第17話「暗殺者アリッサ・ビーデルの葛藤(前編)」

 愛里彩ありさは思う。


 世界ってつくづく愛里彩ありさを中心に回っている。


 紫門ゆりかどさんに、ある男をはめてくれと頼まれた。


 成功すれば、小金沢グループ所属の大手事務所でソロデビューさせてくれるという。


 ふふ、ついているわ。


 アイドルグループ【LASH】は今秋メジャーデビューが決まってはいるが、売れるとは限らない。抜群に可愛い愛里彩ありさはともかく、他メンバーの容姿はたいして美人ではないから。私の足を引っ張って、失速する可能性は十分に考えられる。


 その点、小金沢グループ所属の大手事務所からデビューすれば、間違いはない。


 愛里彩ありさのルックスに、小金沢グループのバックがつくのよ。


 夢が広がる。未来が想像できるわ。


 愛里彩ありさは、トップアイドルになれる。


 そして、老若男女すべてのファンが愛里彩ありさの美しさに感動し、褒めたたえるの!


 そのためにも今回の【遊び】も絶対に成功させなきゃね。


 紫門ゆりかどさんから渡されたターゲットの顔写真とメモを確認する。


 メモには簡単なプロフィールと住所が記載されてあった。


 名前は、白石翔太。歳は十七歳、南西館高校の二年生。江戸川区在住。


 ふ~ん、南西館高校って進学校よね。紫門ゆりかどさんも通っているみたいだし……。


 なるほど。


 顔は平凡だが、馬鹿ではなさそうだ。ただ、自信なさげな表情でわかる。お勉強はできても、女の扱いは苦手ってタイプかな。


 ふふん、モテない童貞君って感じね♪


 童貞君をからかうのも面白いのよね。


 いつもはさえないおじさんばかりだけど、今度はどんな風に遊んであげようか?


 後で美香と打ち合わせしておこう。


 翌日……。


 いつものやり方で、いつもどおり行い、童貞君をはめてやった。


 楽しい、楽しすぎる!


 童貞君は「やってない、俺じゃない!」と必死で叫んでいた。


 美香は、小遣い稼ぎにこれをやっているが、愛里彩ありさは違う。


 うちのパパは会社の重役だし、お小遣いをたくさんもらっている。お金に不自由はしない。


 愛里彩ありさの目的は趣味だ。


 おじさん達が必死に弁解する姿もおかしかったけど、童貞君の慌てた様子もウケたわ。


 私にデレデレだったのに、急に手のひらを返した時の童貞君の顔といったら!


 絶望に満ちた顔をしていた。


 あぁ、楽しい。


 世の中には、こんなにまぬけがいるってわかるだけで、身がゾクゾクする。


 あの後、童貞君どうなったかな?


 警察に連れてかれてたし、退学は確実よね。


 紫門ゆりかどさんが執拗に目をつけていたし、実刑判決受けちゃうかも?


 キャハ!


 可哀そう。本日の運勢は大凶ね。


 あ、違うわ。一瞬とはいえ、私のお尻に触れたんだもの、大大吉よ。ただ、一生の運を使っちゃたみたいだけど。


 ふふ、他人の不幸ってなんでこんなに楽しいんだろう。今日もぐっすり寝れそうね。


 家に帰宅する。


 自分の部屋に戻ろうとすると、妹の加奈がいた。


 黒髪を無造作に下ろし、寝ぐせもつけたままぼさぼさだ。分厚い眼鏡をかけ、ヨレヨレのティーシャツを着ている。


 あいかわらずのブスだ。


「ブ~ス、化粧ぐらいしたらどうなの?」

「……」


 妹は、ボソボソと何かを呟くと、無視して二階に駆け上がっていった。


「無視かよ」


 成績だけ・・はいいけど、女として終わってる。趣味はパソコンのオタク女。夜中遅くまで起きて、パソコンで何やらカチカチ打っているようだけど、何が楽しいのやら?


 まぁ、あんな根暗女よりも、紫門ゆりかどさんよ。


 紫門ゆりかどさん、約束守ってくれるかな?


 ううん、そんな弱気じゃだめ。


 タダ働きは、絶対に嫌だ。どんな手段を使ってでも守らせる。それこそ身体を使ってでもね。


 私の処女……できるだけ高くつり上げたかったら今まで守ってきた。


 そろそろ頃合いね。


 小金沢 紫門ゆりかど


 資産数十億とも言われる小金沢グループの御曹司。成績優秀でスポーツマン。ルックスもモデル級だ。


 顔、地位、能力、どれを取っても一級品で超絶可愛い愛里彩ありさに相応しい男と言える。


 紫門ゆりかどさんと付き合い、抱いてもらう。


 ただし、できるだけもったいぶって愛里彩ありさの虜にしてからだけどね。




 ☆ ★ ☆ ★




 紫門ゆりかどさんからの報酬を期待しつつ、家に帰宅すると、童貞君こと白石翔太が家の前で待ち構えていた。


 童貞君は、生意気にも愛里彩ありさを脅してきた。


 被害届を撤回しなければ、愛里彩ありさの悪事をばらすと言う。


 愛里彩ありさには、天下の小金沢グループの紫門ゆりかどさんがついている。一介の高校生が何をわめこうが無駄だ。


 憐れね。現実がわかっていない。


 それにしても、愛里彩ありさを脅すなんて許せないわね。童貞君には、少しばかりお仕置きしてあげよう。


 土下座させて、いつものように靴を舐めさせようとしたら、直に足を舐めたいなんて言ってくる。


 くっくっ、本当に男ってバカだ。


 いや、愛里彩ありさが可愛すぎるのが原因よね。


 どんな男も愛里彩ありさの魅力で骨抜きにされる。


 さぁ、とことん舐めなさい。愛里彩ありさに逆らえない従順な犬にしてあげるから。


 そう愉悦に浸っていたら……油断した。


 まさか童貞風情が愛里彩ありさに噛みついてくるなんて夢にも思わなかった。


 髪を強く引っ張られ、髪の毛が抜けた。舌まで出されておちょくられもした。


 許せない。


 愛里彩ありさは、愛里彩ありさをコケにする奴を絶対に許しはしない。


 あの童貞には逃げらたが、住所は把握している。


 自宅に乗り込んであることないこと吹聴してやる。二度とその町に住めないように、隣人、家族、全てを巻き込んでとことん追い詰めてやろう。


 怒り心頭のまま、乱暴にドアを開け家に入る。


 どんどんと足音を立てながら、洗面所に向かう。


 まずはあの童貞にやられた頭の傷を鏡で確認する。


 愛里彩ありさの美しさは、一片たりとも損なってはいけない。早急に調べないと。


 洗面所に到着すると、ブスがいた。


「ブス、どきなさい」

「……死ね」

「あら、美しいお姉様に対する態度じゃないわね」

「……ドブス死ね」

「よほどしつけをしてもらいたいようね」


 今の愛里彩ありさは超不機嫌だ。


 いつものように優しく言葉だけでは済まさない。


 カバンからスタンガンを取り出し、ブスに向ける。


「ふふ、五十万ボルトくらってみる?」


 バチバチと電流を流しながら、ブスの顔にスタンガンを近づける。


 ブスは、スタンガンに驚いたようで慌てて道を譲ってきた。


 そうそう。常にその態度を心掛けなさい。


 ブスを肘で押しのけ、洗面所の鏡で髪を引っ張られた部分を確認する。


 う、うそ……。


 頭皮が赤く腫れていた。


 ずきずき痛みもある。


 うまくケアしないと部分的にハゲるかもしれない。


「あ、あ、あぁああああ! くそぉおおおぉ、やろうがぁあああ!」


 思わず大声を上げた。


 洗面所に置いてあるコップや歯ブラシ、歯磨き粉を投げまくる。


 はぁ、はぁ、はぁ、ゆ、許さない。


 愛里彩ありさの美貌を傷つける者は、だれであろうと許しはしない。


 愛里彩ありさの人脈をフルに使って、とことん追い詰めてやるから!


 白石翔太、地獄に落としてやる!


 憤懣やるせなくその日はベットに入り、眠る。


 


 ★ ☆ ★ ☆




 目が覚めた。


 知らない天井……いや、知っている天井だ。


 頭がボーっとする。


 私は……誰?


 愛里彩ありさ、アリッサ。


 おもむろに頬を触る。濡れていた。夢で涙を流していたらしい。


 夢?


 あれは夢なのか? いや、夢というにはあまりにもリアルすぎる。


 アリッサは、スラム育ちの孤児だ。


 陽のあたらない、カビの生えた場所で育った。そこは一日太陽が差し込まず、常に湿気と冷気に脅かされていた。


 配給の食事も家畜の餌だ。それも、毎日食べられるかは運次第。そのまずい餌目当てに同じような浮浪者に襲われるからだ。


 周囲をびくびく気にしながら、カビの生えたパンを急いでかきこんだ。


 そんな状況である。


 数日食べられないなんてざらであった。


 いつもお腹が空いていた。いつも不安で怖かった。


 しかも、スラムは害虫がそこらじゅうにいた。そんな栄養状態が悪い中で刺されたら死ぬ。


 寝床を確保するのも必死だ。害虫を払い、ボロボロの布切れにくるまって寝る。


 ひもじく寒い地獄のような生活だ。


 銅貨数枚を巡って、殺し合いの喧嘩もした。人買いに追いかけられたこともあった。


 屈強な男が剣をかざしながら容赦なく襲ってくる。


 必死で抵抗した。


 あらゆる手段を講じて抗った。生きるために騙した、盗んだ、殺した。


 殺しては逃げ、逃げては殺した。


 こんな過酷な環境ではいつか死ぬ。間違いなく死ぬはずなのに、アリッサは生き残れた。


 救われたからだ。


 誰に?


 うぅ、頭が痛い。


 これって……いわゆるあれよね? 漫画やドラマでよくある話だ。


 前世の記憶が蘇ったとか?


 い、いや、ありえない。そんな非現実的な事が起きるはずがない。


 夢だ。う、うん、夢。


 嫌な夢だった。


 人を襲い襲われる毎日。


 髪は乱れ、服に返り血が大量に飛んでいる。


 生々しかった。


 殺戮を切り抜けるごとに、全身が血まみれで、その血の匂いでむせ返りそうになった。


 気持ち悪い。


 水でも飲んで落ち着こう。


 台所に行き、蛇口をひねってコップに水をくむ。


 透明で透き通った水だ。


 ごくごくと喉を鳴らしながら水を飲み、喉を潤す。


 お、美味しい。すごく美味しい。


 さらにもう一杯水を飲む。


 ぷっはぁああ!


 最高!


 スラムでは、上質な水を飲むなんてありえなかった。ボウフラの浮いた水があればいいほう。水たまりの泥水をすすって生きてきたのだ。


 蛇口をひねったら、美味しい水が手に入る。


 な、なんて贅沢なの!


 い、いや、何を考えているのよ。


 私は、スラム育ちではない。


 夢よ、夢。


 ……シャワーでも浴びて頭を落ち着かせよう。


 夢で全身が血まみれだった。血を洗い流すつもりで念入りに洗おう。


 お風呂場に行き、シャワーを浴びる。


 頭をごしごしと洗う。


 気持ちいい。


 シャワーの後は湯船につかる。


 バスタブ一杯にお湯をはり、肩までつかるのだ。


 あぁ、気持ちいい。


 こんな温かい水で身体を洗えるなんて夢みたいだ。


 スラムでは、身体を洗うお風呂なんて贅沢は考えられなかった。せいぜい濁った川の水で汚れを落とすぐらいだ。それも汚く臭い水でだ。鼻をつまみ悪臭に耐えながら洗う。冬なんて悲惨だ。あまりの寒さに手足が凍りそうであった。


 はぁ~最高♪


 風呂から上がり着替えを済ませると、窓を開けた。朝の涼しい風を感じた。


 いい空気……。


 深くゆっくり呼吸をする。


 平和だ。


 目を瞑り、鼻歌を歌いながらまどろんでいると、台所から母の呼ぶ声が聞こえた。


 朝食の時間だ。


 席に座る。


 食卓には、パン、ソーセージ、ベーコンにサラダと目玉焼きがあった。いわゆる洋食スタイルである。


 すごい豪勢だ。ピザまである。


 スラムでは考えられなかった食事だ。


 ごくりと生唾を飲み込む。


 こんなご馳走を食べていいの?


 震える手で箸を取り、カリカリのベーコンを口に入れる。


 ジューシー! 舌に肉汁の旨味が染みわたった。配給の家畜の餌とは天と地ほどの差がある。


 美味しい、美味しい、美味しいよぉ!


 無我夢中でベーコンを食べ終わると、次に、パン、ソーセージを口にいれる。


 はむ、はむ、はむ、ごぐっ、はぁ、はぁ、美味い、美味い。


 あまりの美味しさで涙が出てきた。


愛里彩ありさちゃん、どうしたの? そんなに急いで食べると身体に悪いわよ」


 母が心配そうに訊ねてきた。


「あ、あ、ごめん。あまりに美味しくて、つい」

「まぁ、珍しい。いつもはダイエットしてるって、あまり食べないのに」


 母が目を丸くして驚いている。でも「美味しい」と言われて、まんざらでもなさそうだ。


「はっはっは、いいじゃないか。無理なダイエットはよくない。愛里彩ありさ、パパの分もいるか?」


 父が自分の分のビザを分けてきた。


「た、食べる」


 食欲が止まらない。こんなのいつもの自分じゃないとわかっているのに止められないのだ。


「もうパパの分は、冷めてるじゃない。それは捨てましょ。新しいのを用意してあげるから」


 母がそう言って、ビザを捨てようとする。


「いや、捨てないで! もったいない、もったいなさすぎるよ」

「で、でも、愛里彩ありさちゃん、冷めたピザは美味しくないわよ」

「いい、いいから。それを食べる」


 強引にピザをもらって食べる。


 はぁ、はぁ、美味しい。


 チーズとサラミの香ばしさが食欲をそそる。ふんだんに使った香辛料、色とりどりの具材。


 これは、美味しすぎる。


 多少冷めていようが、それがなんだというのだ。スラムでは、カチカチに凍って腐ったパンだってかぶりついていたのだ。


「ふふ、愛里彩ありさちゃん、そんなに食べてブタになっても知らないわよ」

愛里彩ありさならブタになっても可愛い。大丈夫だ」


 父と母が微笑みながら話す。


 お父さん、お母さん……。


 うぅ、うぅ。


 食べていた手が止まる。


 スラムでは考えられなかった。


 ずっと独りだった。食事をするのも命がけだった。


 私には両親がいるんだ。


 こんなに美味しくて、こんなに安全で、こんなに温かい食事ができるなんて……私はなんて果報者なんだ。


 ぽたぽたと涙がこぼれてくる。


 嬉しくて幸せで涙が止まらない。


「あ、愛里彩ありさちゃん、急にどうしたの?」

愛里彩ありさ、どうしたんだ? なにがあった?」


 急に泣き出した私を見て、両親が身を乗り出して心配する。


「あ、あ、つい涙が出ちゃった。あまりに幸せだから……はは、何言ってんだろ、私」

愛里彩ありさ、驚かすな。いじめにでもあっているんじゃないかって心配したぞ」

「パパ、女の子は情緒が不安定になる日もあるのよ。愛里彩ありさちゃん、今日は学校を休みなさい」

「あぁ、ママの言うとおり休みなさい。そうだ。気分転換に買い物でもしてきたらどうだ? 父さんが小遣いをやろう」

「えっ!? いいよ、いいよ」

「なんだ、いつもの愛里彩ありさらしくないぞ。ほら、遠慮するな」


 父が小遣いとして、五万円を渡してきた。


 いつもはもらって当然とばかりに何も感じないのに、今日は違う。


 心苦しい。父が汗水働いて得たお金だ。


「そんな大金もらえない」

「いいから取っておきなさい」

「ううん、私は十分にもらっている。だから、それはお父さん自身で使って。いつも大変なんだから、お母さんと一緒に美味しい物でも食べてよ」

「あ、愛里彩ありさ!? うぅ、お前からそんな風に言ってもらえる日が来るなんてな」

「パパ、子供は成長するものよ。愛里彩ありさちゃん、ママも嬉しいわ」


 父が感激して号泣している。母も泣いていて、目頭をハンカチで何度も押さえている。


 結局、両親があまりに感動するから、これ以上遠慮するのも悪いかと思い、もらった。


 増額されて渡された十万を持って台所を出る。


 私、どうしちゃったんだろ?


 階段を上っていると、妹の加奈がいた。


 加奈は、夜遅かったようで今起きたようだ。


 妹……。


 スラムでの生活だと考えられない。


 私には両親以外に妹もいるのだ。


 独りではない。


 私達は、姉妹なのだ。


 急激に加奈に対して、愛おしさがこみあげてくる。


 私の妹、加奈。


「あ、おはよう」

「……」


 手を上げて笑顔で挨拶をするが、加奈は無視して階段を下りていく。


「あ、待って――」

「それ以上、近づいたら刺す」


 加奈がポケットに忍ばせていた小型のナイフを向けてきた。


 その眼は家族に向ける眼ではない。


 私は、これを知っている。


 夢で見たスラム住人のそれと一緒だ。憎悪と嫌悪が入り混じった感情、敵を見る眼である。


 加奈……。


 自業自得という言葉が突き刺さる。


 今までの私の所業を思えば、加奈の行為は当然だ。


 嫌われるに決まっている。


 今まではそれでよかったのに、今はそれがすごく悲しくてせつなくなる。


 加奈ちゃん、ごめん、ごめんね。


 見送る加奈の背中に謝り続けた。


 加奈が行った後、部屋に戻る。


 ベットに行き、枕に顔をうずめた。


 私、本当にどうしちゃったんだろう?


 あれは夢、夢のはずなのに……。


 時間が経てば経つほど、脳内に前世の記憶がどんどん洪水のように注がれれてくるのだ。


 私は、アリッサ。


 天涯孤独の暗殺者だった。スラム育ちの殺し屋。金で雇われ平気で人を殺す。


 貴族を呪い、王を呪い、国を呪い、生きとし生ける者を呪った。この世の全てを根絶やしにしてやろうと、悪鬼羅刹に落ちるところを救われた。


 誰に?


 誰に救われたの?


 ……

 …………

 ………………


 そうだ。


 ショウ様だ。


 ショウ様に私は救われた。ショウ様のおかげで人間として生きることができたのだ。


 私に人としての心を、あたたかなやすらぎを与えてくださった。


 会いたい。


 ショウ様に会ってお礼を言いたい。


 あぁ、思い出す。


 凛々しく優しい。私の敬愛するご主君を。


 そうだ。何を迷っていたのだ。


 私は、私は……関内 愛里彩ありさではない。


 スラム育ちの暗殺者。フェイス・ホワイストの剣にして盾、アリッサ・ビーデルだ。


 あぁ、ショウ様に会いたい。


 会いたい。


 ショウ様?


 ショウ様はどこ?


 あっ!?


 白石 翔太!!


 昨日までの愛里彩ありさとして生きてきた記憶と混ざり、冷や汗が出る。


 私なんてことを、なんてことをショウ様にしでかしたのだ!


 大恩あるお方に非道の振る舞い。


 頭を勝ち割り、腸をえぐり取っても許されない大罪を犯してしまった。


 いますぐ自害してショウ様にお詫びを――いや、その前に、私は自分がしでかした不始末の贖罪をしなければならない。


 すぐさま私は鞄に入れてある携帯を取り出し、電話をかけた。

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