第33話 瞬間移動

 俺は目を疑った。

(消えた! どこだ? )

 こう思ったのは、コンマ1秒より短い、文字通り一瞬の間だった。


 ビシッ! 「ウウ…… 」

 俺の右脇腹あたりの服に一筋の亀裂が入ったように、綺麗な筋ができていた。当然、俺の右脇腹も水平に切れていて、その深さは2センチぐらいもあった。ただ、肉は引っ付いたようにあまり隙間がないので、約20センチほどの傷口から赤い鮮血がジワジワと幾筋も流れ落ちている。


(えっ? )

 ヒダリンは、驚いたと同時に信じられないと思った。

(私の鞭を受けて苦痛を感じている。

 この鞭の技を極めて以来、一人として苦痛を感じていられる人は、いなかった……

 そうか! 先生も瞬間移動したのだ。でも、どうして?

 それなら、私の鞭を受けないぐらいに移動しても良さそうなものなのに……

 なぜ、こんな中途半端な所にいるの? )


 ヒダリンは、そこまでの思考の連鎖を断ち切るかのように、第二撃を俺に与えた。

(今度こそ先生、苦痛を感じないうちに死んで! お願い! )

 ビシッ! 「ウウ…… 」


 俺は、またもや死ぬほどの苦痛を味わった。

 だが、さっきよりも幾分ましだった気がする。

 俺の右脇腹にさっきより1センチほど上に深い傷が水平に生じて、赤い鮮血も流れている。しかし、一撃目よりは傷口の長さが半分になっていた。


(そうか! 先生は私の瞬間移動に対して、なんとか接近して鞭の先端を避けているんだ。それも今のは50センチもさっきより接近していた。

 私はいつも相手を一瞬で絶命させるために、鞭の先端が丁度、頸動脈に届く場所に瞬間移動して攻撃している。しかもその場所は、同時に相手の予測を裏切るベストポジションでもあるので、相手からは攻撃されない場所でもあるのだ。しかし先生は、高さを変えて1度に3回しならせた私の鞭を2度は、くぐり抜けてもいた)


 ヒダリンは結論を下した。

(よし、それなら先生の接近を予測して、調整してやる)

 ヒダリンが今度こそ、必殺の三撃目を放とうとしたその時、真田丸の船底から大音響と共に大爆発が起こった。

 その爆発でブリッジが吹き飛んだ。


「よーし! ウマークやったな。シンジ」

「はい。予定通り、あらかじめ仕掛けてあったダイナマイトを爆発させました。ガソリンが入ったドラム缶も大量に積んでるので、船全体が火に包まれるのも時間の問題です」

 と保安室長補佐のシンジは、シュレッダーに言った。


 ヒダリンは気がつけば、シュレッダーをはじめ、シンジや戦闘員たちが真田丸に掛かっていたタラップを降りて、埠頭に移動し終わっているのを見た。

「こ、これは…… しまった! 」

 ヒダリンは、この事態からどうやって切り抜けようかと、必死に頭をフル回転させていた。


 第33話 終わり

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