〖連載〗俺だけ理不尽な異世界生活ですが、スキル『危機改戒』《ききかいかい》で面白おかしく生きていきます。

@dokonjoooo

第1話


ーー何が起きたんだ……?




 嗅いだことのない木の香りに土独特の臭いを押し退けるように、鉄の錆びた臭いが鼻腔を突く。


 目の前で立ち竦む少女に見に覚えがなければ、名前など知る由もない。


 ただ、彼女に向けて伸びるこの腕が、彼女を助けようと伸ばしていることだけは理解できた。


 しかし、その彼女が何故そこまで思い詰めた表情で自分を見つめているのか、それが理解できないのだ。 




ーー何故だ、思い出せ……思い出せ思い出せ、思い出せ!




 ここで一体何が……。


 彼女は誰だ。


 そもそも一体ここは何処なんだ。


 周りを取り囲む無数の木々は何なんだ!


 大体私は誰なのよ!




ーー嗚呼、そうか……。そういうことか。




 やっと府に落ちた。


 今まで何が起きていたのか、自分が何故叫んでいるのか、自分が誰なのか、パズルのピースのように一つずつはまっていく。








 加速した世界で最後のピースがはまった時、少女の口から鈴のような声が漏れ彼の鼓膜を揺らした。 


 これから起きるであろう惨劇を止めようと、ただひたすらに、がむしゃらに、必死に身体を動かした。






「待ってろ!必ず助けrぶへらぁ!」




 しかし、彼の健闘も虚しきかな、首を襲った衝撃に全身から力が抜け、意識を刈り取られそうになる。


 が一瞬、気力でなんとか繋ぎ止めたが、身体は地に倒れ込むように崩れていく。


 徐々に剥離し薄れていく意識の中で、自身を襲った凶刃の正体が目の前に立つ彼女が手にするそれだと気付き、決して小さくはない衝撃を与えた。






ーーなぜ……、なんで、助けに来たはずの俺がこんな目に……。




 その疑問と同時に感じた理不尽さ、そして悔しさと自分の不甲斐なさを最後に、意識を手放した。






ーーこの瞬間、田中 和也は(社会的に)死んだ。

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