第34話 魔物牧場の1週間


 そして彰吾が疲れて眠りについて1日経ち、魔王城でいつものように起こされて微妙な気持ちになりながら彰吾は魔物牧場について考えていた。


「魔物を連れてきたのは良いけど、今後の管理をどうするのが効率的かなんだよな。人形達に指示してエルフ達に伝言は運ばせたけど、それでも管理できるのは力の弱い奴等で問題は5体の強い奴等なんだよな~」


 ぐで~っとソファーに横になりながら彰吾は昨日連れてきた魔物の中でも強い力を持つ5体が問題だった。

 正直、他の雑多な魔物はエルフ達と人形兵を協力させれば管理するのは難しい事ではない。でも、残りの5体は人形兵でもレベルの上がっていない者ではすぐに破壊されてしまう可能性が高すぎて、エルフ達では死者すら出かねないので任せる事が出来ない。


 なので対応策を彰吾は考えていたのだ。


「ひとまずは俺への恐怖とスキルの効果で逆らう事はないだろうけど、下手すると七尾ノ妖狐とアイアン・ディア―以外の奴等は俺以外の指示には従わない可能性が高いんだよな。はぁ……仕方ない、強化された人形兵に任せるか」『クロガネ、すぐに来い』


 ある程度、考えが纏まった彰吾は最初に創った人形兵の『クロガネ』をスキルで呼び出す。しばらくして現れたクロガネは最初の頃とは鎧のデザイン自体は大きく変わってはいなかったが、細かな細工などが少し増えて威圧感のようなものが格段に強くなっていた。

 元々1日の半分近くは寝て過ごしている彰吾だったが、最近は起きているときも忙しくてクロガネの様子を見る事が出来ていなかった。


「ん?少し…変わったか??」


『…』コク


「やっぱり人形兵も進化とかがあるのか…後でまた呼ぶからその時に鑑定させてくれ」


『…っ』コク!


「それじゃ今日呼んだ理由だけどな。魔物を捕まえてきたが5体ほどエルフや作ったばかりの人形兵では不安な強さだ。という事で、古参の人形兵から3体ほどこちらに回すことは可能か?能力的に大丈夫だと判断したんだが」


『……』


 彰吾からの提案にクロガネは首を傾げて考えるそぶりを見せた。

 そんな仕草をすることに少し彰吾は驚いていたが、前々から考えていた通り人形兵も時間経過で自意識を持つことができる可能性が高まったと考えていた。

 しかし詳しく調査するには今はやることが多すぎる。


「無理なら気にしなくていいぞ、まだ別の方法もあるからな」


『っ!』フルフル‼


「無理じゃない?でも、そこまで悩むっていう事は何か理由があるんだろうしな。だったら1体貸してくれ、そいつに新しい人形兵を訓練させる」


『‼』コク‼


「お、これは問題なしか。じゃ、その方向で頼むよ」


 一言もクロガネは言葉を発してはないが不思議と彰吾とは意思疎通が成立していて、問題なく指示を理解したクロガネは自分の部下の中から生かせる1体を選ぶに移動した。

 それを笑顔で見送った彰吾は事前に用意していたエルフへの指示書をメイド型人形に持っていくように言って、静かにベットに倒れるように横になって眠りについた。



《1日目》


 次の日になってクロガネが選んだ人形兵の1体が訪れると、彰吾は準備していた鉱石から新たに人形兵を創り出して訓練するように指示を出した。場所は魔王城の外、そこで訓練用に全滅させないように気負付けながらゴブリン生息させている。

 ゴブリンの出産成長のサイクルは1週間で群れが倍近い規模になるので、短期間で数を用意するのにちょうどよかったのだ。


 そして訓練に行く人形兵と入れ替わるようにして、指示を出されたエルフ達が具体的な話を聞きに訪れた。

 ただ具体的にと言われても、何か事前知識が彰吾にもあるわけではないので手探りでやっていく事を伝えた。その上で必要な餌はの種類や量などを計算して倉庫から持っていくように言い、更にお手伝い用の人形兵を何体か用意してエルフ達へと貸し与えた。


 最初は人形兵と言う自分達を助けてくれた時、人間達を一方的に虐殺していた光景が印象強く少し怖がっているようだった。しかし目の前で彰吾が人形兵に簡単な指示から少し面倒な指示まで何回か実演すると安心したようで、人形兵を伴って魔物牧場予定地へと向かって行った。


 その後は特にやる事もないので彰吾はまだ監視役も付けられていない強すぎる5体の魔物達の様子を見に行って、子狐に絡まれ遊び疲れて日暮れ頃にはベットで眠りについていた。



《2日目》


 前日に訓練に行った人形兵達は戻ってきていない。エルフ達も生活にはまだ影響は出ていないし、魔物牧場の方もとくに問題となることは起きていないようで簡単な日誌を受け取って報告は終わった。

 本日も彰吾は5体の魔物の様子を見に行く事にした。


 生活する環境も少し違った5体だが、元々の活動場所は同じ森林だったので一先ずまとめて森林エリアの一角で生活させていた。

 彰吾が行くと剛力巨猿とバーサーク・ボアの2体が『今日こそは戦え‼』と絡んできたが、まともに相手をするのも面倒だったので魔力を解放して威圧して黙らせた。

 そして他の3体も余波で少し怯えていたけれど彰吾が話していると落ち着きを取り戻し、子狐と戯れて疲れてくると森林ならではの涼やかな空気にやられ、気が付いた時には一緒に昼寝をしていた。



《3日目》


 前日に外で眠ってしまい少し体を冷やした彰吾は寝起き早々に風呂に入ってあったまってから、エルフ達の元を訪れた。

 なにせ普通の動物などは普段違う場所に来ただけでも大きなストレスとなって弱っていく事もあるという、魔物とはいっても生き物なので可能性は0ではない。そう思って魔物達の隊長に変化はないかなどの確認に来たのだ。


 結果だけ言ってしまえば『問題なし』という事だった。

 他の動物と魔物の違いは外見が凶悪になって力が数倍だけではなく、知能も少しではあるが向上している。

 そのため今居る場所の方が外敵のいない環境・狩ることなく手に入る食料・尽きる事の感じない水源と言ったように、どう考えても理想郷と言える環境にストレスなど感じるはずもなかったのだ。


 しかも自分達のボスは圧倒的強者である魔王の彰吾である。

 これでストレスを感じるような野生の魔物はめったに居ないだろう。と言ったような説明を、熱心にエルフからされて彰吾は逃げるように魔物牧場から帰った。



《4日目》


 昨日の段階で問題がないのを確認したので彰吾は訓練していた人形兵の様子を確認する事にした。

 と言っても、前日には訓練を終えていた人形兵達は損傷などを調べるために寝室の隣の部屋で待機させられていた。


「さて、見た感じ壊れてないな。自動修復で十分に間に合っているか、強さは問題ないくらいになってるか?」


『……』コク


「問題ないみたいだな。それじゃ、さっそくだけど顔合わせと行こうか!ほぼ確実に戦闘になるだろうから覚悟してついてきてくれ」


『『『『『ッ!』』』』』


 人形兵達は一斉に綺麗な敬礼をして彰吾の後ろに続いて移動を開始する。

 先を行く彰吾は訓練でもしてるのかな?と思ったが、別に困る事でもないので放置する事にした。


 そして顔合わせの為に森林に来たわけだが、彰吾の想像通りに人形兵と5体はアイアン・ディアーの2体を除いて1対1で戦う事になった。

 特に今回は新たに創り出した人形兵が優先して戦う事にした。元々、魔物達の管理のために作り出したので十分に可能かを試すためだ。


 七尾ノ妖狐は元から敵対はしていなかったので小手調べと言う感じだったが、バーサーク・ボアと剛力巨猿の2体は『自身より弱い者に従うつもりはない!』と言って全力で戦う事になった。

 結論だけ言うと接戦の上で人形兵がギリギリ勝った。

 しかし人形兵は体中にヒビが入っているし、バーサーク・ボアと剛力巨猿は命にかかわるような怪我はないが大小さまざまな傷ができて血塗れになっていた。


 こうなる事をなんとなく予想していた彰吾は人形兵達にはスキルを使い修復して、2体にはポーションなんかの治療薬の試作品を用意してもらって実験もかねて使用して治療した。

 ポーションの効果は絶大で巨体を誇る2体の傷ついた身体は数分もしないうちに全快した。


 そして負けたことで人形兵にも従う事を認めた5体の魔物達。

 後の事を簡単に指示を出して彰吾は疲れ果てたようにふらふら~と自分の部屋へと戻った。



《5日目》


 ようやく懸念でもあった5体の魔物の監視役の人形兵も問題ないのを確認して、完全に安心した彰吾は久々に何もやる事のない1日を満喫しようとしていた。

 けれど、のんびりし始めて1時間ほどで薬研究のエルフが数人やってきて自信満々に報告してきたのだ。


 昨日の治療の段階で効果のほどはよく知っているので彰吾は程々に褒めて終わらせようとしたが、逆に褒められた事でテンション爆上がりしたエルフ達は現在している研究の内容を話し始めたのだ。

 内容としては『この薬草を使用すると毒素が出てしまうのですが、別のこちらの薬品と混ぜると強い解毒効果が従来の数倍化する事が判明しまして』『逆のこちらの薬草は月夜にしか調合する事が出来ず研究が進んでいなかったのですが、このでは気候が安定していて』などなど、延々と専門的な話を実物を見せながらしてくる。


 彰吾も頭は良い方なので内容自体は理解できたが、別に『実験大好き!』と言った研究者タイプの人間ではない。どちらかと言うと有用だから自分で出来るように勉強しているだけなのだ。

 普通はそれで専門家レベルの知識は簡単には身に付けられないが彰吾はできた。と言うだけなので、延々と専門的な話をされても学ぼうと思っていない時に話されてもひたすら退屈で苦痛だったのだ。


 それでも楽しそうに話す相手に冷たくできるはずもなく、結局1日中エルフの話を聞くだけで終わってしまったのだった。



《6日目》


 前日が完全に潰れてしまったために彰吾は『今日は何もしない!』と決めて、人形兵達にも今日は誰も近づけるなと指示を出した。

 そうして1日なにもすることなくベットで寝る事にしたのだった。

 なんだかんだと、ここ数日は忙しく動き続けていたので疲れていたのもあって彰吾は本当に一度も起きることなく寝て過ごすのだった。



《7日目》


 まる1日を寝て過ごした事で少しだけ疲れの取れた彰吾は魔物牧場の現状確認をした。と言っても、たった一週間で数が増える事はないので大きな怪我や体調を崩した個体が存在しないかの確認くらいだ。

 エルフ達にも隊長に異変が出ていないかも確認し…ようと思ったが2日前の事が頭をよぎって、後日にする事にした。


 そして人形兵に任せた5体の魔物達の元を訪れるとバーサーク・ボアと剛力巨猿の2体と人形兵2体が戦っていた。

 ただ初日とは違ってお互いに大きく怪我する事のないように訓練として成立するものになっていた。


 でも、気が付かれたどう考えても巻き込まれると考えた彰吾は瞬時に気配を消して森林からそっと逃げた。


 他にも確認する場所をいくつか確認して、やる事がもうないと判断した彰吾は空が少し暗くなり始めたくらいでベットに戻って眠るのだった。

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