第3話 不死身の男

 目を開けるとオレは暗い部屋の中のベッドの上に横たわっていた。

 横たわるオレの足元の方から、ほんのりと明かりが差し込んでいる。

 無地の天井が見える。

 空気はやや乾燥していた。喉に唾液がへばりつく感覚がある。

 仄かに消毒液のにおいが鼻をつく。


 ああ、ここは病院かな、と思った。

 トラックにねられそうになって……というか、撥ねられたのだろうか?自分ではよく分からない。身がすくんでトラックを避けようにも身体は動かなかったのは覚えている。


――それで?

――奇跡的に助かったのか?


 頭痛がするなどの不調はない。むしろ妙に体が軽い。


 恐る恐る右手を握ってみる。

 動く。

 そのまま右腕を回してみる。

 動く。


 痛みもない。

 

 思い切って上半身を起こす。

 軽い。


 右手を見下ろす。手がある。手の下に手がある。


――え!?何これ!?!?!?


 オレはバッと後ろを振り返った。




 ベッドの上にはオレが目をつむって横たわっている。




 ベッドに頭のところに張り付けられた名札を確認すると黒のマジックで、蓮井紡希はすいつむぎと書かれている。


――……ひょっとして、死んだの?オレ。


 左手には点滴。

 口元には酸素マスク。

 その他素人にはよく分からないいろんな管に繋がったオレが見えている。


 幽体離脱か?


――しかし……


 横たわっているオレの左側に心電図らしき波形が画面に写った機械がある。

ピコン……ピコン……と緑の波形は規則正しく山を描いて動いている。

 

 オレはベッドから這い出で機械の方に近寄った。


――生きてる……っぽい?


 隣に置かれた長椅子にはコートを着たままの母ちゃんがうとうとと居眠りしている。オレが事故にあったとでも聞いて茨城からすっ飛んできたのだろう。心配をかけて申し訳ないと思う。母ちゃんのためにもオレは死んではいけないと思った。思い返してみれば、大学に入りたてのオレはまだ何にも親孝行できていない。やり残したこともいっぱいある。


――息……してるのかな?


 オレは再びベッドに横たわっているオレ自身を何気なく上から覗いた。




 瞬間――目の前のオレがカッと目を見開く。




 オレの顔をじっと見つめた後、自分で見てショックなぐらい邪悪な笑みを、にやりと浮かべて


「我は不死身ぞ…….勇者よ、我が肉体を滅ぼした報いがそれだ」


と言った。

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