第28話 魔王城・強化
進化して得たスキル【予知】を使っての動作訓練を始めた彰吾だったが、最初の想定よりも苦労は少なくすんでいた。使用すると数秒先の光景が現在の光景とダブって見えるので、その感覚の修正には苦労したが体を動かしながら慣らせば1時間掛からずに問題なく動けるようになっていた。
そして一番の懸念でもあった消費魔力については問題にすらならなかった。
さすがに魔王で魔力『A』と表示されるだけあって消費も膨大だったが、使用が停止してから20秒ほど休めば回復する程度の消費ではあった。これは単純に魔力量が多いという事もあったが、なによりも彰吾の確認していない称号やスキルの効果で魔力の回復速度が通常の数倍に引き上げられていたのも理由の一つとしてあった。
こうして【予知】を使用しての訓練はひと段落した彰吾は、好奇心からとはいえ体を本格的に動かしたことで逆に目が覚めてしまった。
なので、この機会に後回しにしていた事を処理しようと考えて彰吾は久々に玉座へと来ていた。
玉座に座ると天国のような座り心地
「さて、サポートシステム」
『お呼びですか?』
「あぁ、これから魔王城を強化してみようかと思ってな。補助を頼む」
『わかりました』
サポートシステムからの了承を聞いて彰吾は目の前に半透明な、魔王城の操作ウィンドウを表示させた。
――――――――――――――――――――――――――
【魔王城メニュー】
残存魔力:266492 住人:124人 配下:0人/人形兵:500体/人形兵・獣型:329体/他:415体
・建築
・改築
・防衛
・修復
・生産
――――――――――――――――――――――――――
「おぉ~なんか色々と変わったな」
表示されたウィンドウを見ながら彰吾は楽しそうに笑みを浮かべて、考え始めた。
「残存魔力はミッション報酬とエルフ達からの分ってことか?」
『はい、他にも周囲にいる動物や虫などからですね』
ただ普段とは違い今回は彰吾だけではなく、生物ではないがサポートシステムと言う話し合う相手がいた。
そのことを返事をもらって思い出したようで彰吾は一瞬驚いたように目を見開いて、すぐに頭を切り替えて話し合いをすることにした。
「虫からも魔力は徴収できるのか?」
『魔力を持っている存在なら全てが対象になります。たとえ相手がレイスや精霊と言った肉体を持たぬものであろうと関係なく可能です』
「なら今後は牧場なんかも作ってみるのもいいかもな。それで人形兵からは徴収はないのか?」
『人形兵は個人のステータスなどを持っていますが、あくまでも魔王である主様のスキルで生み出された存在。それゆえにシステム的には主様の一部として扱われて、魔王城からは対象外に設定されています』
「なるほど…」
この説明を聞いて彰吾は少し考え込んでいた。
もし人形兵も魔力徴収の対象なら残存魔力を効率的に稼げたかもしれないだけに勿体なく思っていたが、最初からあてにしていたわけでもないので大きく気にする必要はなかった。
それよりも残存魔力の今後の入手法の改善を考えていた。
何かの拍子に今回のように使用したくなった時に、もし残存魔力はが足りないなどという事が起きないように万全を期しておきたかったのだ。
「とりあえず、保護を優先に放牧なんかに手を付けながら考えてみるか…」
『一応、私は思考を少しは読めるので問題ないですが…主様?』
「うん?何か気になる事でもあったか?」
『いえ、内容などではなくてですね。考え事が終わった後、急に話し出すのはやめた方がいいですよ…相手を不必要に混乱させますから』
「え、あぁ…そうか……今後気を付けるよ」
急に注意されて彰吾は困惑していたが、言われた内容が小さかった頃に幼稚園などで大人たちにも言われたことがあった。もっとも別の世界に来てまで同じことを注意されるとは思ってもいなかっただろう。
それでも注意されたからには気を付けようと決めて本題に入る事にした。
「とにかく、今回は防壁の強度の強化、それに以前約束した調薬室の拡張だな」
『その二つだけなら残存魔力の量は余るほどに余裕です』
「よし!なら早速、確認するか」
すぐに思い浮かんだ内容が問題なくできるという事がわかったので、問題がないのならとすぐにどんな強化ができるかを確認することにした。
――――――――――――――――――――――――――
《防衛:防壁強化一覧》
・強度UP:200
・材質変化・鋼:500
・材質変化・ミスリル:300000
・材質変化・アダマンタイト:500000
・迎撃砲設置:4000
・見張り台設置:3000
・防御結界出力UP:10000
……
――――――――――――――――――――――――――
そこに表示された防壁の強化に関する物は軒並み食料とは比べ物にならないほどの魔力消費だった。
元から消費が増えるとは予想していた彰吾だが、想像以上に増えた魔力の消費量に驚いたように目を見開いていた。
「…これは本当に残存魔力を安定して増やす方法が必要だな」
『そうですね。しばらくは問題ないでしょうが、頻繁に利用を考えているなら安定供給の方法を考えておいた方が安心ですね』
今回の事で改めて残存魔力の重要性に加え、残存魔力を安定供給が必要だと彰吾は認識した。サポートシステムも同じように重要性を認め肯定した。
もっとも今すぐに実戦できるようなことでもないので、一先ずは頭の隅の方へと考えを追いやって目の前の方を優先する。
「あぁ…とりあえず今日は強度UPと結界の出力UPを10回ずつくらいと、迎撃砲の設置ってところか」
『残存魔力を使い切らないのなら最善だと思います。ただ性能をUPさせる系統は一回ごとに消費魔力が倍増しますので気を付けてください』
「倍増って元の値×強化回数ってことか?それとも…使用魔力×2で増えていくのか?」
『一番最初の値を回数分足していく感じですね。例えば200最初に消費すれば、次は400、次は600って感じですね』
「ふぅ…それならよかった」
ソシャゲなどでも強化する時は段階を重ねるごとに必要な物が増えていくのは常識だった。
しかし現実となった今は消費すればなくなる、有限な物が必要だとなれば話は別だ。単純な強化が大きな負担となっては安易に強化することはできなくなるわけだが、今回のような増加の仕方なら計算が可能だ。
だから彰吾は安心して防壁の強度と結界の出力UPを連打した。
「ふぅ…合計102000の消費か…まだあるのを理解してても緊張するわ」
『変に浪費癖が付かないのでいいんじゃないですか』
「そうともいうな。でも、なにか設置するたびに緊張してたら疲れるから嫌なんだよ…」
『そうなんですか。では、次の調薬室の拡張ですが詳細は決まっているのですか?』
「あ、無視なんだ。…えっと、調薬室は要望書いた紙を貰って、暇なときに考えておいたから問題はないな」
完全に無視され少し肩を落とした彰吾だが気にせずに質問へと答えた。
調薬室は使用者がエルフ達のおかげで増え、スペースが狭くなっていた事もあって本人たちの要望も聞いて拡張する予定だった。
それに乗るような形にはなったが彰吾も個人的に試してみたいことがあったので、自分用にも機材をできる限り上位の物にしておきたかったのだ。
『詳細が決まっているのなら問題ないですね。では、簡単に幾つか説明しておきますと、部屋などのサイズを広げる場合は一辺1mあたり100消費しますので注意してください』
「そういう消費計算なんだ。でも1㎡ごとでないだけましか…」
『それと室内に人がいても強化や拡張は問題なく行えますけど、驚かすと思うので事前に伝えるようにしてくださいね?』
「あ、なら今すぐ伝えてこないと」
注意をされてから彰吾も急に部屋が広くなったり、物が変化したら恐怖以外にないと気が付いて慌てて伝えに行こうとした。
だが、そこにサポートシステムが落ち着いた声で静止した。
『いえ、そちらへは人形兵達に私から指示を送っておきましたので大丈夫です』
「……なんでお前が指示を出せるんだ?」
まさか自分以外の存在が人形兵に指示を出せると思っていなかった彰吾は、普段の態度とは違い確かな力を感じる声で問いただした。
それに対してもサポートシステムは変わることのない平坦な声で答える。
『私は主様の魔王城の維持管理を補助するのが役目ですから。そのために必要なメイド型や執事型の人形兵に限って命令が可能になっているんです。もちろん城壁内に居る個体に限定はされますが』
「なるほどな…」
その説明を聞いても納得はできなかったが理解はできた。
確かにこの魔王城を維持管理をするのに必要な人では休む必要のない人形兵達ありきで成り立っている。
だから魔王城の管理をサポートするために存在するサポートシステムに操作権限があっても不思議ではない。と言う感じで理解はできたが、やはり気分のいい物でもなかった。
「とりあえず、今後は指示を出す場合は最低限にとどめて、どうしても緊急の時は一度俺に確認するようにしてくれ」
『了解しました』
「わかってくれたならいい。それじゃ、パパッと強化してしまうか」
そう言って話を終えると彰吾は調薬室の強化を進めることにした。
――――――――――――――――――――――――――
《改築:調薬室一覧》
・部屋拡張:100
・素材棚・収容量増加:200
・魔導鍋・中級:1000
・魔導鍋・上級:5000
・魔導鍋・最上級:12000
・魔導分離機:200000
・部屋付与効果・品質UP弱:6000
……
――――――――――――――――――――――――――
「思っていた以上に細かく分かれてるな。まぁ一先ず必要なのは部屋の拡張で縦横5mずつ広げて、鍋も全部設置できるな…やっちゃうか」
表示された強化できる物のリストを見て元々決めてあった構想に近い物を選んでいった。自分の趣味の部分も多かったためか心底楽しそうに笑みを浮かべて捜査を続けた。
「最終的に25200ってところか、他にも興味はあるけど100,000以上は残しておきたいからな。これで決定っと」
あらかた選び抜いた彰吾は選択を確定した。
すると、残存魔力が減って表示されていた魔王城の立体図も変化していた。
それを確認して彰吾が体を解しているとサポートシステムが意外そうに声を掛けてきた。
『今回はだいぶ少ないですね?』
「極端に良い設備にしても扱いきれないかもしれないからな。他の難しそうなのは慣れてからだよ」
『なるほど、それと残存魔力を使用した昨日の為ってことですか?』
「そういう事だ。ふぁ~~~……」
訓練からだいぶ時間が経ってようやく疲れから眠気が出てきたようで彰吾は盛大に欠伸をした。
「さすがに疲れたか…」
『では、今日はこれまでですか?』
「あぁ…もう寝るわ」
『わかりました。また話せると気を楽しみに待っています』
「うぃ…おやすみぃ…」
恭しいサポートシステムの言葉にも彰吾はもはや眠気に負けて頭が動いていないようで適当に返事をすると、寝室へと直行してベットへと倒れ込み秒で眠りについた。
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