第32話 傲慢スキルの力

 人形兵達と協力しての捕獲作戦は大成功を収め魔王城へと戻ってきた彰吾だったが、想定以上に魔物を捕まえられてしまって新たにコンテナを持ってこさせたり。

 途中で麻酔の効きが弱かった魔物が暴れ出し制圧、それと巻き込まれて傷ついた魔物の治療のために一時的に着陸したりと…必要以上に時間を取られることになった。


 そんなこんなで行きの倍近い時間を掛けて帰ってきた彰吾は、すでに夕方になりかかっている空を見上げていた。


「時間が掛かりすぎたな。ひとまず大型以外は牧場予定地に連れて行っておいてくれ、あとで対処する」


 もはや夜まで時間も残ってないので大して強くない魔物への対処は後にする事にしたのだ。

 短く指示を出され付近にいた人形兵達は小型の魔物を別の場所へと連れて行き、残されているのはゴリラと三尾の狐を筆頭に大型の魔物が他に3体。


 1体は最初に捕まえたイノシシの魔物を更に大きくして3m近い高さに、牙も巨大で体の模様も凶悪になった見た目で凶暴で人形兵達では手に負えず、急遽呼ばれた彰吾が力尽くで黙らせて連れてきたのだ。その時は帰るまで時間もなかったので反撃されないよう徹底的にボコボコにしたせいか、もはや抵抗の意志どころか完全に闘争心が折れて大人しく巨大な体を縮こまらせていた。


 残りの2体は番のシカのような魔物だ。

 角は樹木のようになっているが硬さは鉄にも匹敵して、猟師型の人形兵が1体貫かれて倒されてしまっていた。もっとも根本が穏やかな性質のようで攻撃的な態度を辞め、観察していて知った好物の果物を大量に用意して話しかけたら普通に懐いた。

 合わせて安住の地を用意して、好物の果物を大量に植えた果樹園の守護をしないか?と提案すると瞬時に頷いてついてきた。


 そんな5体の魔物を前にしながら彰吾は完全に無視して、自分のステータスウィンドウを見ていた。


「う~ん…これはテイムされてるよなぁ~」


 なにせ今までは表示されていなかった従魔と言う欄が追加されていた。

 その欄には剛力巨猿と七尾ノ妖狐、バーサーク・ボアにアイアン・ディア―と表示されていた。


「これが種族名ってことなんだろうけど…なんで漢字表記があるんだ?また悪乗りか?」


 今までは存在しなかった従魔の表示に対して、面倒事の気配を感じた彰吾は別の事を考えて逃避する。もっとも予想自体は当たらずも遠からずと言った感じだった。

 元々ステータスウィンドウの表記は見る者の読みやすい言語が採用されるようになっているので、それこそ英語圏の者が見ればすべてが英語表記になっているだろう。


 ただ彰吾に与えられているシステムには神々が地球の娯楽から得た知識によって、ちょっと色々余計な改変が加えられた特別製なので表記内容には少し悪乗りの部分も含まれていた。

 とは言っても、それは神側の事情を知る術のない彰吾にとっては確証を得る事の出来ない答えでもある。


「…考えても仕方ないな。まずは現実と向き合うか…」


 しばらく考え続けた後、現実逃避を諦めた彰吾は目の前のステータスウィンドウに向き合う。何度確認しようが増えている従魔の表記だがテイムなどした覚えがないのに何故?と考えていると、1つのスキルの効果を思い出すに至った。


「あ、確か…」『鑑定』


 思い出したことを確認するために開いているステータスウィンドウのスキルを鑑定した。


《鑑定結果:傲慢》

《備考:傲慢な者の証明。自身よりレベルの低い敵の攻撃無効化。自身の能力値×配下の数だけ戦闘時に強化・反逆した配下のスキルを剥奪できる。相手を屈服させると強制的に配下にする事ができる(※人間は契約・魔物はテイムと言う分類として扱われる)》


「絶対これじゃ~ん」


 鑑定結果が表示され内容を確認した彰吾は安心した。

 ただ態度とは裏腹に頭の中では現状と今後の事が高速で廻っていた。


(このとかいうのを達成したから自動的に効果が発揮されたってことだろうな。でも、エルフ達も服従しているはずなのに契約なんかの新しい表示は存在しない…だとすると違いはなんだ?可能性が高いのは過程…)


(暴力を伴う服従を『屈服させる』という事だと認識されているとするなら、確かに救出して配下としたエルフ達とは契約とかで縛っていない。反対に魔物達は力や威圧なんかで戦意をへし折って連れてきているから屈服させたって判定になったというところか…)


(だとすると今後は魔物が相手の時は俺が直接前に出て倒した方が戦力増強にもなるし効率がいいか?いや、でもな~面倒だしな。不測の事態で人間と接触したりしたら面倒事が2倍……うん、やめよう)


 それからも少し脱線したりしながら深く集中して考え続けて数分後、ようやく考えが纏まったのか彰吾は欠伸を漏らす。


「ふぁ~~……さすがに怠いな。とりあえず、お前ら5…いや6体は別の所に移動だ。一応それぞれに合う場所を用意するつもりだけど、お前らは知能が他の奴等よりも高く戦闘力も高いから少し力加減とか覚えさせてからだ」


 正直なところ彰吾としても面倒ではあったけれど、目の前の魔物達は簡単に放つには力が強すぎるのだ。エルフ達の強さも訓練をしている所を魔王城の監視システムを使い見た事があったが、とてもではないがエルフ達では管理する事が出来ないと感じたのだ。

 そのため魔王城の頑丈な訓練場で手加減を覚えさせて安全策を立ててから敷地内に放つ事にした。


 もっともそれだけが理由ではない。


「…今回の事でちょっと試したいこともあるしな。近くにいたほうが都合がいい」


『『『『『なんか不穏な言葉が聞こえた…』』』』』


『?』


 と言ったように、配下に影響のあるスキルを人形兵以外の生きている相手に使って見たかったのだ。

 言葉を理解できるだけに魔物達は後で何をされるのかと恐怖に体を震わせたが、彰吾が圧倒的に強い事を知っているため断ることもできずに渋々とついて行くのだった。

 唯一1体だけ、子狐だけは難しい言葉までは理解できないようで首をかしげるだけだった。


 こうして魔王城強化のMP確保のための魔物牧場計画は第一段階は成功を収めるのだった。


 ただ森の支配者とも言えるレベルの魔物を一気に5体も引き抜いた影響で、元々彼らが生息していた森では数日後に盛大な魔物による縄張り争いが起きる。後々で知ることになった彰吾だが、特段興味もないので干渉する事はなかった。

 もっとも実は近くに人間の街があり、縄張り争いに敗れた魔物が大群が襲来する事件も起きていたが彰吾は知りもしない出来事でしかなかった。







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