第6話 敵は精霊門にあり!

 設営に時間が掛かりそうな大型天幕とえども内部に入れる人数は限定的で、招集された人員は騎士団長を含むクラウソラス各騎の騎士と魔導士が十名、残りは騎兵隊や歩兵隊の隊長格だろう。


(…… アルド騎兵長とデレス歩兵長だったか?)


 二人とも戦闘終了後に中隊規模の兵卒をまとめていたので印象に残っていた。昨夜、天幕の中でレヴィアに聞いた限りでは、巨大騎士の動力となる魔力結晶に量的制限があるため、敵方の小型種は生身の一般兵が相手をするらしい。


 などと思い出していたら、いつの間にか隣に寄り添っていた赤毛の少女が俺の後頭部に手を伸ばし、跳ねた後ろ髪を直そうとしてくれる。


「もう、朝から寝癖をつけたまま何処に行ってたの?」

「すまない、一声掛けるべきだったな」


「私語はつつしめ、二人とも……」

「はぅ、すみません」


 小声で応じたものの、しっかりとライゼス副団長には聞こえていたようで、注意された此方に皆の注目が集まってしまう。恥ずかしそうに頭を下げたレヴィアに合わせ、俺も軽く頭を下げておいた。


「さて、始めるとするか…… ライゼス」


「先ず敵方の動きだが、斥候隊の報告によれば精霊門周辺にて護りを固めているとの事で、その数は此方が動かせる兵力の倍近い」


 その言葉に集まった者達の表情が険しくなるも、団長であるゼノスが気楽に笑い飛ばす。


「雑魚の数など問題にならん、重要なのは大型種だろう。なぁ、フィーネ」

義父おとう様、また適当な事を…… ライゼス様、そちらの数は?」


「此方と同じく五体だが、その内一体が地竜だぞ」

「どの道、倒せなければ我らに先は無い、此処が分水嶺ぶんすいれいだ」


 したる悲壮感もなく剛毅ごうきさを見せる団長殿につられて、他の騎士達も精神的な余裕を取り戻して軍議は進んでいく。若干、脳筋なゼノス団長と神経質なライゼス副団長の組合せは割と良いのかもしれない。


 なお、敵方は此処より二十キロメートルほど先の水源地でもある岩場に精霊門を構築している最中であり、不死族の姿もあったという。


 軍議に参加できたことで新たに幾つか手持ちの情報を更新して、解散後にレヴィアと朝食を済ませていたらディノが歩み寄ってきた。

 

「…… 昨日は世話になったな、いずれ借りは返す」

「あぁ、勝ち逃げする気は無いさ」


 鋭く睨み付けてきた視線を真っ向から受け止める事暫し、軽く舌打ちした彼は騎兵隊が集っている場所へときびすを返した。


「………… ディノ」


「ディノ様は騎兵隊に組み込まれたそうですね」

「まぁ、新しい騎体が配備されれば戻ってくるさ…… あ、隣いいよね?」


 心配そうに幼馴染の青年を見送るレヴィアに一声掛けて、朝食の器を持った件の兄妹が傍に腰を下ろす。


「何か用事でも?」


「うん、僕らと君達にライゼス様からの命令が来ていてね」

「暫くご一緒させて頂きます、お二人とも」


 食事を取りながら仔細しさいを聞けば、斥候隊と共に別行動して精霊門の西側へ回り込み、リゼル騎士団本隊が正面から攻撃を仕掛けているすきを突けとの事だ。接敵から早い段階で標的を砕き、数に勝る敵方の士気をくじく意味合いがあるのだろう。


「割と大役じゃないか……」

「だから兄様と貴方なのですよ、クロード様」


「買い被られたものだな」

「うぅ、緊張するよぅ、お腹痛くなってきた……」


 不安そうな表情で腹部をさするレヴィアの頭を軽く撫ぜ、本隊に先んじて出立する必要があったため、手早く残りのパンとスープを腹に詰め込む。


 そうして俺達は少数の斥候歩兵に導かれ、大森林の木々に紛れて迂回路うかいろを取り、“滅びの刻楷きざはし”の異形達が拠点とする水源の岩場を目指す事になった。


 途中、巨大騎士が闊歩かっぽしても問題が無い程の広大な森と自生する巨大樹木に視線を奪われ、思わず感嘆の溜め息を吐く。


(地球ではありえない光景だな……)


 本当に異界へ迷い込んだ事を実感していると、先行している斥候隊の指揮官が片手を上げる。挙手に合わせてルナヴァディス兄妹の騎体が脚を止めて跪いたので、俺もそれにならって駐騎の姿勢を取った。


『クロード殿、聞こえるかい?』

『あぁ、特に問題はない』


 騎体クラウソラスに組み込まれた短距離念話の装置は良好で、脳内にロイドの声が響く。


 因みに騎体同士は秘匿性が高い念話を多用するが…… 操縦席にてレヴィアと共に人工筋肉に埋もれて一体化している手前、騎体の聴覚器と発声器を併用した一般的な会話も可能だ。


「ロイド卿、此処より先は異形共の警戒領域にて、これ以上の浸透しんとうは難しいかと思われます」


『了解した、標的まで約3キロメートルと言ったところか…… 残りは開戦と同時に駆け抜ける』


『太陽の位置から判断して刻限まで少し時間がありますね、兄様』

『クロード、今の内に水分補給しておく?』


 耳元でささやくようなレヴィアの声にくすぐったさを感じつつも、東の空を眺めて丁重に断り、騎体の腕を掲げて指し示す。


『皆、予定よりも本隊の仕掛けが早いみたいだ。遭遇戦にでもなったんだろう』


『根拠は…… 鳥か』


 此方の指し示した先、騎体との接続で強化された視界に飛び立つ鳥の群れが確認でき、既に交戦が始まっている事をうかがわせていた。



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