13話:見知らぬ世界にて

「こら~ッ、風雅ふうが! なんでそんな自堕落しだらない恰好かっこうしてんのよ!」

「――ラヴ、君とは知らないなかでもないだろ? 落差ギャップえってヤツ、さ」


 なにってんのよ、は!

 部屋着へやぎ――いや寝間着パジャマ姿すがたって。

 初めて出会った時は、あんなに凜々りりしくて精悍せいかんだったのに、この有様ありさま一体いったいなんなの?

 折角せっかく大事だいじ聖凱符せいがいふ聖召石せいしょうせきを使って呼び出したのに、なんでこんな腑抜ふぬけになっちゃってるのよ。


「ナグルマンティの時はあんなに恰好良カッコよかったのに、ほんのちょっと時間いただけで、どーしてこ~なっちゃうのよ!」

「いや、ラヴ。それには理由わけがわる」

「え? なに??」

「ああ、――だって、そうだろ? あんなにも劇的げきてきわかれをしたにも関わらず、豈夫まさかこんなにも早く再会さいかいするとは、露程つゆほども思っていなかった。そうだろ?」

「た、確かにそうだけど、さ……」


 いや、まぁ確かに、それはそうなんだけど――

 でも、偶然ぐうぜんとはいえ、特定の人物を指定して召喚できるとなれば、あたしが呼ぶ勇者は当然、まってる。

 以外、いるはずがないし、かりにいたとしたって、間違いなくを呼ぶであろうこと確定的かくていてきあきらか。


仕方しかたないでしょ! 今は大変な事がきてるんだからっ!」

「ストップ、そこまでだ!」

「!? えっ? なに?」

「ここからは俺の手番ターン!」

「……はい~?」


 風雅は左手首にめた、れいの時計ってやつをながめる。

 しばらくして、重々おもおもしく口を開く。


―――...1秒、


「――おう。キミが、オレ召喚んだのか?」

ったりまえでしょ! なに云ってんのよ! あたし以外の誰が呼んだっていうのよ!」


―――...2秒、


「――俺の名は桐生きりゅう風雅ふうが。通りすがりのただの勇者」

「知ってるわよ! ナグルマンティの魔王エルケーニヒトコまで一緒に旅したんだから当たり前でしょ!」


―――...3秒、


「……――いいだろう、の世界を救おう……」

「だーかーらー! 世界を救うために召喚したの!」


―――...4秒、


「……――今後とも宜しくコンゴトモヨロシク……」

「――はい、こちらこそ……」


―――5秒、6秒、7秒...


「――……」

「……」


 ――あっ!

 変なができちゃった。

 うーん――

 言い過ぎちゃったかも。

 当然といえば当然。あたしが勝手に呼んだのにも関わらず、卒然いきなり駄目だめ出し。この身勝手みがってさ、我乍われながひどい。

 何より、可愛かわいくない。

 気を付けなきゃ。


「――えーと、ね……今回は風雅を召喚するだったから、あたし、風雅に似合いそうな服とか装備とか用意してきたんだ~」


 四次元小鞄ポシェットから服や靴、装備品、装身具そうしんぐいたまで色々いろいろ取り出す。

 風雅は一見いっけん痩身長躯そうしんちょうく細身ほそみとはいっても筋肉質フィジーク。見た目の印象とは裏腹うらはらに、結構ガッチリしている。

 姿恰好スタイルいからどんな服装でも似合にあうとは思うんだけど、やっぱりお洒落しゃれな方がいい!

 男前イケメンだから派手はでな方が似合うとは思うけど、顔立ちが良すぎて軽薄チャラい印象になっちゃう可能性もあるから、本物のほう好感触こうかんしょく

 物言ものいいは気障きざだけど身のこなしは洗練スマートだから高級品を身に付けていても嫌味いやみにはならない。

 うんうん! あれこれ調べて、考えて、取りそろえた甲斐かいがあった。ちょっと高くついたけど、まぁ~風雅に似合ってればそれでいいや♪


「――ラヴ、今、と云わなかったか?」

「え?」


 きゅうにどうしたの?

 あたし、なんか云ったっけ?


「する、と――」

? あ~、そうそう。呼ぶだったから準備してきたの」

「それはつまり――俺を、俺が召喚されることあらかじめ分かっていた、という事か?」

「えっ!?」


 表情が変わった。

 おぼえてる、この感じ。

 ――そう、魔王の居城“死屍累々ネクロニグロ”を本気でこわしにかかったころ顔付かおつき。限定リミット解除以降、魔王ドグラマグラを倒し、別れの時迄の表情。

 冷静さを通り越して冷たく燃える情熱じょうねつ息巻いきまく爆発しそうな感情を無理矢理むりやりおさむ感じ。

 端正たんせいな顔付きにしの野性やせい息吹いぶき、その証明しょうめい

 こわい――


「――う、うん。風雅を召喚するで、召喚したの……」

「……――なら、攻略クリアしよう」

「えっ!? あ、うん」


 彼の中で、なにが違うんだろ?

 世界を救うって事と、攻略する事。

 なぜ、同じような事を、強調したんだろう。


わりに――」

「な、なに?」

召喚ぶ者を特定しる方法を教えて欲しい」

「――……」

無論むろん、――攻略した後の話、だ」

「……う、うん」


 そうか――

 彼は、呼びたい人がいるんだ!

 ――想い人こいびとだろうか。

 なんだろう。

 朦々もやもや、する。


「ラヴ、早速だが、この世界の事、知っている事を教えてくれ」

「……あ、うん」


 以前のナグルマンティでは全然興味をしめさなかった世界の事を聞いてくるなんて。

 風雅、本気なんだ。

 本気で呼びたい人がいる。だから、本気でこの世界を救う、いや、攻略するつもりなんだ。

 勿論、イヲタを助ける為に来たんだから、本気になってもらえると助かる。

 ――けど、

 なんか、釈然しゃくぜんとしない。

 それでも――


「この世界の名はシャクンタラカーカ。脅度レベルファイヴ狂怖テラー>に区分される魔王が支配する世界」

「――魔王が支配する世界?」

「そう、魔王によって支配された世界の事を蝕魔界ケイオスダムドと呼ぶの。あたし達、神々の力の及ばない世界。界抑止力ワールドモラルを魔王に奪われた世界」

「――そうか、……此処ここも魔王に支配された世界なのか――」

、も?」


 も、ってどういう事なの?

 風雅はナグルマンティを救う前に99の世界を救ったと云っていた。つまり、今迄、100の世界を渡り歩いて来た事を意味し、このシャクンタラカーカで101回目の異世界に当たるはず

 ――と云う事は、蝕魔界ケイオスダムドを経験した、要は、攻略した事があるの?


「それで、此処の魔王は一体誰なんだ?」

「え? 魔王の事?」

「そうだ」

「……」

「どうした?」

「……知らない」

「――知らない、だと!?」


 分からない――

 このシャクンタラカーカに着いて、まだ、なにもしてない。

 一番最初にやった事が、風雅の召喚、だもん。


 ヨタ・ソトス様もこの世界については何も知らない。

 蝕魔界化しょくまかいかされたシャクンタラカーカという世界の存在を知り、その危険性を考慮こうりょした結果、優秀な女神イヲタを送り込んだ訳だし。

 イヲタの危機を救う為に、あたし以外に三名の女神が先行せんこうして送り込まれたのも情報がないからに他ならない。

 まずは先行した女神達と合流しなくては。


「シャクンタラカーカは蝕魔界ケイオスダムドとして発見された世界なの。だから、あたし達神々もよく分かっていないの。

 でも、先行して四人の女神が派遣はけんされているの。その内の一人はあたしの親友イヲタ。そのイヲタがピンチにおちいっているらしいの。なので、他三人の女神達と合流しないと」

「――成る程。つまり、危険、という事だな」

「……う、うん、そうね」


 あきれられちゃってるかな?

 流石さすがに、情報が、知っている事が無さ過ぎる。


「――確かに、危険そうだ」

「えっ!?」


 風雅があたしの後ろを指差ゆびさす。

 振り返ると、そこには――

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