【モザンビークの夜】

大庭園子

「モザンビークの夜」

夕闇の迫る頃。

一台の、古びたバスが泊まった。

ガタついた音を出しながらゆったりと。

バス停とは言っても、サビた赤い標識が一本斜めに刺さっているだけだ。

この一本道は黄土色の土が剥き出しで、道の両側には背の低い緑の草が生えている。

そしてその両側は坂になって切り立っている。

そこに1人の男が降り立った。

彼の名前はエイダ。

彼は一冊の本を手に持っていた。

タイトルは、「モザンビークの夜」。

.

.

.

.

彼は地図をポケットから取り出し、広げて見る。

方位磁石で方向をチェックしながら。

目的地はこの一本道の隣にある川を

跨(また)いだ所にあるようだ。

川を挟んだ向こう側を眺めると、亜熱帯のジャングルが広がっていて、モーテルのような建物が見える。

そこを目指し彼は歩き出す。

.

.

.

.

歩いているうちに陽が落ち、辺りが暗くなる。

この亜熱帯のジャングルはとても緑が濃く、赤や黄、オレンジなどの差し色があり、彼の心に深く染み入ってくる。

その深い彩りに、彼は思わずため息をついてしまう。

それ程この土地は深い青に染まっており、太陽の彩り、礼賛を解き放っていた。

深い夜にも関わらず。

それらが彼の心に染み入ってくるのは、降り注ぐ光が月灯りであるのと関わりがない訳ではないだろう。


亜熱帯のジャングルのそばには、ポツリポツリと灯りを落とす外灯(しかしそれは頼りなく、それ故に、目に強い刺激を与える事のない安らぎがあった)があり、それを頼りにこの見知らぬ土地を歩く。


ほんの数メートル先の外灯(これもまた頼りなさげだが)に、黄色をベースとした、人がいるようには思えない程さびれたモーテルがある。

(だがそれは彼にとってとても好都合だった)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る