福島守護巫女生活イワシロクォーツ

夢の中の黒塚

福島県会津若松市にある私立の女子寮「うつくしま寮」

ここは原発事故をきっかけに会津に移り住んだ家族の子女が会津地方の名門女子校に親元を離れて暮らせるようにと、有志によって設立された女子寮である。

提携しているのは今のところ磐梯町の恵日寺が運営している「私立会津誠道高校」だけだが。


そんな会津誠道高校の寮生は全員夢を見ていた。

夢の中-

「今宵は雨も降ってきた。しかたあるまい、恋衣こいぎぬあの岩屋に宿を求めよう!」

「はい…生駒之助いこまのすけ様…」

窟の入り口を叩く夫婦。

「夜分遅く失礼仕る!某は生駒之助と申す!妻が破水した上、何卒一晩の宿をお借りしたく申し上げてまする」

岩屋の主人の婆はしめた顔のように生駒之助に指示を出した。

「それは放っとけねぇなぁ…んだな生駒之助さんだっけ?」

「はい!」

「おめさんはこの近くの里さいる助産師さんを誰でもぇで来らんしょ!」

「はい!それではいますぐに!!」

生駒之助は韋駄天の如くの速さで岩屋から飛び出した。

すると岩屋の婆は出刃包丁を切り出し、破水して生まれそうな恋衣に向けた。

「な…何をするのですっ!?」

「オラが何してこんたな場所でおめさんのような妊婦を待っていたかと思う?それは愛しい我が娘の病を治すためだじゃ!」

「!!」

「ある日娘っこが重い病気にかかり医者に診せても治らねぇ。藁にもすがる思いで術者に占ってもらうとなんと「妊婦の生き肝を飲ませれば治る」というっちゅうんで、妊婦の生き肝を求めてオラは旅に出た。んだけんども探せど探せど妊婦の生き肝などそう簡単に見つかるもんでねぇ!気がついたっけ安達ケ原(現在の郡山市・二本松市近郊)の岩屋に落ち着き、懐妊した女性の旅人を待ち続けることにしたのっしゃ。そして娘っこの身を案じながら何十年も経過した今日、ついにこの日はやってきた!!」

「ま…まさか…?」

「そう!今から生まれる赤子の生肝はオラが頂く!そしておめさんは-」

「キャアアアアア!!」


-ジリリリリ

「キャアアアアア」

-ドターン

寮内の2人部屋の2段ベッドの下段で寝ていた矢吹やぶにひかる(16・高2)は目が覚めると同時にベッドから床に転げ落ちた。

「朝っぱらからうっつぁしいさわがしいぞおめさんよ!」

部屋を開けて注意に来たのは別室の寮生で図書委員の二瓶にへい鶴子つるこ(高3・17)と別室のギャル増子ましこ桐花キリカ(高1・15)だった。

「ごめーん胸糞わりぃ夢見ちゃってさ…」

「胸糞悪ぃ夢?」

「うん、今にも赤ちゃんが生まれそうな夫婦が宿を頼んだんだけど、旦那さんが助産師さんわ読んでいるスキに岩屋のお婆さんが奥さんと赤ちゃんを包丁で……」

「……!!」

光の話を聞いた鶴子と桐花は目を合わせた。

「どうしたの?」

「その夢、私も見た!」

「いや、俺も」

「ええーどういう事ー!?」

「さぁどういう事だか?」

そこへ寮母のほし美冴みさえが点呼へやってくる。

「はーい朝の点呼始めまーす!」

「あ、点呼だ!」

各寮の部屋の中にいた寮生は一斉に前に出る。

「3年1組点呼!」

「寮母さん、柳沼やなぎぬま龍美たつみちゃんなら朝のランニングからまだ帰ってきていませんよ?」

「わかってますよ」

「その他問題なし…と」

次の寮室の点呼に向かう

「3年2組点呼!」

「寮母さん、宗像むなかたつるぎさんがまだ朝ランから…」

「はいはいいつも通り、問題なしっと」

続いて2年生の点呼に向かった。

「2年2組点呼!」

「寮母さん、八巻やつまき勝代かつよさんの朝ランに佐川さがわ光美てるみさんもついていきました!」

「文化部のあの子が、何して珍しいこと…?」

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