第10話 蜂蜜酒と思い出

「あいつはな、わしの大切な友じゃった」


優しい陽の光が素朴な木のテーブルの上で揺れている。


花の香りをのせて入ってくる風が気持ちがいい。


ここは春が閉じ込められた世界、妖精の村「エファメラル」


村長は僕たちに静かに話し始めた。


「あ奴と会ったのは、そうじゃのう、ワシがまだ若造だったころ。突然この村に現れたんじゃ。おかしなかっこをしておって、人間が鍵もなしに村に入ってきたと村のみんなは大騒ぎじゃった。」


「どんな格好をしていましたか?僕たちみたいな容姿でしたか?」

父さんが食いつき気味で聞いている。


村長は白いふわふわしたひげを撫でながら「そうじゃのう、なんて言ったか、キモノ?とかいう民族衣装を着ておったな、ちょっと見たことのないものじゃったが美しい織物で出来ておった。またとんでもない髪形をしとってな、ふぉっふぉ、てっぺんがつるつるそこに髪が結ってあるという何とも斬新な・・・」


「ち・・・丁髷・・・」家族でハモってしまった。


「うんうん、そんな事言っとったのう」


「ここに現れたときやつは肩を思いきり切りつけられたようで酷い出血でなぁ、一時は死んでしまうかもしれなかったが、ここの薬草とまじないが良く効いてな、何とか助かったが右手がちょいと不自由になってしまって・・・

助かったのに馬鹿なやつでこれではもう刀が振るえないから殺してくれと訳のわからん事をいうんじゃよ、ここで暮らしはじめて・・・元の世界とは違うことに気づき、そんな事も言わなくなった。静かになったと思ったら、今度は恩を返させてくれとうるさくて・・・頑固で真面目で丁寧なやつでな、ゲンナイという名じゃった。

よく蜂蜜酒を一緒に飲んでな、沢山話をした。異世界の話はどれも新鮮で楽しかったし、ワシもこの世界の話を聞かせてやってなぁ・・・楽しかったのう。ある日、元の世界に帰りたくないのかと尋ねたら、帰ってももう自分の大切な人はいないから・・・とな。」


「その後、源内さんはどうなったのですか?」父さんが恐る恐る聞いた。


「妖精に好かれる気持ちのいい男じゃったが、人間の寿命はなんと儚いものか・・・今は丘の上の墓で眠っておるよ。」


「帰らない道を選んだんだね。その人は」僕は静かに言った。

帰らないなんて選択肢もあるんだな、恋しくならないのかな元の世界が・・・


「すまんのう、元の世界に帰ったという話が聞きたかったんじゃろう?」


ずっと静かに話を聞いていたクロムが「それで、帰り方を知らないかと思ってな。」

と切り出した。


村長はまた綿菓子のような髭を撫でると「ふぅむ」と言った


「わしは、ダンゴが食べたいのう。あのもちもちっとして甘いソースがかかってるあれじゃ」


「??は??」


クロム目が点


「いや、ちょっとおかしくないか?我は質問をしたんだが?」


「ん?なんじゃって?」


急にお耳が遠くなりました!!


「始まったわ」

黒猫の案内人がため息をついた


「ダンゴ・・・食べたいのう、ゲンナイの作ってくれたダンゴ。食べればもっと昔の記憶が蘇る気がするのぅ。」


え?交換条件的な?なんか言い方・・・


「あらぁ、お団子ね、いいじゃないの。春にはもってこいね!お庭に桜みたいなピンクのお花の木もあるしお団子でお花見しましょうか」


母さん、のってあげちゃうの?真剣なお話聞きにきてお花見になっちゃうの?











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