Bloody Bride [鮮血の花嫁] -とある女勇者の憂鬱-

遠矢九十九(トオヤツクモ)

第1話 酒浸りの女勇者

ザッカリアの街の片隅にある宿屋の一階の酒場で、薄暗い照明の下、宿泊客を含めたいくらかの客が各々盃を酌み交わしていた。


その中に、テーブルにもたれかかりながらちびちびと強めの安酒をすする女と、めんどくさそうに付き合っている風の二人の男の姿があった。


「あーあ……いい歳して勇者なんて……あたし何やってんだろうなぁ……。

養成所の同期のサッちゃんなんかとっくに若い賢者様とか捕まえて寿退職してるっていうのに……。

何が『ずっと一緒に頑張ろうね!絶対一緒に魔王倒そうね!』よ。

勇者デビューしてニ年も経たないうちにさっさと結婚しちゃってさぁ……裏切り者……。

ったく、婚活のつもりで冒険パーティー組んでんじゃないってのよね!

ねぇ!?」


女が顔を上げ同意を求めるように二人の男を交互に見るが、男たちは目を合わせることも無く「あぁ」「そうだな」と空返事の後に、


「明日も早い。

部屋でアズナが作戦を立て終えた頃だろう。

そろそろ行くぞ」


と立ち上がった。


「えぇー!?もうそんな時間?もうちょっと飲ませてよ……」


女は残り少ないグラスの中身を揺らすが、男たちは無言のまま立ち去っていった。


「ちぇっ、ダブル戦士なんて超強くて便利だと思ったんだけど、なんでこう戦士ってクソ真面目なのが多いのかしら……。

アズナが若いのに凄腕の賢者だから、後はとにかく強けりゃなんでもいいと思ってたのに、意外と頭使って理屈とか言ってくるからめんどくさいのよね……。

マスター!

同じのもうひとつ!」


一気に飲み干して空になったグラスを高く掲げた女が声を張ると、カウンターの大柄な髭の男が無表情のまま頷き酒を作り始めた。


その飲み続ける女を置き去りに部屋に戻った二人の戦士を、まだ十代と見える聡明そうな男子が迎え、


「おかえりなさい、バトスさん、ジューグさん。

明日のミッションとその行程決まりましたよ。

……と、キャミルさんは……またですか」


二人の背後に現れぬ女勇者の姿を探す素振りを見せる。


「あぁ……。

それはそうと明日のミッションは何だ?」


「……はい、えと、トール家の宝物ほうもつを盗んだ盗賊が、ネロマドの森にある洞窟のいずれかに潜伏しているそうなので、その盗賊及び盗まれた宝物の探索と確保です」


「そうか……ならばそれほど複雑でも無いだろう。

キャミルには後で要点だけ伝えればいいよな、ジューグ」


「あぁ、一応あれでも仕事はできるからな。

アズナ、内容の説明を始めてくれ」


「うーん、そうですね、頭も切れる人ですからね……二日酔いさえ無ければ……。

えと、では……」


ため息まじりにアズナは地図を広げ、森と洞窟の位置や盗賊の規模と戦力、それらの攻略法などの詳細かつ簡潔な説明を始めた。


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