第10話 好きです

<株式会社ライズ 企画3課 ~午後 もちろん仕事中~>


『大人の余裕を見せてやる!』とは言ったものの・・・

正直俺にはそんな余裕は無い。

今もどうやって小島さんを誘おうかを考えるだけでもう必至だ。

"告白するのにいつもの居酒屋でいいのか?"

"おしゃれなお店の方が良かったりするのか?"

"そもそも俺ってお付き合いを断って飲み友達にならなかったっけ?"

 ・・・

あんまりのんびりしてると小島さんから誘いのメールが来てしまうかもしれない。っていうか最近呑兵衛横丁ばっかりでおしゃれな店とかわからないぞ俺。


「・・・課長。美香のために色々と悩んでくれるのは嬉しいんですけど声漏れてますし、一応業務時間中ですし、もう少し仕事しましょうよ」

「え!声漏れてた?やだ恥ずかし!」

「可愛くないですから・・・むしろキモイです。というより悩まないで普通に誘えばいいと思いますよ」

(やっぱり別れさせた方が正解だったのかしら・・・)

「そ そうか・・・そうだよな。わかった仕事に戻るよ」


そうだな。変に気取って誘うんじゃなくて自然体の方がいいよな。

それじゃこんな感じで、


[小島さん いつも誘ってもらってばかりなので今日は僕の方からメールさせて頂きます。今晩また例のお店で如何でしょうか?]


送信っと。さぁどうだ!返事くれるか!


・・・


ま まぁ時間的に彼女も学校で授業してるんだろうし即レスはさすがに無いよな。

西村ちゃんにも叱られたし、少し仕事しないと。


[ピコン]

ん?って早!返事きた!!今時間的に授業中とかじゃないのか?

先生が授業中スマホとかいいのか?


[喜んで!]


「西村ちゃ~ん!!」

「はいはい わかりましたから・・・」


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<川野辺高校 ~5時限目 数学~>


「は~い 教科書の45ページだけど、期末試験で正解率低かったからもう一度説明するよ」


今日は期末試験後の特別授業。テストの返却や答え合わせと解説などを行っている。私もようやく昨日頑張って採点が終わったので、今日は試験の返却と解説を行っているわけです。

『これがなかったら多分昨日も相良さん誘ってたかなぁ~』

『会いたいなぁ~』

などと授業と関係ないことを考えつつ黒板に問題や計算式を書きこんでいく。


「はい じゃぁ田辺君。この問題を前で解いてくれるかな。試験では正解だったから自信もってやっていいよ。あっ計算式も書いてね」

「はい」


この生徒、2年生からの編入だけど数学ほぼ満点だったのよね。

他の教科も成績良かったみたいだけど他の子も見習ってほしいわ・・・


[ピポン]

ん?メール?

普段授業の時は職員室の引き出しにスマホをしまってるんだけど、今日は昼に梨花から電話があったのでしまうのを忘れてポケットに入れたままにしてたんだっけ。

『って相良さんから!!! それも飲みのお誘い!もしかした私の会いたいって願いが通じた!!!』

思わず叫びたくなっちゃったけど流石に授業中。

冷静に冷静に・・・うぅ~返信したい。


「先生出来ました」

「ん? あぁありがとう。え~と」


と相良さんのメールに動揺しつつも田辺君が黒板に書いた計算式と回答を確認。


「うん。正解ね。この問題はね。あんまり考え過ぎると逆に間違いやすくなるの。

 田辺君の回答の様にシンプルに公式に当てはめれば解けるのよ。ということで、この公式は有用だから覚えといてね。それで、次だけどさっき配ったプリントの問題をやります。類似問題だから誰か当てるからね。時間は10分。それじゃ"始め"」


と生徒に問題を解かせる間、私は教卓に座り、机の陰でこっそり短いメールを送った。


[喜んで!]


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<川野辺駅前 ~夕方 呑兵衛横丁~>


「こんばんわ小島さん」

「こんばんわ。今日は誘っていただきありがとうございます」

「いえいえ。いつも誘ってもらってるし、俺から誘っていいのか悩んですけど今日は何だか小島さんに会いたくなりまして」

「えっ私にですか? う 嬉しいです!!!」


満面の笑みで答える小島さん。

よし。喜んでくれたってことは少なくとも俺の事が嫌いではないんだよな。

西村ちゃんも言ってくれた通り好意は持ってくれてるんだろうし、今日は思ってる事を素直に言おう。変に気取るのは俺らしくない。


そして、いつもの他愛にない会話を楽しみ日付の変わる時間帯。

大体いつもこの時間帯でお店を出て彼女をマンションまで送ってお開きだ。


「じゃぁ、そろそろ時間ですし店を出ましょうか」

「はい」


俺は勘定を済ませると小島さんを伴って店を出た。


歩きながら俺は小島さんに話しかけた。


「ねぇ小島さん。小島さんは今日みたいに俺と飲んでて楽しいですか?」

「え?はい凄く楽しいですけど、相良さんは違うんですか?」

「いや。俺も楽しいですよ。ただ、俺みたいなおっさんとで楽しいのかなと」

「もう!前にも言ったじゃないですか、年齢とか気にしませんって。相良さんと飲んでると落ち着くし楽しいですよ私は」


何だか嬉しいな。そう言ってもらえると。

少し酔いもあるのか、俺の横を楽しそうに歩く小島さんは少し頬が赤らんでいた。


「俺も小島さんと飲んでると何だか落ち着くというかもっと一緒に居たいとか思っちゃうくらい楽しいです」

「な 何だかそう言ってもらえると嬉しいですね♪」

「・・・・・」

「ん?どうかしましたか?」

「小島さん。前に俺と付き合うって言ってくれた時、俺にはもったいない様な言い方をしちゃったけど・・・・もし嫌じゃなかったら俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」

「ふぇ!わ わたしとですか!!!」

「ええ 俺はあなたの事が好きです」

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