第29話 夏祭り&ギアフェスティバル その①


「ハルカ、あんたお盆はどうしてる? 時間あったらでいいんだけどさ、ちょっと手伝って貰えるとありがたいんだけど」


 ヒデヨシ商会の朝日さんからそんな頼み事をされたのは、二度目となるローラーダッシュ付きギア練習の時だった。朝日さんってのは秀吉店長の奥さんで、ガチムチ系の美人さんである。まだ20代だからアタシ的には頼れるお姉さんって感じなんだよね。


「えーっと、お墓参りくらいだけど、お墓近所なんですぐ終わるし、それ以外は特に予定ないかな。行けますけど、何の手伝いですか?」

 朝日さんにはいろいろお世話になってるし、手伝ってお返しができるならいいチャンスだ。


「ウチの地域の夏祭りなんだけどさ、今年はちょっとしたギアのイベントやって盛り上げる事になってんだよね。で、ウチの店も協力するわけ」

 

 朝日さんの説明によると、今までも夏祭り会場でギアを展示したり、デモンストレーションで動かしたりってのはあったらしい。それが好評だったんで、じゃあ今年はもっと大々的にやろうって事で、前々から準備を進めてたんだそうだ。既にネットで告知もしてるし、全国からギア愛好者がわんさか来るだろうって事だった。


「まあ、車好きが集まるイベントとかあるじゃん? あんな感じかな。それぞれ自慢の愛機を披露したり、ステージでギアの一芸やるコンテストがあったり、そんでメインは社会人チームVS学生チームのギアホッケーの試合なんよね。当然、屋台も結構出るし」

 ギアホッケーって、そのまんまギアでやるホッケーなのかな? それはともかく、面白そうだな。

「いいですねぇ。で、具体的にアタシは何をすればいいんですか?」

「ウチにあるギア5台全部出すんだけどさ、それぞれ展示と、初心者体験操作と、デモンストレーションに、ギア貸し出しってこれだけやるんだよね。だからその手伝いでギア運んだり、展示中の監視とか、まあ、やる事はいっぱいあるよw」

 因みに秀吉店長はイベントスタッフとして他の裏方仕事で忙しいらしい。朝日さんとアタシだけでそれだけの作業を回せるんだろうか?

「他に助っ人もいるけどさ、まあ結構ギリギリなんだw」

 おそらくスタッフの数も充分とは言えないんだろう。人手はひとりでも多く欲しいって思いが見て取れた。

「わかりました。じゃあ、巧とウチの部長も引っ張って来ます」

「そりゃすごく助かるけどいいの? あんたら忙しいんでしょ?」

 ガンマの製作が遅れてる事を知ってる朝日さんは、敢えて巧にはこの事を知らせなかったんだろう。すごく気を使ってくれてるみたいだった。

「いえ、どうせお盆は休む事になってましたから。多分、大丈夫だと思います」

「そう? じゃあ、無理しない程度にお願いするわ」


 

 という訳で巧と直虎に連絡すると、どちらもOKって事だった。天草は部員じゃないから頼むか迷ったけど、巧が参加する以上、誘わないと逆に恨まれるからなあ。一応聞いてみたら案の定自分も手伝うって言うんで、結局G同好会+オマケの天草というメンバー総出での仕事となった。もちろん、バイト代とかは出ないボランティアではあるけれど、祭というだけでなんだかワクワクするな。



 8月13、14日は皆それぞれ実家で過ごしたようだった。唯一、巧には家族がいないからどうするんだろ?と心配してたんだけど、今お世話になってる人と巧の両親のお墓参りに行ったらしい。って事は、今お世話になってる人ってのは、遠い親戚か何かかな? プライベートな事だから聞かないけど。




 そして8月15日、夏祭り&ギアフェスティバル当日がやって来た。



 始発電車なんて言う初めての物に乗り、祭り会場へ到着。また皆でワイワイと騒ぎながら……ではなく、皆眠そうにして電車に揺られてるだけだったな。

直虎なんか大口開けて爆睡してたしね。まあ、今日はかなりハードな1日になりそうだから、体力温存してて正解かも。

 

 ちょっと郊外にある、割と大きな神社とその周辺がお祭り会場となり、それに隣接する広大な広場がギアフェスティバルの会場となっていた。神社に続く境内に屋台がずらりと立ち並び、いかにも昔ながらのお祭りって感じなのとは対照的に、ギアフェスの方は全国から集まったギア愛好家達の自慢のギアが立ち並ぶという、何とも未来的な風景が広がっていた。最新のピカピカなパイギアや古くて年季の入ったデルタ、奇抜な塗装が施された物、元の形がわからないほど改造されたモノ、果ては昔アニメで見た版権ガン無視のロボの姿まであった。こうなると最早カオスである。


「うわっ! めっちゃキレーな初期型デルタがある!」

「巧くん! ほらあれ! ガ○ダムがいるよ! すごいなぁ!」

「ホントだw 無理やり改造感ハンバねぇww 直虎さん、あっちにはマ○ンガーZみたいなのがいますよw」

「はははっ、絶対誰かやると思ったねぇww」

 そんな混沌とした風景も、このギア馬鹿の二人の目には天国の様に写っているらしい。興奮具合ハンパなく、ほっといたら端から端まて見て行きそうな勢いだった。こんなにはしゃぐ巧の姿はある意味貴重だけど、今はゆっくり見てる暇はない。

「ほら、朝日さんが待ってるから行くよ!」

 と、キツめに言いつつ引きずっていく。


 駐車場の一角にヒデヨシ商会のでかいトラックが止まっていて、朝日さんが荷物を降ろしているところだった。

「ああ、おはようハルカ。巧も来てくれたんだね。そっちの二人は初めましてかな?」

 朝日さんとは初対面の直虎と天草が挨拶をする。直虎の顔がやけに赤いんだけど、さては朝日さんに見惚れてるな? 朝日さんてば、野性味溢れる美人さんだもんね。こういうのがタイプとは意外だったけど、人妻ってわかってるよね?

 

「みんなありがとうね、すごく助かるよ。じゃ、早速仕事を割り振っていくね? えーと、まず巧はギア初心者の操作体験指導をやってもらおうかな。巧はギアのB級ライセンス持ってるから問題なくできるでしょ?」

 朝日さんのその言葉に、

「えっ? B級ライセンスって⁉ えぇ――――⁉」

 と、素っ頓狂な声を上げたのは天草である。

「ちょっとアンタ、なに馬鹿みたいな声出してんのよ?」

 ってアタシが聞くと天草は、

「だってB級ですよ⁉ B級‼」

 と、また叫ぶように言う。

「ん? だからそれが何よ?」

「朝倉さん、B級ライセンスがあるとね、プロの試合に出てもいいってことなんだよ」

 割って入ってきた直虎が、そう教えてくれた。

「えーっ、そーなの⁉ ならほとんどプロじゃん?」

 アタシも思わず叫んでしまう。

「別に試合に出れるってだけであって、実際出る訳じゃないですよ? B級は便宜上取っただけですから。それに俺はプレイヤーじゃなくて作る方でのトップを目指してますからね」

 そう言い切ってしまう巧が何とも大物に見える。

直虎アンタ、全然驚いてないけど知ってたの?」

「いや、僕も初耳だよ? でも、今更何聞いても驚かないよ。だって巧くんだもの」

 と、まるで俺Tueeee系異世界物のテンプレギルド受付嬢みたいなセリフを吐く直虎。コイツ、すっかり達観しちゃってるなあ。まあ、こんな規格外の男と一緒にすごしてたらこうなるか。それに巧がなんで頑なに秘密主義なのかわかった気がする。この男はスペックが高過ぎて周りと釣り合いが取れないんだ。周りとバランスを取る為に自然と、隠し事が多くなっていくだけなんだな。ラノベで最強な主人公が目立つのを嫌がるってよくある設定がどうも納得できなかったけど、今やっと納得できちゃったよ。

 

「でもさ、プロなのに高校の試合とか出ちゃっていいわけ?」

「だからプロじゃないですって。B級持ってたって高校の公式じゃない試合ならたぶん……おそらく…………一応ややこしくならないように秘密にしといて下さい」

 ほら、また秘密が増えた。


「はいはい、先進めていい?」

 アタシらのやり取りを楽しげに眺めてた朝日さんが言う。

「あ、すいません。どうぞ」


「うん、じゃあ直虎くんだっけ? 君はデモンストレーション頼めるかな? 簡単な動きを見せてくれるだけでいいから」

「はい、わかりました。やらせて貰いますポッ

 だから朝日さんに見つめられただけで赤くなるなよ。

「えーっと、天草さん? あなたは屋台の助っ人頼みたいんだけど」

 神社のお祭りの方はプロの方々が店を出してるんだけど、ギアフェスの方はボランティアの人達が一部、店を出してるらしい。そこでカキ氷やらを売るってわけだな。

「販売の方ですね。了解です」

「ありがとう。さて、ハルカはこれに着替えてくれる?」

 朝日さんになにやら紙袋を渡された。イヤーな予感がしつつ中を見ると案の定、際どい派手な衣装が入ってた。モーターショーなんかでコンパニオンが着そうなヤツだ。

「……なんすか、これ?」

 まあ、着ろって事だよね。わかってるけどさ?

「よく知らないけど、旦那がどっかから仕入れて来たみたいw。それ着て展示してるギアの横でニコニコしながら立ってるだけでいいってさw」

 うわあ、やっぱりか。安易に手伝うって言うんじゃなかったなあ。

「これ、着ないとダメ? だいたいなんでアタシなんです?」

「そりゃあんた、映えるもの。そのスタイルでおまけにJKの初々しさとかあったらもう、利用するしかないでしょ?、って旦那が言ってたw」

 くっ、あの店長エロ親父がっ!

 うーん皆の手前、無下に断ったりできないよなあ。ううっ、ハメられた。


「へえ、格好良いい衣装じゃないですか。ほら、でっかい日傘みたいなのもありますよ? 観念したらどうです?w」

 と、天草がニヤニヤしながら煽ってくる。

「そんなに着たきゃ、アンタが着たら?」

 思わずそう言ってしまい、慌てて口をつぐむ。やばい、今これ系の話題はコイツに禁句だった。案の定、凍った笑いを貼り付けた天草が睨んでくる。

「へえ、あたしがこんなの着たら大変な事になっちゃうじゃないですか〜。それ本気で言ってます?(笑)」

 コイツ、例のウォータースライダー乳出し事件以来、相当根に持ってるな。

 笑顔がめちゃめちゃコワい。

「わかった、わかりました。アタシがやりますってば」

 あ〜あ、まさかこんな事になろうとは……。



  ◇



 スタッフ用の黄色いジャンバーを渡され、みんなそれぞれバラバラに持ち場へと向かって行った。アタシもトラックの中で着替えてから薄いスタッフジャンバーだけ羽織って展示場へと向かう。このジャンバー取ったら際どい三角ビキニに下はツヤツヤのセクシーなショートパンツだ。できれば脱ぎたくないなあ。


 展示場には秀吉店長が待っていた。

「おお、待ってたよハルカちゃん。うん、やっぱりスタイルいいねえ」

 上から順に下りていく店長の視線がいやらしい。

「あんまりガン見してると朝日さんに言いつけますよ?」

「うっ、そりゃ勘弁してよ?」

 流石に朝日さんには頭が上がらないらしい。ギラギラした目の光がたちまちに消えた。いや、効果てきめんすぎるでしょ? どんだけ嫁さん怖いんだよ。


「ま、とりあえずハルカちゃんはこのギアの横でニコニコ笑って立って貰えればいいから」

 そう言われても笑顔なんて出来るかなあ? なんか顔ひきつるような気がする。それにしても、綺麗なギアだなあ。


「これゼータですか?」

「そーだよ。最新型のゼータ。かっこいいだろ?」

 その漆黒のギアに見覚えがあった。いつもガレージのポスターで毎日目にしていたギア。ユイ姫がCMで乗ってた、プロ仕様の機体がこのゼータだ。思えばこのゼータを操るユイ姫に憧れて、こんなところまで来てしまった。カドワキグループの広告塔でもある彼女がコマーシャルしてたギア。その機体を人々にアピールする役を今日、仰せつかった。ほんの少しでもアタシはユイ姫に近づけただろうか?


 これがあるって事はカドワキグループもフェスに協賛してるって事か。どおりで田舎のイベントにしては規模が大きい訳だ。

「このギアの説明とか求められたりしません? アタシ、全くわかんないですよ?」

「いや、モーターショーとかじゃないんだから、それはしなくていいよ。まあ、君の連絡先とか聞かれるかもだけどw」

 いや、マジ勘弁してよぉ。


 結局ざっと説明だけしといて、店長は他のブースへ行ってしまった。まだ朝早くてお客さんもいないからひとまず待機して、お客さんが増えて来たらキャンペーンガールの真似事をしなくてはならない。めっちゃ不安だ。お客さん来ないといいのに。いや、それはそれで困るけど。


 そんな思いとは裏腹に、日が昇るに連れてぞくぞくと人が集まってきた。他のメンバーはちゃんとやってるかなあ? ここからだと、人とギアが多くて確認できない。


「あの……写真いいですか?」

 ボーッとしてたら、突然呼び掛けられてびっくりしてしまう。見ると、カメラを持ったいかにもマニアそうな高校生くらいの男の子がいた。

「は、はいっ、どうぞ!」

 邪魔にならないようにと端に寄ると、男の子は暫くアタシの顔を何か言いたげに見た後、カシャカシャとゼータを録り始めた。

 暫くした後、またアタシを見ながら

「あの……お姉さんも入って貰えます?」

 と、言ってくる。なんだ、邪魔しないようにって避けたのに、アタシが入ってもいいのか。

「あの……ジャンバーを……」 

 ああ、ジャンバーも脱げって事か。うう、イヤだけど仕方ない、ええいっと脱ぎ捨て、ややひきつった笑顔でゼータの横に立つ。

 カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ……


 おいっ!連写になってない? さっきまでと撮る勢いが全然違うじゃん!?

 つか、その角度じゃゼータ入んないんじゃないの? ゼータを撮れよ!? なんでアタシだけ撮ろうとすんだよ? って、うわっ! いきなりカメラ小僧たちがなんで増えてんの!? どっから湧いてきたんだよ? はぁ? こっちに目線下さいだぁ? ポーズ取れだぁ!? お前らコスプレイヤーと間違えてないか――っ!? だから、超低アングルから狙ってくるな―――っ!?






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