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 帰宅した俺は、最近使用頻度が落ちていたパソコンを立ち上げると、奏先輩の死に関しての情報を片っ端から調べ始めた。


 遺体はいまどこにあるのか、第一発見者は誰か、警察の対応はどうか、似たような形での死体損壊事件は無いか……最近報道された死体遺棄事件や行方不明者情報、死体損壊とは関係の無さそうなごくありふれた通り魔事件に至るまで、とにかくここ一ヶ月ほどの間に起きた様々な事件の情報に片っ端から目を通し、奏先輩の事件に関係のありそうな要素を探す。


 昼過ぎから情報収集を始めて、つい先ほど日付が変わったのを確認した。


 収穫はほぼゼロといっていい。犯人についてはおろか、関係のありそうな事件の一つも見当たらない。奏先輩の事件の特異性が際立っただけだった。


 目の付け所がそもそも間違っているのだろうか、と休憩がてら思考を切り替えてみる。例えば、過去に発生した事件とは関係のない、全く新しい殺人鬼の被害者第一号が先輩だったとしたらどうだろうか。それなら他の事件との関連性の無さはわかる。だがもしそうだとしたら、第二、第三の事件が起こるまではネットに出回る情報から犯人を手繰り寄せるのは難しいだろう。それを待つ、などと暢気なことは言っていられない。


 自分の情報収集能力はせいぜい素人に毛が生えた程度だということは重々承知している。奏先輩を通していくつか紹介制の裏サイトなども利用しているが、自分でそれらを開拓するだけの人脈も価値のある情報に支払う対価としての情報も無い。


 それでも何かを見つけようと思うなら、奏先輩のように情報に明るい人物の協力を得るか、あるいは情報屋を頼るか。ただでさえ交友の狭い俺には前者の心当たりは奏先輩しか無い。かといって本当に価値のある情報を扱うような情報屋は、接触するのもひと苦労だ。人脈作りからやっていくだけの時間は……いや、情報屋?


 その言葉が記憶のどこかに引っかかる。そう、奏先輩がリジド・ボムの解析を依頼した情報屋がいたはずだ。確か名前は。


「神酒洲、灘女……ミキス!」


 慌てて昼間写真に収めたメモを確かめる。ミキスというカタカナと走り書きのメールアドレス。どう見ても連絡先だよな、これ。書類の下敷きだったし、あれは恐らくはリジド・ボムの一件の時に残したメモなんだろう。


 確か奏先輩も神酒洲という情報屋について「覚えとくとええことあるかもせんよ」って言ってたはず。奏先輩が俺にそうやって紹介するということは、素人だからといって門前払いされるような相手ではないはず。

 もちろん情報屋である以上それなりの対価は要求されるだろうが……それは直接尋ねるしかない。そもそも要求されるのが金銭なのか情報なのか、交換レートがどうなっているのかもわからない。


「……ダメもとで連絡してみる、しかないよな」


 メールの文面は三十分ほどあれこれ吟味したが、結局こちらの要求を簡潔に記すだけにした。情報屋と連絡を取る作法など知らないし、どのみちこちらが素人であることはバレるだろう。だったら誠意と要求を伝えるくらいしかできることはないのだ。


 とにかく、水澄奏の死について知っている限りの情報が欲しい旨をなるべく丁寧な言葉で書いて送信ボタンをクリックした。


「頼むから応えてくれよ」


 すぐに色よい返事が貰えるとは思わない。ただそれでも、無視さえされなければ可能性はあるはずだ。相手に交渉の余地があるなら、条件次第でいくらでもやりようはある。


「さて、続きだ」


 神酒洲灘女の手を借りられるならそれに越したことは無いが、最悪の場合無視されることもあり得る。自分に出来る限りの情報収集は続けなければならない。俺はモニターに向き直り、事件の調査を再開した。

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