第4話 依頼報酬

ヨトギによればミトミ商店の番台に座るお婆さんには、不思議な洞察力があるらしい。


私が入店してからの諸動作を注視し、サキイカを注文するまでの時間や、反応、表情からその人の境遇、切迫性を判断する。資格なしと判断されればもれなくサキイカを購入でき、即帰宅となるケースもあるらしい。


サキがないよと言われた場合でも、この地下室に招かれないパターンもあるようだ。人生に絶望した中でも希望があれば生きたいと願う心が、遊び心に現れる。頼りにした者からの助言を素直に聞けるか、反抗するかを問わず、這ってでも生きたいと願う心が僅かでも残されているか否かを見極めているそうだ。



見かけによらずヨトギは丹念に説明をしてくれる。その話しぶりだけでも信頼に足る男だと感じてしまう。私がこの場所にきた理由にも熱心に耳を傾けてくれた。会社の倒産、アマカゼのこと。話題はついに具体的な依頼内容に至った。



「ソノハタさん、あなたは顧客情報の奪還とアマカゼへの制裁、それを望んでいるということで良いのでしょうか?」


「はい。会社の信用さえ取り戻せたなら、まだ私が浮かび上がれるチャンスがあると考えています。アマカゼが卑劣な手で私の会社を貶めた事実を世に知らせてほしいんです。」


「制裁の内容は?私に任せるということでしょうか?」


「具体的な希望はないんです。私自身手一杯だと言うこともあります。ただ元凶たるアマカゼを許すことはできないんです。」


「分かりました。それではあなたからいただく報酬に見合った分、活動させていただきます。期日は確約できませんが、進捗状況や確認事項があればこの携帯電話機に連絡します。肌身離さず持ち歩いてくださいね。」


ヨトギは真っ黒なスマートフォンをソノハタに手渡した。


「ところでヨトギさん、私には資産と呼べるものがありません。会社で保有していたボロ小屋が残っていますが価値がないと見なされた程度のものです。肝心の報酬というものが…」


「冒頭にあなたがアマカゼに盗まれたと言っていた製品の加工技術、非常に興味深いものがあります。ここには私の活動を支えてくれる技術士官がおりますので、ぜひその技術をその者に伝授していただけないでしょうか。営利目的での使用はあり得ない次元で研究に没頭する変わり者です。いかがですか。」


「誇れるほどの技術ではありませんが、そんなことで良いのであればこちらからお願いしたいくらいです。」


「分かりました。それではこの契約書にサインを。私は暗闇に埋もれた光を救います。その光を輝かせるのはあなた自身であることを忘れないでください。」


そう、まだ私の窮地は変わらない。ヨトギの言葉を精一杯噛み締めて筆を走らせた。

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