第30話 魔物牧場計画《捕獲:前編》


 調薬室から逃げるようにでた彰吾は疲れていたのもあって、その日は部屋へと戻るとすぐに眠った。


 そして次の日も頼んでいたようにメイド型の人形兵の拳によって目を覚ました彰吾は、朝食などを済ませると必要な道具を用意して魔物捕獲へと行こうと準備を始めていた。


「えっと必要な道具はあらかたそろったかな。猟師型と隠密型の人形も追加で10体創ったし、捕まえる予定の魔物の位置は動物型に常に確認させてるから…行けるな!」


 すべての準備が終わったのを確認した彰吾は飛行場としても使っている訓練場へとやってきた。

 そこには討伐軍や人間の街を襲ったドラゴン人形に似ているが、一回り小さな人形があった。


「う~ん…移動用に創ってみたけど、これはこれでスマートな感じでいいな。早速、飛んでいくか」


 あんまり時間を掛けたくない彰吾は見た目に満足すると騎乗用の鞍を付けて乗り、他の道具や猟師人形や隠密人形はコンテナに積んで竜騎士型の人形が操る小型騎竜人形3体で輸送する。

 この輸送方法は空を飛ぶドラゴン人形を見て思いつき、自分で馬車に乗ってみた時から彰吾が考えていた物だ。


 ちなみに捕獲した魔物の輸送は軟体になるかわからないので、各保護に現地で彰吾が数を見ながら適切な形の人形を創造する予定だ。


「えっと…向かうのは北西の草原と森林の混ざってる地帯だから、あっちか」


 向かう場所へは動物型の人形が案内してくれるが彰吾は念のために方位磁石と地図も持ってきて自分で確認していた。これは単純に何かにまかせっきりよりも、自分でも確認した方が確実性が高いという判断だった。

 そして無事に予定の場所へと着くと彰吾は急いで人形兵達へと指示を出す。


「隠密型達は周囲へ散って人間など魔物以外の生物が近寄らないように警戒!猟師型達は2体1組で行動、3組は周囲への罠の設置と待ち伏せ、残りは俺と行動して直接捕まえに行く!」


 指示が出されると同時に大半の人形達は草原や森林へと散っていき、数体が残り彰吾の動きを待っていた。

 それを確認して満足そうに頷いた彰吾は何処を探しに行くかを考える。


「森の中に仕掛けられるトラップの位置は人形の位置から把握ができるから、そこを避けるように探してみるか。行くぞ」


 そう言うと普段動ていないとは思えない速さで彰吾は森林の中を走り抜ける。後を追う猟師型人形達は作られたばかり、という事もあって距離を縮める事はできなかったが姿を見失わない距離は維持できていた。


 詳しく説明すると隠密や猟師を模した人形兵は特性として俊敏と器用の値が最初から『B-~B+』となっている。本来なら鍛えた人間の兵士ですら相手にならない速度なのだが、魔王として最初から高いステータスを持っている彰吾には勝ち目がなかったというだけだった。

 他の人形兵は執事やメイドなどは『知力と器用』戦士や兵士は『力と防御力』が高くなるようになっている。



 しばらく経って猟師人形達を引き離しすぎていた事に気が付き、彰吾が速度を少し落とした事もあって周囲を守られるように森林を進んでいくと今回の獲物を見つけた。

 それは地球のイノシシよりも明らかに大きく、高さだけでも130㎝はあり牙も大人の腕ほどの太さがあった。更に


 どう見ても魔物と言っていい外見のイノシシに対して彰吾は怖がることもなく、獲物を見つけたようなギラついた目を向けるでもなく、ただ嬉しそうに笑みを浮かべた。

 今まで魔物などの処理は人形兵に任せっきりで、間近で見るのは初めてだったため楽しくて仕方がなかったのだ。


「あれがビックボアか!やっぱり普通の動物とは違って凶暴そうだな。ルーグ老の話だと、ゴブリンですら稀に手なずけているって事だから大丈夫だろうけど、確認はしておくか」《鑑定》


 初の魔物だからと楽しい気持ちにはなっていても冷静に、種族を間違えていないかなどの確認するためにも鑑定スキルを使用した。


――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:なし 種族:ビックボア 職業:魔物


レベル:12

力:C+ 魔力:F 防御力:C 知力:D 器用:E+

俊敏:C- 運:D-


スキル 《SP60》

突進Lv5・嗅覚強化Lv2


ユニーク

なし


称号

なし

――――――――――――――――――――――――――――――――


「……うん、弱いな」


 鑑定した結果を見た彰吾は少し落胆したように言ったが、ビックボアのこの数値は決して弱くはない。人間などでは訓練した兵士や冒険者が5人パーティーを組んでも無傷では倒せないほどの強敵だ。

 それでも自身の魔王としてのステータスや人形兵達のを見てきているだけに彰吾の判断基準は少し高くなっていた。


 しかしビックボアのステータスをしっかり確認していると小さな違和感に気が付いた。


「ん?SPが少ない…俺が前に見た時は650で、その350は残りとミッション報酬で残り300がレベルアップが理由だとすると、レベルが10上がると300追加されたから1レベルでSP30のはず。でも、ビックボアを見る限り1レベルでSP5って感じか?」

 

 感じた違和感の正体は増加するSPとレベルの値が自分と大きく違っていたからだ。それが不思議で本来の捕獲と言う目的を一旦横に置き、なぜSPの増え方に違いがあるのか?を真剣に考え始めた。


「もしかして魔王としての補正?いや、そこまでやってくれるような相手には見えなかったし…だとすると称号かスキルだな。その中にレベルUP時の獲得SPを増やす効果があるってところか、単純な増加ではなく倍ってところか…効果が重複している可能性…いや、累積か?」


 ブツブツと考えている事を言いながら彰吾は思いつく可能性を並べ、一番確実性の高い物導き出した。そして今すぐにでも鑑定を使って確認したい衝動に駆られていた。


「あ…あぁ…う~ん……ダ、ダメだよなぁ~」


 しばらく悶えるように手を動かして葛藤していた彰吾は、ようやく諦められたようで本当に残念そうにしながらも本来の目的『魔物の捕獲』に集中する事にした。

 だが切り替えてビックボアの方を見ると一回り程小さい個体が数匹現れていた。


「お、子供もいるのか。ちょうどいいし纏めて捕まえよう」


 できるだけ多くの個体を捕まえたいと思っていたところでの子供と思われる魔物が複数、それを捕まえない理由などあるわけもなく彰吾は心底嬉しそうに笑顔で確保に動き出す。


「猟師型2体は麻痺矢で動きを止めろ。それと同時に他は鎖で拘束しろ…開始」


 簡潔に命令を出すと人形達は一斉に動き出し2体は持っていた弓で麻痺矢を数本まとめて放った。


『ブヒュッ⁉』


 急に認識の外から飛んできた矢にビックボアは反応が間に合わず直撃、驚きのあまり空気が抜けたような悲鳴を上げていた。そしてビックボアの子供は麻痺薬の効果が高かったようで悲鳴を上げる前に動けなくなっていた。

 そして少し遅れて親のビックボアもドスン!と大きな音と共に倒れ動かなくなった。同時に動いていた他の猟師型人形達が魔物用の鎖で簀巻き状態に拘束する。


「息はあるな…」


 完全に拘束されると彰吾は死んでいないかを確認すると安心したように息を吐きだす。

 もっと強いかと予想していたのだが体の大きさに対して想定以上に弱かった。一撃で動かなくなってしまったので、そのまま死んでしまったのかと心配していたのだ。


 最初はステータスの差が激しいので攻撃を受けただけでビックボアにダメージを与えてしまうかもしれない。と思って今回は我慢したのだが、ここまであっけない結果に本当に近寄らなくてよかった…と言う安堵も大きかった。


 実際、もし無防備に突進ても受けようものならビックボアの顔は一撃で潰れて息絶えていただろう。ついでに彰吾も血塗れになって気分を大きく下げ、途中で魔王城へと帰還することになっていた可能性もあった。

 それほどにステータスの値と言うものはこの世界では絶対的な効力を持っている。


「よし!他の魔物に襲われてもめんどうだし、いったん引き上げてコンテナに積み込め」


 動けないビックボアを狙われると守るのが大変なので、急いで運んでしまう事にした。指示を受けた猟師型人形達は子供のビックボアを担ぎ、残りの親のビックボアは人形達では持てないので彰吾が直接持ち上げて引き上げていった。

 そんな巨体に見合う重さのあるビックボアを担いでいても彰吾の移動速度は代わることはなく、数分ほどで森林を抜けてくるときに猟師型人形達を乗せていたコンテナに魔物を詰め込んだ。


「ふぅ…まだ来るって考えると小さいか、今のうちに増やしておくか」


 魔物が想像よりも巨体であったため彰吾は追加のコンテナを持ってくるようにワイバーン型人形に伝えて魔王城へと向かわせる。

 ついでに運搬と移動用の人形として追加でワイバーン型を5体創り出した。


「あぁ~魔力が減っていくな。まだ余裕があるけど、ほっとけば回復するしいいけど今後はもう少し考えたほうがいいかな?………あ、そのうち考えよう」


 人形1体を創り出すのにも相当量の魔力が必要で、膨大な魔力量を誇る彰吾をしても数体を纏めて創り出すと消費も大きくなってしまう。なので『戦闘中などに兵隊を増やす』なんていう方法をすると攻撃の魔法が使えなくなってしまう可能性が高く使えない。

 ただ今回のように数が必要で、別に敵がいる訳でもない状況で考える事でもないので考える事を後回しにしたのだ。


 そして起きたビックボアが暴れ出した時に対処する必要があるので猟師型2体を見張りとして置き、彰吾自身と残りの猟師型が再度森林へと魔物捕獲へ向かっていった。

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