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 ランダはシャワーを止めてバスタオルを手に取った。体を拭きながらバスルームから出てくるとスマホが鳴っていた。電話の主は、同僚のフェイドからだった。


「もうすぐ交代の時間です。現場に来てください」


 日中つきっきりで仕事をしていたからか、彼の声からは疲れがうかがえた。


「わかった、今から向かう」


 ランダは素早くタキシードに身を包み、自宅を後にした。




 彼女はパナマにあるVIP専門の警備会社「シークレットサービス」に勤めている。いま彼女が担当しているのはベン・羽鳥というパナマの大物弁護士で、グローバル企業の筆頭株主や相談役を務めており、世界経済のおよそ三分の一は彼の掌の上にあると言っても過言ではない。


 その権力を象徴するかのように、彼のオフィスはパナマ市内で最も高いパナマ・ヒルズの最上階にある。八十階もの高さを誇るパナマ・ヒルズは数多くの有名企業のオフィスが入り、ヒルズ利用者のためにジムや宿泊施設、レストランやバーなども整備されていた。


 ランダがベンの事務所に着いた時、彼のオフィスから黒のスーツに身を包んだ男が出てきた。


「彼は誰?」


 ランダは入り口で見張りをしていたフェイドに尋ねた。


「対象の知り合いを名乗っていました。しかし、対象に伝えたところそのような人物は知らないとのことだったのでお引き取り願ったところです」


「怪しいわね。ヒルズの警備には連絡しておいた?」


「はい、既に連絡済みです。以後、彼がヒルズに入るためには特別な審査と警備員の付き添いが必要になります。ただ……」


「どうしたの?」


「彼が去り際に妙なことを言っていました。『ベンに伝えておけ。動き出した、と』。いったいどういう意味なんでしょう」


「こっちが聞きたいくらいよ」


 ランダは笑顔を保ちつつも、眉をひそめた。


「この事は対象には報告しなくていいわ。それより、この後の対象の予定を確認させて」


 フェイドは懐から手帳を取り出してページをめくった。


「このあと、午後七時からプライベートの食事をかねた会合がウノオーシャンクラブで午後十時まであります。その後はヒルズに戻りオフィスにて十二時まで仕事をして

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