第30話

 厚いカーテンの内側で夏の光を纏ってキラキラと輝いている白いカーテンが眩しくて直視するのが辛い。夏が漲った力を誇示するかのように白いカーテンを操って私を虐めているように思えた。


 とりあえず水を飲もう。水を一杯飲んで心を落ち着かせてからでもゴミ出しはまだ間に合う。冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んでいると、近くのソファーで眠っていた秋穂が私の物音に気付いたのかごそごそ動きながら体を起こそうとしている。


 昨日の夜もどこかへ行っていたらしい。秋穂はどこへ行っていたかなんて何も言わないし私も聞かない。一緒に暮らしている意味はもうないけれど、なんとなく慣れた環境を乱したくなくて、どうにかしなければならない環境をどうにもできずにいる。心ががすれ違ってきていても、そこだけは私も秋穂も同じらしい。


 カーテンの明るさと、触ればふんわり揺れる生地の質感を思うと泣きそうになってきた。体が重い。水の入ったグラスを持って窓を見ていると、乾いた荒野で一人佇みながら空っ風に晒されているイメージがなぜか浮かんできた。私は立ち尽すばかりで揺れることも、風を孕んで空へ舞うこともできないでいる。ただただ避けきれない風に耐えながら体を硬くしているばかりだった。


 私にとって風って何だろう・・・。虚空を見つめて自分に問うた。


 秋穂がソファで伸びをしながら小さく唸った。風を起こすきっかけはいつも近くに潜んでいる気がする。

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