第14話 再出発

翌朝早くには、男勢に混じって農作業を手伝うアロゥの姿があった。


長年世界中を旅して周り、色々な国や街の文化にこうして直接触れてきたというアロゥは、農作業にとどまらず、山に入れば動植物に精通し、林業から狩猟からサバイバル術まで幅広くこなし、また女たちの作業場に入れば、家事も全般、慣れた手付きで手際よく片付け、異国の珍しい料理を作りながら教えた。


さらには子どもたちの面倒見も良く、男子とは剣術ごっこや川で度胸試しの高飛び込み、女子とは野草などを材料とした帽子やアクセサリーを作り、大きな美しい花で仕上げると、そっと少女の頭にかぶせ微笑んだ。


「姉ちゃん、ヤバいよ、あの人。

さっさと結婚しちゃいなよ。

あんないい人、二度と出会えない、っていうかこの世に二人といないんじゃない?

姉ちゃんがいらないってんなら、あたしがもらっちゃおっかなー」


二日酔いで昼過ぎに目覚めてきた部屋着のキャミルが縁側にあぐらをかいてそれらの光景をぼんやり眺めていると、背後から現れた妹がアロゥに作ってもらったと思しき木細工の首飾りを自慢げに見せつけながらからかった。


「いい若者じゃのぅ……婆さんや……。

ワシもやっとこれでいつ婆さんとこに行っても惜しくは無いぞし……」


「勇者なんかやるって言い出した時にゃどうしようかと思ったが、無駄じゃなかったんだなぁ!がはは!!」


「ねぇ!またどっか行っちゃうの!?

もっと遊んでよぉ!

ずっといてもいいんだぜ!?

姉ちゃんよか強いんだろ!?

もっと本物の剣術とか魔法とかも教えてくれよ!!」


「キャミル……ここまで来たらさっさと既成事実を作っちゃいなさい。

昔からそういうとこ出遅れて損ばっかりしてるんだから」


どこもかしこも大はしゃぎで無責任なことばかり言って盛り上がっており、まぁ一人で帰ってきて延々と説教されたり、どっかの村の謎の男との祝言を無理矢理決められるとかよりはマシか、と苦笑しながらも、おかげでゆっくり一人の時間ができたわね、もしかしてそこまで考えてみんなの相手してくれてるのかしら、と遠目にアロゥの様子を伺うが、本人はそんな素振りも無く皆との交流を純粋に楽しんでいるように見えた。


そうこうしている間にあっという間に一週間が過ぎた、夜。


一人縁側で満月を眺めながら手酌で酒をすすっているキャミルの隣に、音も無くアロゥが現れて並んで座り、私にも一杯頂けますか、と自ら持ってきた木彫りの盃を差し出した。


そのまましばらく特に言葉を交わすでもなく盃を傾けていた二人だったが、やがて酒瓶が空になりキャミルが立ち上がったところで、


「明日、発ちます」


アロゥが盃に映る満月を見詰めながら、低く、しかしはっきりとした口調で言った。


「探しものは、見付かりませんでした」


「……そう」


「はい」


答えて最後の一杯を飲み干すアロゥの背に、


「……皆には私から伝えておくわね……。

二人とも明日、村を出るって」


「!」


キャミルの言葉にアロゥが顔を上げる。


「いかに強く経験豊かであろうとも、油断をかばい背を守る仲間がいなければ、たやすく危機に陥るもの、でしょう?

それに、探しものだって二人で探した方が絶対早いわ」


ほろ酔い加減で頬をほんのり赤く染めて微笑んでいるキャミルに、


「……はい……ありがとうございます……」


アロゥも笑みを返した。


そして翌朝、村中の者が惜しみ見送る中を、二人は旅立って行った。


「絶対また来てくれよな、アロゥさん!」


「や……こんな辺鄙なとこにある農村じゃ、無理して来れんじゃら、祝言上げたっちゅ手紙だけでええ、とにかくキャミルをよろしく頼みますじゃし!」


「姉ちゃん!子供作んなら早ぇ方がいいらしいぞ!!」


「背中を守るとか探しものとかさぁ、そんなかっこつけて仕事で二人旅するみたいなこと言ってないで、素直に『付き合って下さい』って言ったらぁ?」


「生意気言ってんじゃないの!

あんただって彼氏の一人も見付ける歳でしょ?」


からかう妹の鼻をつまみながら、皆に手を降った。


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