最強の魔法使いが異世界から転移してきたが、魔法が使えずただの爺になった＠爺リターンズ+One

室内に再び現れた魔法陣

　僕の名前は御鷹良明（みたかよしあき）ただの高校生だ。

　突然の出来事、それは日曜の朝に再び起きた。

　朝食を終え、昨日買ってきたばかりのゲームをセットし、本体の電源をいれる。僕が作成するキャラクターを考えつつ、エルフの女をチョイスした瞬間だった。

　ブワッ！

　窓も開けていないのに、一瞬室内を風が巡った。

　驚いて僕はゲームのコントローラーを手に、室内を見回す。

「またかよ！」

　次の瞬間、床に光り輝く魔法陣が現れ、それが更に眩いばかりの光を放ち、空気が魔法陣の周囲に渦巻く。

「爺か！」

　見覚えのある光景に、僕は苦笑する。魔法陣は更に光を放ち、その光が集束し、魔法陣の中央部に集まる。その光が形作るものが、魔法陣の中からせり出してきた。

　その光は人型を描き出し、大きく弾けるように発光した後、光と魔法陣は消えた。

「デラドミニアモ…レデルアン？」

　後に残ったのは何処からともなく現れた…いや、違う。魔法陣から現れたと思しき……。

「ん？　あれ？　誰だ、君は？」

　現れたのは爺ではなかった。

　そこに立っていたのは女の子。しかも滅茶苦茶可愛いではないか！

　驚く僕を尻目に、女の子は周囲を見回し、本棚に置いてあったサークレットを見つけると、手にとって僕の頭にはめた。

「うわ、何をするんだ！」

「ああ、本当に分かる。流石、翻訳サークレット」

　先程まで分からなかった女の子の言葉が理解できる。

「誰だ、君は？」

「ん、私？　ドリンガー師匠の弟子で、シェリーテっていいます」

「ドリンガー？」

　何か聞き覚えのある名前だなとは思うが、思い出せない。

「前にこちらにお邪魔した事があるかと思いますが……。ええと、このサークレットを置いていった人です」

「は？　……爺か？」

　ああ、そういやそんな名前だったっけ。

　爺が来たときは、頭のおかしいジジイが変なトリックを使って現れたと思った訳だが。この世界に魔法などという非科学的な物は存在しない以上は、魔法だ転移だと言われても未だに信用できない。

「君はどうやってここに？」

「別世界から転移石を使って、転移記録をトレースしてきたの」

　目の前に居るのが美少女、しかもどストライクだけに「嘘だ」とも言いづらい。

「いや、演出でしょ？」

「演出……？　とはなんですか？」

　不思議がる美少女の金髪が揺れる。

「え……」

　僕は髪の隙間から覗く何かが気になった。

「ちょっとごめん！」

　立ち上がって、髪の隙間から覗くものを確認する。近づくと、ふわっと女の子の良い香りが僕の鼻腔をくすぐる。

「長い耳……エルフみたいだ……。この耳、本物みたいに良く出来てるね」

「『みたい』ではなく、私はエルフですよ」

　シェリーテと名乗った女の子はにこやかに答えた。

「いやいやいや、そんな馬鹿な。現代にエルフが居るわけが……まじか！」

　どう見てもその耳は作り物ではない。美少女のいう事だけに信じてしまいそうになる。

「こちらの世界ではエルフは珍しいのですか？　そこの箱の中で動いているのもエルフのようではないですか」

　そう言われては説明しにくい。とことん美少女＠ドストライクに弱いな僕は。そういや、爺は弟子に可愛い娘が居るとか言ってたな。本当だったのか？

　思えばこの声、爺と電話で話していた娘なのかもしれない。

「……。で、君は何でここに？」

「ししょーと喧嘩して出てきたんです！　ししょーってば私のお菓子を勝手に食べちゃったんです。大事にとっておいたやつなのに『おお、スマンスマン』とかであっさり済まそうとしたんですよ！　頭にきたので、困らせてやろうと思って勝手に転移石を使って来ました。ついでに換金できそうな指輪を持ってきているので、お金には困らないはずです」

　僕に見せてくれた指輪は大層立派なもので、売れば何百万としそうなものがいくつも。いや、奪ったりしませんけどね。もう少し用心して欲しいな。

「いや、分かったから、ソレはしまっておいて」

「はい。……あと、この世界では魔法が使えないと聞いていたので、実用的なものをいくつか持って来ました」

　おうおう、馬鹿師匠と違って良く出来た弟子だな。って、僕は今、鼻の下が伸びてるかな。

「とりあえず、靴ぬいでそこのベッドに座っててくれる？」

　そう言い残して、僕は階段を下りて台所へ行く。突然現れた美少女に動揺していた心を落ち着けるために、深呼吸をしてから冷蔵庫を開ける。

　少し落ちついたところで、ジュースを持って部屋に戻ってきた。

「どうぞ」

「この橙色の液体は何ですか？」

「果実のジュース……、まあ、飲んで」

　僕に促されるまま、シェリーテさんがジュースを一口飲んで「美味しい！」と言った瞬間だった。

　ブワッ！

　再び室内を風が巡り、次の瞬間にはまたもや床に魔法陣が現れ、そして発光した。

「あー、嫌な予感がする」

　光が形作るものが、魔法陣の中からせり出して大きく発光すると、後から現れたのは……。

「おお、ヨシアキ、久しぶりだの！」

　爺だった。