第28話

 浅い眠りがまとわりつくような暑さと湿気で破られた。何か夢を見ていたようだったが、はっきりとは覚えていない。眠りの最中から暑さにうなされ、不快さを感じていたことだけはしっかりと覚えている。その証拠に布団と触れ合っている背中は汗でぐっしょりと濡れている。私を不快にさせている原因はタイマーが切れたエアコンだ。まるで部屋の中はサウナで、外よりも不快指数が高くなっている。


 蒸し風呂状態の部屋の布団で小さな呻き声を出しながら目をはっきり開くと、いつもと変わらない色褪せて少し変色しているベージュの壁紙が目に入る。ゆっくりと寝返りを打つと、隣にはタオルケットを蹴飛ばしてまだ眠っている桃香の姿があった。


 大きなため息をつきながらエアコンのスイッチを入れる。よく見るとエアコンのせり出しているプラスックも変色して黄ばんでいる。起きたばかりなのにすでに何かをやり終えたかのように体が重たい。手を伸ばして枕元に置いているスマートフォンを取る。画面を見ると七時五十分と表示されている。そしてカーテンの裾からは外の光が部屋の中に漏れていて今日という一日がもう始まっていることをしっかりと伝えて来る。


 うんざりする。頭の中では私はまだ昨日の夜を生きているのに。夜の仕事を終えて帰って来たばかりだというのに、もう新しい一日が始まってしまうなんて何かが狂っているとしか思えない。


 怠さと劣等感が体を蝕んでいく。朝の光が忌々しく感じる今、自分はすっかり夜の世界に染まってしまったのだと思い知らされた。


 

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