第2話 送ります

書斎という名の趣味の部屋に引きこもり、彼女がシャワーを終えるのを待っているが、どれくらい時間がたったんだろう。


[コンコン]

「あの、シャワー出ました」


ノックの後、女性の声が聞こえた。


「あー今行きます」

ドアを開けリビングに出ると、かわいらしいワンピースを着た女性がいた。

最初に見たのが裸って言うのもだけど、見惚れる位に可愛い女性だ。


「あの〜どうしました?」

「あ、いや、何でもないです。そ そういえばお腹空きませんか?」


いい歳したおっさんが見惚れてたとか言えないよな。


「はい。ちょっと空いてるかもです」

「じゃ何か作りますよ。料理得意なんです。座って待ってて下さい」

「でも、何だか申し訳が、、」

「気にしないで下さい。好きでやってるだけなんで。 後、食事したら川野辺の駅前までお送りしますね」

「ありがとうございます」


と俺は冷蔵庫から卵とパン、野菜を取り出し、手早くフレンチトーストとサラダを用意した。


「簡単なもので悪いけど」

「いえ。凄く美味しそうです。お料理上手なんですね」


微笑みかけてくる彼女。いかん!惚れちゃいそうだ。


「ええ。一人暮らしも長いので、最近は本やネットで調べて色々と挑戦してるんですよ」

「へぇ凄いですね。私、料理とか苦手で何だか恥ずかしいですよ・・・」

「いいんじゃないですか?食べる専門でも。作る側からするとおいしく食べてくれる人が居ると張り合いありますからね」


別に嘘じゃない。一人で自分用に食事を作るよりは、誰かに食べてもらえた方が嬉しいんだよな。


と女性は急に真面目な顔になった。なんだ?


「あの相良さん。私、あなたに謝らないといけないんです」

「俺に?なんで?」

「さっき、私あなたに処女奪われたような言い方をしちゃいましたけど、もしかしたら何もされてないかもしれないんです」

「ん どういうこと?」

「さっきシャワー浴びたとき、あらためて自分の体を見たんですが、その・・・体液というかそういうのが全然付着してなくて」

「なるほど。確かに"してたら"俺や君の体液とかでべたべたしてそうだしな。だとしたら、本当に良かったですよ」

「良かった?」

「若い女性を家に連れ込んで裸で一緒に寝てたのは俺も反論の余地はないですが、あなたの大切な初めてをこんな冴えないおっさんが奪ってたら謝っても謝り切れないですからね」

「そ そんな・・・」

「それに彼氏さんとかも居るんでしょ?俺も彼氏さんに恨まれたくないしね」

「か 彼氏なんていません!」

「そうなの?そんなに可愛いのに」

「か かわいい・・・・ですか?」

「ん? あぁ俺は可愛いと思いますよ」

「あ ありがとうございます・・・」


何だか顔赤くして照れてるな。褒められるの慣れてないのかな?


「ご馳走様でした。美味しかったです」

「お粗末様 じゃ駅前まで送ってくから支度してくれ」

「はい。ここって駅から遠いんですか?」

「歩きだと15分くらいかな。本当昨日はどうやって帰ってきたのやら」


本当謎だよな。俺一人ならともかく彼女も一緒とか・・・


彼女が荷物を持ったのを確認し、マンションを出て隣の駐車場に向かった。

[マツダ サバンナ RX7]

某漫画で登場したけど、その前から俺の憧れの車だ。給料をためて数年前にようやく程度の良い車体を購入できた。古い車は中々いい個体がないんだよな。


「古いしあんまりカッコいい車じゃないけどな」

「そんなことないですよ!RX7ですよね。私はカッコいいと思いますよ!」

「そ そうかな!」


自分の愛車を褒めてもらえると何だか嬉しいな。

助手席のドアをあけ、彼女に乗ってもらい、ゆっくりと発進させる。

駅までは車なら5分と掛からない。

彼女とももうすぐお別れだ。

こんな若い子とは接点もないし、この先会うことはもうないかもな。と考えているうちに川野辺駅前に到着。俺はロータリーに車を付けた。


「何だか、変な出会いだったけど、お互い酒には気を付けような。特に君みたいな可愛い子はね」

「・・・・」


あんまり長く話してるのもな・・・


「じゃ気を付けて!」


と運転席に座りエンジンを掛けた。


「あ あの!」

「ん ?」

「私ひとりじゃ危ないみたいなんで、今度一緒に飲みに行ってくれませんか?」

「え?俺と」

「はい。だから連絡先交換してください!」


と恥ずかしいのか少し頬を赤らめてる。


「あぁ俺みたいなおっさんでよければ喜んで」

俺も少し照れて顔が赤くなってたかもしれないな。


とお互いのスマホを出し連絡先を交換した。

『小島 美香』さんか・・・

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