第13話 夢の夢

私が意識を取り戻すとそこは、どこかの宿で、私は布団の中で眠っていたらしい、部屋には誰もおらず私一人だった

「どこに行ったのだろう?」

急に不安になった、頭が混乱し始めてその場で落ち着いてなんていられなかった、知っていたはずの物を忘れてしまったようなそんな気持ちになった

布団から立ち上がり部屋を出て階段を降りた、すると薄い桃色の浴衣を着ている可愛らしい女性がいた、身の丈はわたしと同じくらいで、小さい手を前で組み足音を出さずに足を引きずるように歩いていた、

「こんばんは」

可愛い女の子は微笑みながら丁寧にお辞儀をして再び前を向いて歩き始めた

「すいません」

彼女は肩をびくつかせ走って逃げてしまった、私は一人だと会話がうまくできない、そして少し落ち着いたので、部屋に戻って小さな机の近くにある椅子に座った

「紙ないのかな」

私にできることがわかっているなら、補えば良いだけだ

「時雨?」

正方形のメモの右下に“時雨”と小さく書かれていた、私はそばにあったペンとメモを持ち再び部屋を出た。

宿の中を回って先ほどの女性を見つけた肩を叩き、紙をわたして読んでもらった、

“私は声が出せないのですが、あなたの頭に話しかけられます”

彼女は文を読んで私を見た、まるで図鑑をまじまじと見るように、そして少し距離をとって口を動かした

「先ほどはすいませんでした」

深々と頭を下げて丁寧に謝ってくれた、私は再び紙に文字を書き始めた、ワクワクした感情を抑え切れず文字は少し雑になってしまった

“もう喋って良いですかと“

彼女は少し緊張した顔で頷き、私はとうとう口を開いた、

「初めまして」

できるだけ弱くでもちゃんと伝わるように声を出した、小さな虫が逃げないように戦略を立てて捕まえるのと似ているものがあった

「こんにちは」

彼女も小さな声で見えない糸の距離を測っているみたいだった、それから私たちはだんだんと声を大きくして遂には普通の声で喋られるようになった、彼女はこの館の女将さんをしているらしく一人で接客をしているらしく、自分の刀の能力を使って楽しく生活をしていると言う

「見習い武士さんですか」

廊下を並んで歩きながら話していた、壁には見事な睡蓮の絵が飾れている、下から光を当てられていて朝日を浴びているみたいに綺麗だった、廊下を歩けば歩くほど壺や綺麗に保存されたかなり古い水墨画など止まって見たくなるものばかりだった、そしてふと女の子から耳打ちされた

「あなたはここから出て行ったほうが良いです」

始めて自分の失ったもので理解してもらえた人から言われた言葉だ、私は急に焦り出した

「私を始めて理解してくれた方です、何か大きな理由があるのでしょう」

彼女は何も言わずに歩き始めた、何か様子がおかしい、彼女の前に行こうとすると何もないはずなのに壁があって前に進めない、彼女は口ではなく念で話した

「先に“鬼“がいます、静かにしていてください」

私は話を信じて呼吸を薄く、静かにした、廊下の向こうにいなかったはずの“鬼”

らしき生き物がいた、それはかなり筋肉質で私から見て左手には大きな刀を握っている、戦ったとしても勝てるかどうか分からない

「この方はまだ“未熟”です」

私たちは鬼とすれ違って前に突き進む、すると突然鬼が振り向き刀を抜いた、すると彼女は私の手を取って走り出した

「私の能力は空間を作り出すことです」

そう言って彼女は目の前に空間を作り出して中に入った、向こう側は真っ暗で何もなかったが鬼に襲われるよりましだ、そう思って中に入った

「ここは緊急用の空間です、鬼にあんなに早く見つかるとは思いませんでした」

彼女はおもむろに火打ち石で松明に火をつけながら喋り始めた、中は人が二人寝られるか寝られないか位の小さな部屋なのだが、天井がやけに高く、一メートル位の螺旋階段が上まで続いている、天井が見えない、壁には無数の本が並べられていてとってもワクワクした

「あなたの名前を聞いてもいいですか?」

彼女は振り返って私の顔を真剣に見つめて声を出さずに言った、ゆっくりはっきりと、その瞬間は何もかもが止まった、だが私の心臓は飛び跳ねた恐怖とも興奮とも言えるこの感覚、鳥肌が立ち、呼吸が荒く自分の心臓の鼓動がはっきりと鼓膜に伝わった

「そうなんですね」

彼女は何故ここにいるのか分かった気がする、それほど強烈で強靱な名前だった、彼女は私の手を取って床を蹴り見えない天井へ連れて行ってくれた

「ここは緊急の空間です、そんなに長居できません」

ぐんぐん天井へ向かっていく、そし天井にはつかなかったが、止まった

「私が連れて行けるのはここまでです」

そう言って彼女は自分の刀を出し空間を切り“出口“を作ってくれた

「早くあなたの仲間を助けてあげてください」

彼女は悲しい顔をして私の背中を押すように空間に入れた

「あなたも一緒に行きませんか?」

私は彼女の手を取ったが彼女はそれを振りほどき、私は空間に吸い込まれてしまった、私は締まりつつある彼女と私の通路を見ると彼女は笑っていた

「また今度会いましょう」

私に念で伝えてくれた、私はその言葉を胸に刻み自分の仲間達を助けるべく空間の先へ進んだ


* * * * *


気づくと私は刀の中のベッドの上にいた、あれは夢では無いと思いたかっただが条件がそうさせてくれなかった、

「みんなは!」

ベッドから飛び起きその場で瞑想を始めた、外の情景がだんだんと頭に入ってくる、私は蝕月に装備されていて、蝕月、紫狐さん。我呪さん、風さんの順で横に並んで繁華街を歩いている、ここが“刃の宮”か、私は早速蝕月と話をした

「蝕月聞こえる?」

蝕月は前を見たまま返事をした、そして蝕月から風さん達にアイコンタクトで連絡をした、三人とも喜んでくれた、嬉しいな

「体調はどうだ?」

風さんと紫狐さんにはとっても迷惑をかけた、もしいなかったら私は今よりもひどくもしかしたら死んでいた、私は感謝の気持ちと一緒に喜びの気持ちを伝えた

「大丈夫です、迷惑をかけました」

風さんと紫狐さんは涙ぐんでそれを手で拭き取っていた、本当に一緒に来てもらえて良かった、人は時に怖くなる、それでも仲間と話して理解して、もっと良くなるように変化する、そしてそうした努力をしているとある時突然、実感し確信する“楽しい”と

「楽しいな、神酒」

やっぱり冒険は楽しい、壁を越えそこから綺麗な景色を見て再び壁に立ち向かい時には落っこちて、でも落ちたからといって全て失ったわけではなくて、さらに早く高く余裕を持って登れる、それが強くなる事だ、私たちは現実に通ずる力を使って、それを習得して変化してゆく、その日は空がより広く星がさらに明るく見えた

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