第27話 犯行声明

再び、ここはミラクル研究社の入口を入った所の事務所兼社長室である。幅4メートルぐらいの事務所の奥のスペースに、幅2メートルぐらいのつい立てがあるので、博士の大きな机とその前のソファーは入口から見えないようになっている。


俺は時計を見て、夕方の5時を過ぎたところなのを確認して言った。

「博士! 今すぐその講義ノートに隠してるメモリーチップを取りに戻るよ。ここからなら多分往復でも2時間ちょいだと思うから、7時半ぐらいに戻って来れるだろう」

「よし、それなら翔青の運転で車で行けば良いじゃろう」と博士が言ったが、

「いや、電車の方が確実だよ。今の時間だと結構混むからね。それに俺、一人でもここに来れるようになりたいし」

と俺は断った。

「分かった。そのチップはとても大事な物なので、くれぐれも気をつけて行ってくれ」と言い、俺に握手を求めた。

俺は博士の手を力強く握り返して、事務所を出て行った。

「博士、これでいよいよリンゴの全貌が見えてきますね」と翔青は言った。

「そうじゃな。ここまで来るだけでも大変じゃった」と言って、博士は椅子にどっかと腰を下ろした。


研究社をあとにして、俺は急ぎ足で小田急の参宮橋駅へと向かっていた。途中に商店街があり、ゆっくり歩く人の間を俺は、かき分けるようにして駅に向かった。

( これ、方向を間違えてたら厄介だぞ 。だけど翔青は商店街の方へまっすぐ行けば駅があると言ってたからなあ )と思いながら先を急いだ。


すると、俺が目指す先に3、4人が立ち止まって店先の何かを見ている様子を目にした。

そこは、電気屋で客寄せ用に大画面のテレビで何かの放送を聞かせているようだった。そこを行き過ぎようとしたその時、俺の耳にさっと入ってきた名前に俺は反応して、振り返った。


それは、ニュース番組の生中継のようだった。

「そうですか。はい。では、その犯行声明を今、読み上げますね」

「高橋さん、お願いします」

「犯人は先ほど、読み切り新聞社に常時情報提供をしているフリーライターを通じて、このような犯行声明を流すように要求してきました… 我々は、日本伝統文化推進委員会だ。今、我々は宇宙物理学教授の立花龍虎をある場所に監禁している。今のところ教授の身の安全を保証しているが、我々は教授の多次元変動説なるものを認めていない。このような人を惑わす学説など我が国の伝統文化を脅かす物として、断固排除する。よって、教授の信奉者がいるなら直ちに教授のスマートフォンに電話してくるように。その者と我々は教授を監禁してる場所で議論によって対決するであろう。教授の信奉者は一人残らず、我々の前で教授の学説がまやかしだったと認めることになるだろう。あと、断っておくが警察関係者がこの件に関与して、妨害したらその時点で教授の命の保証はないものと思え。以上だ… フリーライターが送ってきた原文をそのまま読ませていただきました」

「分かりました。高橋さん、ありがとうございました… いやー、これは、一体どう言うことなんでしょう?

はい。吉澤さん」

「それはですねー 私も初めて耳にした団体ですよ。おそらくは… 」


俺は今、全身が凍りつくような感覚に囚われていた。

( 先生が監禁されてる… )

第27話 終わり

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