第3話 初夜

閉鎖病棟は頑丈に施錠されている。

そう、外から完全に隔離されている。

外に出られない、のだ。


そして、保護室。


そうだ、保護室。

と、私は入院してすぐに思った。


保護室とは、収容所のような場所で、拘束されている部屋だ。何もなくて、怖い。そんなイメージだ。

暴れたり、自殺未遂をした人が先に入れられる場所…。


そして、外から鍵がかけられる部屋…。要保護室もある。

外に出たいのに、出られない。

バンバン扉を叩く音が聞こえる。

「だして」という声が聞こえる。


私は、とんでもないところへ来てしまった、と思った。


これのなにがリフレッシュになるのか、わからなかった。


幸いにも、私は保護室に入ることはなかった。外から鍵がかかる部屋には入ったけれど、かけられることはなかった。

そこまで重症ではない、と判断されたようだった。


私は早く退院したい、と思った。


近くにあるテレビを見るリビングのようなスペースに、灰色の服を着たおじさんが座っていた。


「こんばんは」

「どうも」

「私、どうしてここに入ったのかわからないんですけど、ここ、でられないんでしょうか?」

「入院は、初めて?」

「いえ、2回目です。でも、前は5年くらい前で忘れていて…」

「俺もここに来たのは初めてだけど、もう6ヶ月くらいになるし、退院することは今のところないから、なんでもわからないことは聞いてね」

「ありがとうございます」

「大丈夫。普通そうだし、すぐでれるよ」

そう言って、おじさんは笑った。

クマさんのようだ、と思った。


すごく、安心した。


入院して1日目、私は普通の人と話せる現状に、ようやく、安心することができた。

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