【モザンビークの夜】
大庭園子
「モザンビークの夜」
夕闇の迫る頃。
一台の、古びたバスが泊まった。
ガタついた音を出しながらゆったりと。
バス停とは言っても、サビた赤い標識が一本斜めに刺さっているだけだ。
この一本道は黄土色の土が剥き出しで、道の両側には背の低い緑の草が生えている。
そしてその両側は坂になって切り立っている。
そこに1人の男が降り立った。
彼の名前はエイダ。
彼は一冊の本を手に持っていた。
タイトルは、「モザンビークの夜」。
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彼は地図をポケットから取り出し、広げて見る。
方位磁石で方向をチェックしながら。
目的地はこの一本道の隣にある川を
跨(また)いだ所にあるようだ。
川を挟んだ向こう側を眺めると、亜熱帯のジャングルが広がっていて、モーテルのような建物が見える。
そこを目指し彼は歩き出す。
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歩いているうちに陽が落ち、辺りが暗くなる。
この亜熱帯のジャングルはとても緑が濃く、赤や黄、オレンジなどの差し色があり、彼の心に深く染み入ってくる。
その深い彩りに、彼は思わずため息をついてしまう。
それ程この土地は深い青に染まっており、太陽の彩り、礼賛を解き放っていた。
深い夜にも関わらず。
それらが彼の心に染み入ってくるのは、降り注ぐ光が月灯りであるのと関わりがない訳ではないだろう。
亜熱帯のジャングルのそばには、ポツリポツリと灯りを落とす外灯(しかしそれは頼りなく、それ故に、目に強い刺激を与える事のない安らぎがあった)があり、それを頼りにこの見知らぬ土地を歩く。
ほんの数メートル先の外灯(これもまた頼りなさげだが)に、黄色をベースとした、人がいるようには思えない程さびれたモーテルがある。
(だがそれは彼にとってとても好都合だった)
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