第28話 湖の畔

【弘前ユウトのレベルが27に上昇しました】

【最大HPが35000に上昇しました】


 激闘の末、何とか巨大クマを倒すことができた。


「お兄ちゃん、もっと早く倒せないの……? もう腕がパンパンだよぅ……」


 カナミが膝に手をつきながら言う。


「俺だって必死にやってたじゃないか。何でカナミに文句を言われなきゃならないんだ?」


 それに対し、俺は息を切らしながら返す。

 するとミサキが間に入り、パンパンと手を二回叩いた。


「はいはい二人とも、喧嘩しない。ユウト君もカナミちゃんも頑張ったんだから、それでいいじゃない。ね?」


 まるで母親のような仲裁。

 なんて口に出したら、彼女の火炎魔法により文字通り俺は炎上するだろう。


「ごめん、カナミ。次からはもう少し頑張ってみるよ」

「うん。最前線で戦ってるお兄ちゃんが一番大変なのに、文句言ってごめんね」


 お互い謝罪し、兄弟喧嘩はギリギリ回避された。


「弾を使いすぎたわね……」


 レナは愛銃のマガジンを交換しながら独り言を呟いている。

 どうやら残弾が少なくなってきたらしい。


「あれ、もうストック無いのか?」


 声をかけると、レナは「ええ」と頷いて答える。


「あるにはあるけれど、このペースで使ってしまうと三日も持たないわよ?」

「そうか。と言っても、エアガンの弾なんてドロップしないだろうしなぁ……」


 モンスターを倒すと、時々アイテムが手に入ることがある。ただそれは、基本的には回復ポーションや解毒ポーションのようなゲーム的アイテムだ。エアガンの弾がドロップすることはまず無いと思われる。


「まあ、二つ銃持ってるんだし、上手く使い分けてやってくれ」

「私も出来る限り節約しながらやってみるわ」


 俺たちが持っている武器は折りたたみ傘、スマホ、卵、エアガン、包丁の四種類。極めておかしな装備だが、ここまでは難なく戦えていた。

 だが、卵は残り五個しか無く、エアガンの弾にも限りがある。この先は最悪の場合、折りたたみ傘とスマホと包丁というヘンテコ武器だけで戦わなくてはいけないかもしれない。


「よぉし。邪魔者もいなくなったし、早く行こうぜ」


 ヨシアキが声をあげる。


「ああ、そうだな」


 俺が首肯すると、アカリとホノカが言う。


「日が暮れる前までに湖に着かなければならない。まだ湖が見えないことを考えると、少し急いだ方がいいかもしれんな」

「そうですねっ。こんな森の中で泊まるのはさすがに怖いですっ」


 再び歩き出した俺たちは、少し速度を上げて早歩き気味で森の中を進んだ。




 日が傾き始めた夕方五時。

 湖の畔でテントを張っていると、ミサキが話しかけてきた。


「ユウト君、また缶詰になっちゃうんだけど、飽きてない?」

「いや、俺は全然いいけど?」

「でも、ずっと缶詰っていうのもあれだし……。お湯を沸かせればもう少しバリエーション増やせるのになぁ……」


 ミサキが缶詰を見つめながら呟く。

 すると、横にいたヨシアキがストレージウインドウを開き何かを取り出した。


「広尾ちゃん、ほれっ!」

「わっ」


 ヨシアキが放り投げた物をミサキが何とかキャッチする。

 見てみると、それはコンビニで売られているような100円ライターだった。


「これで火をつけられるだろ?」


 ドヤ顔をするヨシアキ。

 しかしミサキは困った表情を浮かべ、ライターを投げ返した。


「ん? 火が欲しいんじゃねぇの?」


 首を傾げるヨシアキに、ミサキは言いにくそうに口を開く。


「……あの入谷さん、私が欲しいのは火じゃなくて、火をつける物です」

「あっ、そっちかぁ……」


 ヨシアキは気まずさを感じたのか、ゆっくりと後ろに下がる。

 ミサキは火炎魔法が使えるので火を起こすことは容易だ。必要なのは木の枝葉のような着火させる物。


「じゃあ、俺がその辺から拾ってくるよ。ヨシアキ、テント頼む」

「お、おぅ……」


 俺はテントの設営をヨシアキに任せ、程よい枝を探す。

 湖の畔は石が転がっていて、少し歩きにくい。

 だが、幸いそれなりに枝が落ちていたので素材集めはスムーズに進んだ。


「ミサキ、これくらいでいいか?」

「うん。ありがとう、ユウト君!」


 集めた枝を地面に並べる。

 ミサキはスマホを取り出し、魔法を発動させる。


「火炎魔法!」


 ゴアッと音を立て、枝に着火する。


「やったぁ!」


 ミサキが喜びの声をあげる。

 これで缶詰以外の料理も作ることが可能になった。


「もしかして、キャンプファイヤーですかっ?」

「夕飯を作るだけだろう」


 メラメラと燃え盛る炎を見て、ホノカとアカリが近寄ってきた。


「キャンプファイヤーか。夕飯作りの為だったけど、それもいいかもしれないな」


 俺が言うと、ホノカは嬉しそうにぴょんと跳ねた。


「本当ですかっ? ふふっ、夜が楽しみになりましたっ」

「おう、出し物考えとけよ」

「だ、出し物っ、ですかっ……?」


 悪戯っぽく笑いかけると、ホノカは顔を赤くして走り去ってしまった。


「ホノカは人前に出るのが苦手だからな。とりあえず私も説得はしてみるが、ホノカがやるとは思えん」

「分かった。難しいと思えば無理に説得する必要は無い。判断はアカリに任せるよ」


 アカリは「承知した」と頷き、ホノカを追いかけていった。


「ますます観光気分になっちゃうね」


 ミサキが微笑みを浮かべつつ、ストレージから食材を選ぶ。


「そうだな。でも、モンスターにさえ気を付けていれば、楽しむのもアリじゃないか?」

「うん。ずっと気を張ってたら疲れちゃうし、ストレス発散だね」


 その時、ヨシアキの叫び声が聞こえてきた。


「うあぁぁぁっ!」

「何だ!?」


 急いで声のした方へ向かうと、ぺしゃんこになったテントと立ち尽くすヨシアキの姿があった。


「おい、まだ出来てなかったのかよ」

「仕方ねぇだろ? やったことねぇんだから」


 俺はため息を吐き、テントの設営を手伝う。


「まだそんなことをやっているの? 他にもやることが沢山あるのだけれど」


 ヨシアキの様子を見にきたレナが呆れた様子で呟く。

 俺とヨシアキは慌ててテントの設営を終わらせ、次の作業へと移った。

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