006 遺跡探索

「信長のおっちゃん、<ゴールデンライオン>にステルス機能あったんだね?」


 風守アキラは半ば呆れながらぼやいた。

 ちょっとした皮肉だが。


「それはあるじゃろ。わしがあまり好きじゃないだけじゃ」


 という言い訳じみた答えが返ってきた。 

 信長の<ゴールデンライオン>がステルス機能を展開して風景に溶け込んでいる。

 そこはアキラたちが所属する<飛礼同盟>の勢力下にあるアスカ遺跡であり、さすがに遺跡を護るモンスターの襲撃対策で<ゴールデンライオン>も漆黒の闇のような機体色に切替えて地下へと降りていた。


 VRゲーム<刀撃ロボパラ>の人気機体ボトムストライカーである<ニンジャハインド>が隠密ステルス機能を有していた影響で、全機体にステルス機能が装備されていた。

 それに伴って機体色も変えれるようになっていた。


 <刀撃ロボパラ>にはスナイパーなどの銃を持った機体も多いのだが、そういう機体に音もなく近づいて撃破するとか、銃撃をかわして聖刀で相手を撃破するのがカッコイイとされていて、接近戦に有利なゲームバランスになっていた。

 ステルス機能もその一環だったが、アキラのようなスナイパーは貴重で、大体、レベルが上がらないうちに大破してしまうことが多い。

 逆にいうと、レベルの高い成長したスナイパー機体は貴重で護衛なども厳重であった。

 アキラの機体の護衛として今回、サイレンという女性プレイヤーが加わって、前衛の信長、中衛護衛のサイレン、後方支援のスナイパーのアキラという三機部隊になっていた。

 サイレンは無口なプレイヤーで、ダークレッドの<ニンジャハインド>という本格派の渋い機体に乗っていた。

 アキラの機体は元々隠蔽装甲ステルスがデフォルトのようなものだし、機体色もダークブルーという黒に近い、若干、青みがかったものになっていた。


「そろそろ、モンスターの巣の横を通過します。各自、慎重に行動して下さい」


 低い女性の声がアキラの通信機に響いた。


「<<了解イエッサー>>」


 信長とアキラが同時に答える。

 何故かサイレンが隊長みたいになっていたが、信長とアキラを納得させる「気」のようなものをサイレンはまとっていた。


「しかし、メガネはわしらにこんな任務を与えたのかのお?」


 信長が妙なことを訊いてくる。


「そりゃあ、休戦条約後の資源集めじゃないかな」


 アキラ的にはそういう理由しか思いつかない。

 

 同盟ギルド間戦争も無限にできる訳ではなく、同盟の資源に依存する。

 なので、時々、休戦条約を結んで資源集めをする。

 資源の源は生産や軍事拠点となる<城>や<砦>の占領、地下迷宮などの<遺跡>での遺物探索などがある。

 <城>は定期収入で、<遺跡>にはガチャ的楽しみがあり、遺跡探索は同盟の立派な仕事である。

 戦闘ばかりしたい信長には不満なんだろうが、戦国時代に楽市楽座の経済政策をうちだした信長らしからぬ発言である。


「今回の探索ポイントでは過去に貴重な聖刀、アキラのスナイパーアレイもこのエリアで見つかってますよ」

 

 サイレンか珍しく多弁なアピールをする。


「スナイパーアレイがここで見つかってるの?」


 アキラは俄然、やる気になってきた。

 目の色が変わってきている。


「それなら、わしも頑張らないとな」

 

 信長も聖刀には目がなく、背中の聖刀収納機能のあるバックパックには、摩訶不思議な四次元格納システムにより、数十本の聖刀が入ってると言われている。四次元ポケットかい。

 ゲーム的なご都合主義だろう。


「全軍停止」 


 サイレンがささやくように、警告を発した。

 アキラも信長も動きを止めた。


 アキラたちの部隊はボトムストライカー数機が通れるような洞窟を、ひたすら地下へと下っていた。

 今までモンスターなどは全く遭遇しない安全なルートだったが、急に巨大な空間がアキラたちの眼前に開けていた。

 ヒカリゴケで明るいその洞窟内はボトムストライカーが軍事教練できそうな広さで、今はモンスターがいるようには見えない。

 だが、よく見ると、更に地下へと続く無数の穴が地面のいたる所に空いていた。


兵隊アリバトルアントの巣よ。慎重に、ゆっくり進んで行って」


 サイレンがすっかり小隊長役になっている。

 アキラも彼女から漂ってくる気のようなものから彼女の実力が只者でないことを推測していた。


「<<了解イエッサー>>」


 アキラと一緒に返事をした信長もそれは認めてるようで、彼にしては素直に従っている。

 織田信長の芸風を忘れているだけかもしれないが、歴史上では信長は「うつけ」として振る舞い、周囲を永年騙した賢さもあるようだし、恐ろしい独裁者としても信長のイメージは間違いかもしれないとアキラは思っていた。


 少し離れている所で数匹の兵隊アリバトルアントが穴から顔を出した。

 黒と赤のまだら模様の体で蟻と同じ体つきで、大きさはアキラの機体と比較しても五分の一ぐらいの小さな昆虫型モンスターである。

 背中に一対のマシンガンのようなものがついており、そんなに威力はないが、至近距離で喰らうと流石に損害が出る。

 厄介なのは数が多くなった時で集中砲火を浴びると大破することもある。

 大量に湧き出てきたら逃げるしかない。


「ちょっとヤバいんじゃない」

 

 アキラは危機感を覚えて、足元をみて更に慎重に歩を進める。


「呼ばれて飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん!」


 ネメシスが操縦席に立体映像のようになって顔を出す。

 青い瞳が印象的で、黒髪に赤い服を着た華奢な体に妖精のような羽根をふたつ生やしている。

 だが、何とも言えない不吉な笑顔を見せる。


「呼んでないけど」


 アキラの態度は冷たい。


「命の恩人になんて口の利き方なの? 私ぐらいになると未来予測も大体、当たるから出てきてあげたのに」


 近代の物理学でラプラスの悪魔ラプラス・デモンと呼ばれる超越的知性体が、フランスの数学者であるピエール=シモン・ラプラスによって提唱されている。

 ある時点において作用している全ての力学的物理的な状態を完全に把握、解析する能力があれば、宇宙の全運動、つまり未来までも確定的に知りえるという超人間的知性体の出現を予測したとも言える。

 ネメシスは600体のドローンの未来を完全に予測し、隠蔽装甲ステルス状態の指揮機体の居場所までも解明して撃破する能力を持っている。

 超越的な演算能力を持つ人工知能AIならば、それが可能であるかもしれないが、量子コンピューターでもそれは不可能に思える。

 ネメシスはさしずめ、ラプラスの魔女というところか。


「ということは、これから危険になるということか?」


「当たったりー」


 ネメシスの言葉通りに兵隊アリバトルアントの群れが穴から湧き出てきていた。 

 アキラにはネメシスが不幸を呼び寄せているようにしか思えなかった。


「全機、全速力で脱出!」


 サイレンの通信がアキラの耳に響いた。 

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