第51話 ルアタか北ルアタか

そして俺達は、首都の東、ルアタと北ルアタの間の森に着いた。

まあほぼ半分の上空からは、ジュリが主導権を受け持ったけれど。


「まったくいつまでも拗ねていないで下さい。」


「拗ねてないよ。

ちょっと面白くないだけだよ。

まあいいや。

まずは旅だ、旅にでよう!」


さっきまでは確かにつまらなかったけど、

今は地上だ。

旅だ。

さあ行こう。


「お待ちくださいお師匠様。

そちらは北ルアタです。

首都に行くのであれば反対方向。」


「何となくこっちへ行きたいんだ。

行くぞジュリ。」


「いけません。

計画を曲げて気ままに行くなど、後々問題が出ます。

ここは予定通り首都に行き、状況を見定めてから行動しましょう。」


「いやだ、

北が俺を呼んでいる。」


「いけません。

とにかくルアタの方が、この国の情勢や、色々な情報が手に入ります。

勝手気ままに行動したいのならその後にして下さい。」


「いやだってば。

俺は絶対に北ルアタに行くんだ!」


そして俺はめきめきと音を建てるように、魔法で変身をする。

船旅の最中思い出した、大魔導士リュートの姿になった。

単になって見たかっただけだけれど。


「お…。な、懐かしやお師匠様。

お久しぶりです~。」


ハンカチを片手に、崩れるように膝を付くジュリ、

いや、別に久しぶりじゃ無いんだけれど。

こんな反応をされると、後どうしていいものか。


「あの頃に比べたら、だいぶお若く盛られて。

しかし、その神々しい程のお姿はお変わり有りませんね。

いえ、あの頃より磨きがかかっているようにお見受けします。」


そのジュリの眼差しは、まるでアイドルを前にしたファンのそれだ。

まあ俺も20代前半ぐらいに設定したけれど。

しかしジュリは、暫くその姿を堪能し終えたのか、

いきなりスクッと立ち上がると。


「ありがとうございましたお師匠様、

良いものを見せていただきました。

さて、首都に参りましょうか。」


既に立ち直っていた…。


「ちょっと待てジュリ、

師匠の命令だ。

北ルアタに行く!」


「お師匠様、

大人の姿になり少しは優位に立ったとお思いでしょうが、

子供の姿で我が儘を言うのは、まだ可愛げが有るかもしれませんが、

大人になってまで、まだ我を通すのであれば、

それは単なる身勝手と言うものです。

ただ見苦しいだけです。

さっ、行きますよ。」


そう言い、ジュリはルアタの方に歩き出す。


「ジュリ~。」


俺はと言われたら、まるで捨てられた子犬の気分だ。

おまけに腹が減った、腹が鳴る。

インベントリには色々入っているけれど、今はそれに食指が動かない。


「お師匠様、ルアタまでは徒歩30分ほど、

北ルアタよりは大きい街ですので、それなりの店も有りましたね。

確かルアタの名物は、子ピルトの丸焼きだった筈…。」


ピルト、それもまだ筋張っていない子ピルト!?

丸焼き? 味付けはタレかな、ハーブかな、塩コショウかな。

俺は踵を返し、ジュリを追いかけ、追い越す。


「ジュリ、遅いぞ、早くしろよ。」


「ちなみにここからルアタまでは、この国屈指の絶景ポイントです。

見ておいて損は有りませんが。」


「そんな物どうでもいいよ。

子ピルトが俺を待っている。」


ジュリが深々と溜息をつき、

”せっかく旅好きのお師匠様の為に、

いい着地ポイントを選んだのに…。”

と泣きごとを言っているけど、そんなに悲観するなよ。

今の俺には子ピルトの方が優先順位が上なんだ、仕方ないよ。



俺は全速力でルアタを目指した。

後ろの方で、ジュリの泣きごとが聞こえたけれど。

そんな事は気にしない。どうせ離れても、

ジュリには俺の行き先は駄々洩れだからな。


そして、ジュリが30分かかると言っていた距離を、

8分で行き着いた。(と思う。)

最初は街はずれと思われる雰囲気だったけれど、

次第に人通りも多くなり、

市街地に辿り着いたと悟った。

人通りが多く、色々な店が立ち並ぶ。

途中に分岐点も有ったけど、よくすんなりとここまで来れたものだな。

単に俺の第六感と旨そうな匂いを辿って来ただけなんだけど。

遠くに城らしいものが見え、

警備巡回をしているのか、衛兵のような人達もうろついている。


「ふ~ん、王都はすぐ近くなんだ……。」


キョロキョロしながら歩いていると、誰かにぶつかった。


「ごめんなさい、大丈夫ですか?」


「あぁ、大丈夫です。

こちらこそよそ見をしていてすいません。」


見れば、若い女のようだ。

お辞儀をしていたその人が頭を上げる。

その途端、俺の心臓が跳ね上がった。

感情が溢れる。

切ないような、懐かしい望郷の念に駆られる。

俺はこの人に有った事が有る。

いつかは思い出せないけれど、

凄く会いたかった人のはずだ。

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