ユリの花は風に揺れる

宏江さなえ

出逢い

第1話 迷子です。

風が吹くと何故か胸の奥がざわつく、

どう表現したらいいのか分からない感情なのだ。

ただ、ひとつだけハッキリと浮かぶ思い。


「行かないと早く逢いに行かないと…」


そしていつも「誰に?何処に?」と自問自答に

なるのだから変な話だ。とにかく遠い場所だと

いう漠然とした感覚、行きたいのに行けない場

所なのだろう。物心ついてからだが最近忘れて

いたのに今日の風は全身をざわつかせて仕方な

かったのだ。


深いため息をつき頭を振る。

ダメダメ、今日は何もかも忘れて遊びに来たの

に何昔の何かに囚われているの、そう日常から

離れて楽しむ為に来たのに。


「かーさん!先に行くよ〜」

「待って私も先に行く!」


「二人とも待ってたら」


いつもの強いけど心地よい風にまた気持ちを連

れて行かれそうになるが二人の子供の声に呼び

戻されて、一つ息をつき微笑んだ彼女は束ねた

黒髪を揺らして後を追う。


強く優しい風はただの風だった。

でも、誰かの想いが風の中から離れずに吹き続

けそして何故か彼女の元に来るのだ。


…いつか……

いつか、逢えたら…二度と離さない…。


…二度と、離れない……。


風の中で聞こえる言葉は小さくて、やがて消え

て行く何度も呟く様に風が吹いて行くが一体誰

の想いなのかは分からない。

秋の心地良くも強い風はただただ吹き続けるだ

けだった、強く優しく変わらず遠い遠い時から

変わる事なく吹き続けていた。



……


ああ・・・うるさい・・・


遠くから近くから騒がしい声が響く。

頭が痛いから静かにして欲しい、

気持ち悪い…。

たまらず身体を横にすると「うっ…」

と呻き声が出るほどの痛みに頭を抱えた。

なんでこんなに頭がいたいの?

身体中も痛いしどう言う事?

ようやく眼を微かに開けたが妙に眩しく感じ

手をかざし目の焦点が合うのを待った。


…あれ?


視界の端に見える景色はと手の甲から視線を

ゆっくり動かし周りを見るレンガ?石壁?

薄暗い場所だが脚先が明るい。

ゆっくりと上体と頭を動かし周囲を確認した。


ここはもしかして路地?

私は路地裏に転がっているの?

慌てて起きようにも全身の痛みに呻く。


「たったたっ、痛い、なんで痛いの?

なんで、路地裏?」


混乱しながら声に出し、痛みも逃がそうとして

身体中をさすって違和感を感じる。

何だろうと少し考えてポンと浮かんだ単語は

「テーマパーク」

そうだ!そうだ、テーマパークに来たんだ。

ハロウィン、そうハロウィンのイベントを

見に遊びに来たはず…。

でも、何故ここに路地に転がっているの?


分からない…なぜ?…


急に言い知れぬ妙な不安にふらつきながら

壁に掴まりながら立ち上がった。

路地裏から見える明るい先には大勢の人が

行き交っていて賑やかだった。


顔立ちを見て今日は外国人が多いのかな?と

見渡す何となく黒髪の人があまり見えない。

いや頭髪を染めてる人が多いのかなと首を傾

げてしまう、服装も何だか変だなと思いつつ

も地図看板あるよね、と人混みの中に入って

いった。



人混みの中ゆっくりと建物を見ながら人の流

れにそって歩いて行くが目に入る景色が綺麗で

頭や身体中の痛みさえ和らぐほどだった


中世ヨーロッパ風なのかな?

それにしても本格的だ。まさかこのレンガ

全部積み上げてはいないよね?

と思うほど本格的なのだ。


今時の型抜きのブロックの出来栄えに驚く

石畳みもデコボコと時代感がリアル過ぎて

躓きつつ、クレームの心配をしてしまった。

映画のステージが何とか言ってたけど

作り込みの執念を感じる。

ランプに看板らしき物どれも海外の何処かの

街でありそうで、いまその街を歩いている様

で感動してきた。


そう考えると、ふと周りの人達の服装は街の

雰囲気に合わせた衣装なのではと気付いた。

まさか、皆んな貸衣装?それとも何かのイベ

ントアシスタント?なんじゃ…。そんな列に

紛れ込んでしまったのかもしれない、この中

じゃ浮いても仕方ないがチラホラ視線を感じ

て申し訳なくなる。


ですよね…シャツにジーンズじゃ雰囲気ぶち

壊しと自分の服装を改めて見て、

あれ?コートとストールが無い!寒いじゃな

いと今更気づいて身を縮めながら列から離れ

ようと道の端を歩き早くインフォメーション

探さなきゃと足を早めていた。



随分歩いたけど、

一向に地図看板すら見当たらない。

飲食店らしき看板は幾つもあるが一向に分か

らない単語で読めない。

何語かしら英語の様なそうでないようなと眉

間にシワを寄せながらカナとか意味とか日本

語書いてよと呟いてしまった。

まあ、今時は調べなきゃ分からない外国単語

の名前を付けるから仕方ないかと思いながら

も歩いていたが…

何故、ランプが全部電球じゃないとか食べ物

の匂いアルコールの匂いが強過ぎて、段々と

違和感が膨らんで止まらなくなってきた。


自分も周りも何かオカシイ…。

立ち止まりもう一度周りを見渡し気付いた。



そう、一日中遊びたいと朝早く出発したはず。

家からテーマパークまで車で数時間だ……。


今はどう見ても夕方だ、

夕陽が沈んでいってる…。



私は今迄どこでどうしてたの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る