第12話 エルフ族との接触


「見苦しい姿を見せてしまい…」


 乗り物酔いから回復した彰吾は最初に目の前にいたエルフ達へと謝罪した。

 エルフ達も捕まったと思えば盗賊は不思議な者達に倒され、安全かもわからない不安の中現れた人物は目の前で『うぇぇ~~』と吐いているような状況に混乱していて、一先ず謝罪を受け入れながらも警戒していた。


 その警戒が伝わるだけに彰吾は困ったように頬を掻く。


「警戒されるのはわかるが話を聞いてもらえるとありがたいだけど…うん?」


 どう話を始めようかと考えている彰吾の元に周囲を警戒していた人形兵達がリアカーを引いてやってきたことに気が付いた。その上にはモノリスが置かれていたが初めて見る彰吾はそれが何なのかよく分からず首を傾げる。


「これがどうかしたのか?」


『…』


「うん、喋れないんだったな」


 普通に話しかけると困惑した様子の人形兵を見て、今さらながら発声器官のようなものが無いのを思い出して彰吾は1人納得したように頷いていた。ただすぐに視界の端のエルフ達が青い顔をしているのが見えた。


「もしかしてあの石の柱?がなにか知ってます?」


「…あれは我々亜人種を呪う忌まわしい物だ。あれの周囲では我々のような亜人と呼ばれる者は魔力が使えなくなり、身体能力が乏しく低下する」


「破壊しようとはしなかったんですか?」


「っ⁉出来たらやっている!あれは石のように見えても金属の塊だ。持ち運ぶときはあのように馬車や荷車で運んでいるほどだ‼」


「なるほど…」


 軽く確認しただけなのに怒鳴られてしまい彰吾は内心めんどくさいな…と思いながらも納得したように頷き、何でもないようにモノリスに近寄って触った。


「確かに見た目は石なのに、軽く叩けば鉄だな。まさにファンタジーだとして、踏む…これはどういう原理なのか気になるな?なぜ人間には影響がなく、他の人型種族にだけ効果を発揮しているんだろうな?特殊な波長によるものか、この刻まれた…」


 近寄って確認を始めた彰吾は次々に浮かんでくる疑問からモノリスの考察にのめりこんでしまい、周囲の状況などを完全に無視して考察にふけっていた。

 たださすがにこの状況でいつまでも放置されるのはエルフ達も辛かったようで、遠慮がちではあったがリーダー格のエルフがゆっくりと声をかける。


「あの、それで…あなたは誰なのかを聞いてもいいか?」


「ん?あぁ~そう言えば自己紹介してませんでしたね。それでは改めまして俺は黒木場 彰吾って言います。こんなですが一応魔王として人間を攻撃することになっていて、ついでに亜人と呼ばれる人たちを保護するためにやってきました‼」


「「「「………は?」」」」


「そんな反応にもなるよね~」


 正直に自分の正体と目的を彰吾は話したが、いきなり魔王だの保護だと言われたエルフ達は理解が追いつかず全員が首を傾げていた。

 そんなエルフ達の様子を見た彰吾も素直に受け入れてもらえるとは最初から思っていなかったようで、他人事のようにのんきにこの後どう対応しようか考えていた。


「…その、もう少し詳しく説明してもらえないだろうか?我々も急な事の数々に理解が追いついていないので」


 ただ考えているとエルフのリーダーの男が先に更なる説明を求めて提案した。

 その提案に少し他のエルフ達や周囲の状況を軽く確認した彰吾は特に気にした様子もなく笑顔で頷いた。


「わかりました!ならまずは俺が魔王になったあたりから説明しないとですかね…」


 理解しやすいように最初に何をはなすか彰吾は少し考えながら魔王や、神から亜人と呼ばれる種族の保護を頼まれた事を分かりやすいように工夫しながら説明した。

 説明が始まった当初は『神に頼まれた』などと言う変人を見るような目を向けるエルフ立ちだったが、元々発展している地球とは違って神などの神秘的な物が身近だったため詳しく説明して行くうちにゆっくりとだが信じてくれるようになっていた。


「…と言う感じで住む所とかを作って生活をお安定させたところで、今回エルフの皆さんが襲われているのを知って仕事でもあるので助けに来たわけです。理解してもらえてますか?」


「あぁ…まだ完全に信じられない所も多々あるが、貴方が的でない事は理解できた」


「信じてもらえたなら良かった。正直、信じてもらえないと保護だとかの先の話に進めないですからね!」


 まだ完全に理解できたわけではないにしてもエルフ達は自分達を殺せる状況でありながら実行しなかった。その一点だけで十分に安心して話を聞く事の出来る相手だと判断したのだ。

 こんなすぐに信用してもらえるとは思っていなかった彰吾だが、今後の話をする上ではむしろ好都合だと考えて深く気にするような事はしなかった。


「と言う事なんで、行く場所が無いなら俺が作った城に来ませんか?建物だけは大量に有りますから、何百人でも移住可能ですよ?」


「え、あぁ…そう言っていただけるとありがたいが、本当にいいのか?」


「はい!と言うよりも、保護する事も考えて建物を立ててあるので来てもらえない方が困ります。他にも広めの畑や捕まえた動物たちの牧場なんかもすでに用意してしまっているので、むしろ人手が足りないので手伝ってほしいくらいなんですよね」


「そう言う事だったら。ただ念のため他の者達と話し合う時間を貰いたい」


「別にかまいませんよ。即決されても、それはそれって感じなので」


 あまりにも身も蓋も無い彰吾の言いざまにエルフ達は何とも言えずに苦笑いを浮かべて小さく頷き、後ろで大人しく話の行く末を見守っていた仲間のエルフ達の元へと向かった。

 それからしばらくエルフ達は話し合っていた。なんか少数の奴らがまだ彰吾を信用できずに反対しているようで、他の好意的なエルフ達がゆっくりと説得しているような状況だった。


 話が長引きそうだと思った彰吾は今回の件で初めて人間と戦闘した人形兵のメンテナンスをして時間を潰すことにした。


「う~ん…魔物相手だと血とかも素材になるから洗わずに強化しちゃうんだけど、さすがに人間の血だと圧倒的に量と質の両方が圧倒的に足りないな。やっぱり細胞レベルに保有する魔力の量が関係しているのか、まぁ考察は後にして今は綺麗にするのが優先だな!」


 そう言うと彰吾は乗って来た馬車に念のために積み込んで措いた水の入ったドラム缶を片手で持って出て来た。

 ドラム缶の中には大量の水が入っていて普通なら両手でも持てる持てないどころではないのだが、魔王となった彰吾には問題にもならなかった。


「それじゃ血を落とすから動くなよ」


「…」


 彰吾がそう言うと人形兵たちはビシッ!と音が鳴りそうなほど勢いよく姿勢を正した。その姿勢だと逆に磨きにくいな…と彰吾は思ったが自分の指示に従った結果だったので、もう一度指示を出したりはせずにそのまま人形兵達を綺麗にして行った。


 そうして彰吾が人形兵達を綺麗にしている間もエルフ達の話し合いは続き、人形兵たちが新品のように綺麗になったころにはなんとか話し合いは終わっていた。


「すみません。待たせてしまいましたか?」


「いや、こちらも話し合いに時間を貰ったのだから気にしないでくれ」


「そう言う事なら。でしたら本題に戻ってしまうのだけど、保護を受け入れてもらえるのかな?」


 話もそこそこに彰吾は単刀直入に本題を切り出した。

 少しおどけたように首を傾げている彰吾だったが目は何処までも真剣で、その目を向けられたエルフの代表は


「はい、我らエルフ族は貴方様の庇護下に入らせていただきます」


「それでなら良かった。さすがに少しでも話した事のある人を危険な所に放置して行くのは気が引けますしね」


 提案を受け入れてもらえた彰吾はここで初めて本心から安堵の笑みを浮かべた。正直なところ彰吾は提案を受け入れてもらえたとしても、数人は離反者が出てもおかしくないと思っていた。

 何より最悪の想定として断られて外部にただ自分の情報が漏れてしまう可能性すら考えていた。


 だから無事に提案を受け入れてもらえて安心しきった彰吾は微笑みながら、この後の予定についてエルフのリーダーへと話す。


「それでこの後ですけど、まだ馬車が一台しかないので少し歩いてもらう事になるので今のうちに休んで措いてください。他にも何か要望があれば、可能な限りは対応しますので言ってくださいね」


「わ、わかった。何かあればすぐに出も伝える」


「はい!それじゃ証拠隠滅とかしないと何で、少しの間ですけど休んでてください!」


 ひとまず話が終わったと判断した彰吾は笑顔でそう言うと、近くの人形兵に簡単に指示だしてエルフの護衛として数体を残して忙しく動き始めた。

 そんな彰吾を見送ったエルフ達は想像以上にすんなりと話が進みすぎて『やっぱり罠なのでは…』と不安に駆られたが、残された鎧達が自分達を守るように周囲を警戒しているのを見て疑いはすぐに晴れた。


 さらに言えば鎧達はエルフ達に馬車に積んできただろう水の入った樽や果物を疲れ切っているエルフ達に配って行った。怪我をしている様子の者には回復ポーションを配って、それはもう過保護なほどに徹底してもてなされた。


 そうして横目に人形兵達でもエルフ達の護衛や世話が出来るのを確認した彰吾は安心して後始末を始めた。


「まずはこいつらが全滅したと知られるのは時間の問題だし、それは仕方ないとしてもだ。俺達がやったと知られるにはまだ早すぎる。何か魔物にやられた風に偽装する必要があるな」


 元から襲っている人間は殲滅するつもりだったが、自分達の存在まではまだ知らせるつもりのなかった彰吾はどうにか隠ぺいしようと考えていた。

 だからと言ってちゃんと方法を考えて来た訳ではないので、今この場で周囲の状況を見ながら適切な方法がないか考えていた。


「周囲の血の跡は、これだけだとエルフ達が生きている事がバレそうだし追加で適当な動物の血をばらまくか。死体はある程度処理したけど破片くらい残ってるだろうからそれを使えばいいとして、他にはエルフ達を連れて行った後に竜型の人形を使って周囲を破壊すれば…ある程度は誤魔化せるかな?」


 周囲にはすでに人形兵たちによって蹂躙された盗賊達の血で濡れているので、それを見た彰吾はうまく利用しながら隠蔽する方法を考えた。

 地球出身の彰吾が人間の死体を見ても動揺しないと言うのは違和感と恐怖を見る人間によっては与えるだろうが、簡単な事として魔王として人類の敵に選ばれるのは総じて何処か壊れているのだ。


 更に魔王として生まれ変わった時に多少なりとも意識に小さな変化は生まれているので、その影響もゼロではないだろう。

 しかしだからこそ彰吾は取り乱す事なく冷静に物事を進めることが出来るのだ。

 おかげで30分程の間で人形兵達へと隠蔽の指示を出し終えた彰吾は、十分に休息を取って回復したエルフ達を連れて魔王城へと向かう事ができたのだ。



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