彼女(ヒロイン)は小学生

ブリル・バーナード

第1話 俺とJS

 

 高校に入学して一カ月がたった。

 俺、狭間結理はざまゆいりはようやく一人暮らしにも慣れ始めたところだ。

 俺が通う露利田ろりた高校は実家から少し遠かった。

 流石に、毎日片道二時間かかるのは大変だったので、俺は両親を説得し四月から一人暮らしを始めたのだ。

 まあ、実家でも家事を手伝っていたから、それほど苦労はない。

 部活に入っていない俺は、帰りにスーパーに寄って、買い物を済ませてから帰宅した。

 ちょっと新しいアパートの二階の角部屋が俺の部屋だ。

 階段を上がって二階へと上がる。

 すると、ドアの前に佇む一人の少女の姿があった。


 あれは……お隣さんの八尺瓊やさかにのさんの娘さん?


 俺と同時に引っ越してきたお隣さんのことはよく覚えている。

 まず、苗字が珍しかった。

 八尺瓊なんて八尺瓊勾玉以外で初めて聞いた。

 一発で覚えたね。

 まあ、漢字は全然覚えないけど。特に三文字目が難しくない?

 そして、母親がとても若くて綺麗だったのを覚えている。

 いつ産んだの!?ってくらい若々しくて綺麗だった。

 引っ越しの挨拶をしてくれた時、思わず見惚れちゃったし、部屋に戻ってから無言でガッツポーズをしてしまうくらい美人だった。

 その八尺瓊さんの娘さんが、赤いランドセルを背負って、部屋のドアの前でポツーンと佇んでいる。

 流石に放っておけなくて、俺は少女に声をかけた。


「どうしたんだ? 部屋に入らないのか?」

「………」


 少女は不審そうな視線を俺に向けたが、すぐに隣に住んでる俺だと気づいたようだ。

 綺麗な瞳がすぐに涙でウルウルになる。


「あのねっ………か、鍵が……鍵をね…」


 言いたいことはわかった。鍵を家に忘れてしまったのか。

 可愛そうに。母親が仕事に行ってしまって締め出されてしまったのか。

 ちなみに、八尺瓊さんは父親はいないらしい。

 所謂シングルマザーだ。

 俺は自分の部屋の鍵を開けると、ドアを開けて泣きそうな少女に問いかける。


「なら、俺ん家に来るか? お菓子とかゲームとかあるぞ」

「でも……知らない人について行ったらダメって……」


 うん、良い教育をされているみたいだ。

 賢そうな少女に安心した。


「俺は知らない人じゃなくてお隣さんだから大丈夫だろ」

「でもでも………お兄さんはロリコンかもしれないし……」

「俺はロリコンじゃねぇ!」


 思わず声を荒げて反論してしまった。

 泣きそうな少女はビクッと身体を震わせて、怯えたように後退る。


「じゃあ、ペドファイル?」

「誰がペドフィリアの性癖持ちだ! 俺はノーマルだつーのっ!」


 またもや声を荒げて反論してしまった。

 ひぃっと少女が怯えて身体をガタガタと震え始める。

 今にも大声で泣き叫びそうだ。

 今少女に泣かれたら、俺は犯罪者みたいに見えるから止めて欲しい。

 俺はガックリと肩を落として、泣きそうな少女に問いかける。


「お母さんはいつ帰ってくるんだ?」

「………もう帰ってこない」

「いつも一人か?」

「………うん」

「寂しいか?」

「………ちょっとだけ」


 なるほどな。シングルマザーのお隣さんは、頑張って働いているんだろうけど、娘を一人にしているのか。

 俺は屈んで少女と同じ目線になる。


「じゃあ、お兄ちゃんとお友達になろっか。お友達の家なら大丈夫だろ?」

「………うん! 大丈夫!」


 二パッと笑うランドセルを背負った少女。

 一気に警戒心を解きすぎじゃありませんかね?

 なんか俺、猛烈に犯罪者になった気持ちがするんだが。

 でも、このまま家の前に放り出しておくことはできないし、何もしなければ大丈夫………のはず。


「さあ、どうぞー」

「お邪魔しまーす!」


 元気よく室内へと入っていく少女。

 ランドセルを置いて、手洗いうがいを始める。

 えらいなこの少女。本当にしっかり者だ。

 俺も手を洗い、飲み物の準備をし始める。


「えーっと、飲み物は何がいい? あれっ? そう言えば名前を聞いてなかった」

八尺瓊美和やさかにのみわ。小学三年生」

「美和ちゃんね。俺は狭間結理はざまゆいり。高校一年」


 ソファに座っている少女へと俺も自己紹介をする。

 しかし、返ってきたのは冷たい声と、小学生にあるまじき力強い瞳だった。


ワタシをちゃん付けするな、ユイリ。敬意を込めて様付けしろ。だが、特別にさん付けで許してやろう」

「はっ? 美和……ちゃん?」


 俺は思わずポカーンと口を開ける。

 俺と少女の他に人はいない。ということは、今の言葉も少女の口から出たものだろう。

 というか、さっきまでの年相応の幼さが消えて、幼女なのに威厳とカリスマを感じるのは何故だろう?

 少女が呆れたように、やれやれ、と首を振っている。

 何この大人っぽい仕草? 妙に似合ってるし。

 はぁ、とため息をついて、威厳の籠った鋭い視線を向ける少女が口を開いた。


「もう一度言ってやろう。ワタシをちゃん付けするなと言った。三度目はないぞ、ユイリとやら」


 ………………この少女は一体何者?

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