるだけだった。


「いやさぁ、俺だって最初はやる気だったんだぜ? けど思いのほか受け取られないもんだからやる気無くしちゃって……」

「しょうがないよ。僕だって反対の立場だったら、多分受け取ってないと思う」

「はぁ~人って冷たいねぇ。善意よりティッシュを優先するもんなぁ」


 その時、テレビの地方ニュースが見慣れた顔を映し出す。


『続いては、朝霧市女子高生失踪事件の続報です——』


 自分の知っている顔がこんな形でテレビに映るのは胸が痛かった。警察がこうしてオモテザカの顔を公開するということは、捜査が難航しているということを示している。


「ほんとどこ行ったのかねぇ?」

「うん、心配だよ……」


 そしてニュースが流れ終わり、明日の天気が手早く伝えられる。明日は晴れ、降水確率は0%。それに意味は無いことを人類は知らなかった。明日は永遠に来ないということを。


 そして——


 15:59


 15:59


 16:00


 時報が四時を示した瞬間、町中に不協和音が響き渡る。精神を揺さぶる警報。緊急地震速報ではない、だがどこかでそのサイレンは聞き覚えがあった。


「Jアラート……!」


 ジュンペイはすぐさまその意味を察した。Jアラート、それは政府が国民に非常事態を伝えるための瞬時警報システムだ。すぐさま街頭は切り替わり、原稿を慌てて受け取るキャスターが映し出される。そのそしてその口から伝えられたのは、日本国未曾有の絶望だった。


「臨時ニュースを申し上げます! 臨時ニュースを申し上げます! 現在我が国の上空に、無数の飛来物が接近しています! 国民の皆様、直ちに頑丈な建物、もしくは地下に避難してください!」


 その言葉に、誰もが意味も分からず空を見上げる。そしてその疑問は瞬時に解けた。太陽が傾き僅かに赤みがかる西の空から、白く輝く流星のような何かが群をなし、こちらに向かって落下している。


「ミサイルだ……」

 

 ジュンペイの横でミゾグチがそう呟いた。その直後、飛来物の一つが吸い込まれるようにこちらに向かってくるのが見えた。伏せる間もない。飛来物は凄まじい衝撃波を放ちながらジュンペイ達の上空をかすめ、市街地の真ん中へと着弾する。この一発で何人死んだのだろうか? そんな不謹慎な想像を頭から引きずり出すぐらいの爆炎が、ジュンペイの瞳を真っ赤に染めた。


 一瞬の静寂の後、人々が発狂するように叫び声を上げる。ジュンペイもそうしたい気分だった。かろうじて精神が保っていた理由は、既視感でこの状況を知っている気がしていたからだ。


 ——だから次に起こることも予測できた。


 爆炎が吹き飛ばされるのが見えた、まるで炎の中で何かが膨れ上がるように。そして今、遅れてやってきた音がジュンペイ達を襲う。この世のものとは思えない重低音、それは鳴き声だ。


 地面が揺れる。地震のように不規律ではない。まるで奏者が大太鼓を叩くかのように、一定のリズムで。


 そして彼らは姿を現した。巨大な体躯に燃え盛る鱗、全てを喰らわんとする顎にあらゆる物を引き潰す尻尾。それはこの世界を滅ぼさんとする黙示録の獣。もしくは——


「臨時ニュースを申し上げます! 臨時ニュースを申し上げます! 現在、世界中に降り注いでいる宇宙からの飛来物。その中から巨大な怪獣が次々と出現、破壊の限りを尽くしています!」

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