七日目

「おはようございます、ご主人様」

 ……くそ、フーたんよりも早く起きてあーんなことやこーんなことをしようと思ってるのに、いつも俺より起きるのが早い。

 今日も視界いっぱいにフーたんの顔が映ってるけど、何故か涙目だ。俺にキスされるのがそんなに嫌か?

「ああ、おはよう」

「あの……」

「心配するな。無理矢理キスなんてしないぞ」

「い、いえ。そんなことより……ここは一体どこなんでしょうか……?」

「その疑問ならむしろ俺が知りたい」

 ん? なんか思った反応と違うぞ。

 この異世界は、真っ白で何も無い空間が広がってるだけだ。ぶっちゃけ『世界』と呼ぶにはあまりにも単純すぎる。

 どうなんだ、バ神美でも誰でもいいから答えろ。

「わたくしたち、なんかとてつもなく危ない場所に放り出されたようなんですぅ……」

 どういうことだ? フーたんの布団に包み込まれてて、外の様子が全く見えない。

「ちょっと様子が見たい。布団から出たいんだけど」

「はわわ、申し訳ありません」

 あれ、真っ白い世界はどこへ行った。

 見渡す限り一面の荒野。草一本生えてない。ドス黒い空。昨日までの白い世界とは対照的な、真っ黒で陰鬱な世界。

 もしかして、世紀末的な世界に飛ばされた? 腐海ふかいに覆われた地球、ガ○ラスがみらすにやられた地球、世界が核の炎に包まれた一九九九年の地球……。ふむ、『世も末だ』と思った昨日のアレがフラグだったか。

 しかし、これで確信が持てた。俺は――

「最終決戦のときが来ました」

 バ神美ばかみ、いくら何でもいきなりすぎない?

「あなたは数々の困難を乗り越え、ここまでやって来ました」

 その説明で全ての物語をショートカットするつもりだな。

「いや、鏡を叩き割ったこと以外、何もしてないんだが……。なぁ、フーたん」

「は、はいでございますぅ」

「クウゥゥーン」

 うわっ、お前まだいたのか。狼のブランカ・リー。

「あたしの存在も忘れてもらっちゃ困る、略してあそこ」

 ブラフもいるな。

「役者は揃いましたね。今こそ、真実を説明しましょう」

 お、まじで? そんなに簡単に教えてくれるなら是非。

「私が『アマル・ガムゼーレ騎士団委員会』の委員長です」

 ……へー、そーなんだー。

「なぜ驚かないんですか」

「いや、どうせそれもバ神美が勝手に考えた設定なんだろ。仲間だと思ってたのが敵でしたって、いかにもありがちじゃん」

 全宇宙を巻き込んだ戦争スター・ウォーズ/クローン・ウォーズの黒幕が元老院議長でしたって感じ。全視聴者が知ってた。

「本気でそんなことを考えているのなら……見せてあげましょう、私の本気を!」

 それ、雑魚キャラが吐く死亡フラグだよね。バ神美、大丈夫?

「あなたにはここで死んでもらいます」

「その手には乗らないぞ。俺の妄想が次の日に現実になることは、すでに分かっているんだ。確信がある」

「……そうなんですか?」

 お前、この世界の神様じゃないのかよ。主人公に追い詰められたモブキャラみたいな顔しないで。切なくなる。

「妄想でこの世界を拡張できるなら、俺はこの世界を徹底的に作り込んでやるぞ。なんせ俺は元ゲームデザイナーなんだ」

「しかし、そんなことは関係ありません。これでも喰らいなさい!」

 うわっ、なんだこの黒くて硬い塊は!

「ちょ、待てよバ神美。そんなの当たったらまじで死んじまうじゃねーか!」

「だから、あなたには死んでもらうとさっきから言っています」

 くそ、大小様々なサイズの物体を間髪入れずに投げてきやがる。

「ご主人様は、わたくしがお守りしますぅ!」

 フーたん!? 布団で弾幕から防御してくれるのか! 助かった!

「フーたん、バ神美が投げてくるアレはなんなんだ!?」

「多分、歴青でございますね」

「歴青?」

「はい。天然のアスファルトやコールタールのことですぅ。別名『チャン』とも呼ばれます」

「連続のチャン、略してレンチャン」

 えぇ……。最早、どこから言葉が拾われてきてどう解釈されるかなんて、分かったものではないぞ。

「全然攻撃が効いてないようですね。ならば、戦術を変更するまでです」

「きゃあああああ!!?」

 今度はバ神美が何かを吹きかけてきたぞ! な、なんだ!? この黒くてドロドロで粘着質な液体は!

「多分、歴青を液化したものですぅ……いやぁ、気持ち悪い!」

 フーたんが足下をすくわれて黒い海にダイブしてしまったぞ。なんかちょっとエロい……いやいやいや、今はそんなことを思っている場合では無い!

「戦術の自由度高すぎなのずりい、略してせんず」

「クウゥゥン、クゥン……」

 くそっ、フーたんの防御が無くなって、俺のところまで歴青が流れ込んできた!

 そ、そうだ。まずは俺の妄想でバ神美の暴走を止めなければ。

「バ神美、お前は俺を殺そうとするような奴じゃない! お前は優しくてきれいだ! だから、こんなことはやめてくれええ!!」

「とどめです」

 バカ、やめろバ神美! そんな大きな歴青が当たったら、本当に死んでしまう!!

「ダーイ」

 ……うわっ、このタイミングで眠気かよ……。

 目の前に……巨大な……歴青が……。

 俺の……異世界ライフは……ここで終わってしまうのか……?

 ガクッ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る