第5話 学生の性

恋をしたいと思ったことはあった。

だが私には恋が解らないのだ。正確に言うのならば、恋愛感情が著しくない。


同じ部活の先輩は格好よかった。頼れる先輩だった。素敵だった。

「なら恋なんじゃないの?」

そんな同級の声は理解できなかった。彼に恋という感情は何一つ抱いていないだろう。

彼を見ても、トキメキはしない。恋人がしそうな行為を想像した途端寒気がした。これは彼に抱く感情が恋ではないことの証明だろう。

「そんなことないよ。別にトキメキはしないし」

そんな適当な言葉で交わすしかない。


恋バナも苦手だ。

訊かれときに答えることができない。

「~くんと仲いいよね?好きなの?」

なんて言われれば、正直気持ち悪くて仕方がない。そんな気持ちを抑えて云うのだ。

「そんなことないよ」

「なら、誰が好きなの」

そう、この言葉のせいで恋バナが苦手なのだ。

「別にだれも居ないよ」

なんて言えばつまんないの一言。空気を乱す、場を乱す。かといって有耶無耶にすれば、更に訊かれる。

恋愛をしてみたい。というより

「恋愛をしなければ話についていけないから、『恋愛をしたい』」



何故、だれもが恋愛して当たり前なのだろうか。自分は恋愛感情が乏しい。

だれもがそれを理解してほしいとは言わない。ただ疑問なのだ。恋愛は素晴らしいもので、誰もが経験しているものだと信じて疑わない。

対象者が同性の者をいることを考えたことはあるのだろうか。


自分は自身の性はないと考えている。

男とも女とも捉えられない。アレがあるか無いかで男女の区別を付けられはするがそれとは話が別だ。

そんな二つの種類で人間を分けることなんて難しすぎやしないか。

自分は恋愛感情も乏しい、恋する相手の対象の生物的性別さえわからない。生物的性別の自覚はあるが、自身の性に自覚はない。全くの別人に一時的になりたい。囚われたくもない。自分と云う各個たる自己も確立させたい。女性らしさも男性らしさも持つ人間になりたい。


そんな曖昧な人間もいることを実感しているのであろうか。

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