からっぽ記憶のサンタクロース

人の焼き肉で金食いてえ!!!

旅立ちのしんりょく

 えんとつのない家が増え、ところによるとサンタクロースの存在に疑いを向ける人たちも増えてきているらしい。


 雪解けも始まり、大きな倉庫にぎゅうぎゅうに詰められていたプレゼントは跡形もなく消えていた。この冬卒業していくお爺さんたちが倉庫の前で記念写真を撮っていたのがなんとなく寂しくて、今でも覚えている。


 よく見知ったお爺さんたちがまるいテーブルの上でうんうんと困りごとを共有して分かち合っているところを見るのもこれで五回目になる。


 サンタクロースの村、なんて呼ばれ方で噂されているちいさな町。見習いサンタクロースを卒業し、晴れてげんえきサンタクロースになった小さな男の子くんが物珍しそうに会議に参加して、話の意味はわかっていないものの、適当なタイミングでうんうんと首を縦に振っていた。


「困ったものだ。みんな見えない何かを恐れている」


「見えない先のことばかり考えていて、昔のやさしい気持ちを失っているんだ」


「子供サンタクロースくん、きみはどう思うかな」


 いきなり話を振られて少年はどきりとした。それでも、自分はみならいサンタクロースではなく、ほんもののサンタクロースになったのだと言い聞かせてお爺さんたちのやさしい視線を受け止めながらゆっくりと口をひらいた。


「きっと、みんな、忘れ物をしちゃったんです」


「それはどういうことだい?」


「みんなが忘れちゃった、だいじなものを、かえすことができるなら、きっと、やさしいにもどれるとおもうんです」


 たどたどしい様子をここでは誰も叱りつけたりせず、妙案だと逆ににこにこして受け入れた。お爺さんのひとりはしかし、うんうんとまた悩み始めた。その様子に少年はまたどきんと胸が鳴った。何か悪いことでもあったのだろうかとしんぱいそうな顔つきで。

 それを見たお爺さんはすこしビックリしたような顔をしたが、すぐに木造りの家をふるわせるくらい豪快に笑って頷いた。それは少年を認めているようで、もやもやとした不安を消しさる温かい笑い声だった。


「いやいや、子供サンタクロースくん。きみはとってもかしこいね。サンタクロースはひとときの夢をあたえるだけだと、おれは考えすぎてしまったようだ。きみのかしこさは過去の優しさを取り戻すための光になるだろう。どうだ、みんな。子供サンタクロースくんに優しさを配る手伝いをしてもらうというのは」


 右から左から、それはいいな、さんせいだ、ひとりたびは楽しいぞぉという声が上がった。出発は雪が解け山並みがきれいな緑に染まる日に決まった。


 もうすぐ、お爺さんたちと離れてしまう。それは少しだけ嫌な気持ちがした。さびしい気持ちもした。けれど、それ以上にサンタクロースの絵本に描かれたたくさんのきらきらした笑顔とふわふわとしたやさしい心と触れ合うことができるなら、最初の一歩を乗り越えてみようと勇気を歩みに変えることだってできる気がする。



 なんたって、ぼくはサンタクロースなんだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る