第48話 ようやく次のステップへ

長かった………。

国が新しい機能を始めるまで、ゆうに2月以上かかった。

その間、俺とジュリは色々な事に掛かりきりだった。


「他に漏れは無いか……。」


へたばりながらも、ジュールに確認を取る。


「はい、明日の戴冠式が無事に終われば、後はイライザ様の手腕次第…ですね。」


ティモシーとエバンは仲良くやっているみたいだから、

王位争奪戦はあまり気にしなくても良さそうだ。


王達の処刑は、公開処刑とした。

魔物の群れの中に放り込んでも良かったけど、けじめを付ける為に執り行った。

死者に罪はない?……と言う事で、王都のはずれに質素な墓を建て、

奥方と一緒に、親子3人を葬る。

特に供養の必要性は感じなかったが、

国の主要人物達は、年に一度、ここを訪れるように。

理由は分かるだろう?

自分がこうならないように、戒めとする為だ。



囚われていた少女達は、個々に話を聞きその気持ちを尊重する。

里に帰りたい子には、王家の貯め込んだ財の一部を持たせ返した。

もちろん里での扱いを十分考慮してだ。

王都に残り、教育を受けたい子や、職を持ちたい子にも、十分な手を尽くした。

担当だったメイドの養子になった子もいた。

あの羽の少女だ。

人間として暮らしたい。

だから、翼は切り落とす。

そう言ったらしいが、


「自分に誇りを持ちなさい。」


そう説得され、思い留まったようだ。


だからそちら方面も、取り合えず解決扱いにしよう。

今後のケアも引き続きするように言い渡した事だし。




「もういいよな…。

後は女王や、お前達に任せても大丈夫だよな。

何で俺がここまで………。」


机に突っ伏して、愚痴を吐く。


「いえ、国が安定するまで、何とか留まっていただきたいのですが。」


「もーやだ。

もー行く。

旅に出る。」


インベントリに入っている物だけで、十分旅は出来る。

今ここで転移しても構わない。


「ジュリ~~~。」


「はい、お師匠様。

何かご用ですか?」


ジュリは瞬時に姿を現す。

何で俺はジュリを呼んだんだ?

一人で黙って行けばよかったのに。

と言っても無駄か…。


「出掛ける。

お前、もう少しこの国の事頼むな。

まだ仕事は残ってるんだろ?」


その隙に、探知魔法が届かない所まで逃げよう。


「いえいえ、私の仕事は全て終わっております。

今は他の人の手伝いをしていただけです。

では、参りましょうか。」


ジュリはどこへ?とも言わずニコニコ笑っている。


ジュリが担当したスラムの件は、問題なく運んでいるようだ。

居住区にする土地は、周囲5キロに渡って結界石を置き、

荒くれ者の兵士を、人々の手助けするよう5人常駐させた。

今は開墾も終わり、家を建てたり、畑を作る段階のようだ。

次期にテント生活とは、おさらばできるだろう。


「いいや、

今日は家に帰る。

親孝行してから、明日旅立つから。」


「ヴィクトリア様!

明日は戴冠式です。

あなたにご出席していただかなければ。」


「出席しないと、どうなるんだ?

俺はたかだか、その辺にいるガキと同じだぞ。」


「違います!

大魔導士リュート様を受け継がれている、

ご本人です。

どうか戴冠式の折、宝冠の儀式を…。」


「そんな物、その辺の司祭にやらせておけばいいんだ。

そうか、ジュリ、お前……。」


「嫌です。」


お前、師匠である俺の頼みを断るのか。

いい度胸だな。


「この状態で、あなたを一人にすれば、何をするか分かりませんからね。

それでも一人で行かれると言うのであれば、

今までの悪行を母上様達にばらし……。」


「すいませんでした!」


俺は素直に頭を下げた。

何故だ、なぜこの弟子は師匠を脅迫する。


それでも何とか明日の戴冠式までいてほしいと、

出来れば新しい女王に励ましの言葉をかけてやってほしいとお願いされたが、

あのおばさんに励ましの言葉?

そんなものを喜ぶ玉か?


俺が宝冠の儀式を執り行うのは、身長的に無理だと言い丁寧にお断りした。



その夜、俺は母様に明日発つと伝えた。


「そう、また寂しくなるわね。」


母様は引き止めはしない。

多分いつかこの日が来ると分かっていたのだろう。


「兄貴は忙しそうだから、言わないで行く。」


仕事をそっちのけで、俺の所に駆け付けられても困るから。


「分かったわ。

お弁当を作りましょうね。

ミカリのサンドイッチでいいかしら。」


「ソルバも食べたい!」


いいわよ。

母様はにっこりと笑っているけれど、内心はきっと寂しがっているんだろうな。


「これからどこに行くの?」


母様がそう問う。


「ユートリアに行ってみようと思うんだ。」


俺が返す。


「ユートリア?

あの海の向こうの?」


「うん。」


「ずいぶんと遠いのね。」


「うん。

でも、魔法ならそんなに時間は掛からないから。」


「そうなの…。」


「また帰ってくるから。」


「楽しみに待っているわ。」


母さん達も、もう隠れている必要はない。

俺もだ。

まぁ、違う意味で、今まで通りに目立つことはしないつもりだ。

取り合えず母さんの意見を尊重して、店はこのまま続けるそうだ。

ただ、兄貴は仕事上、ある程度の地位が必要となり、

伯爵を賜った。

当然それなりの屋敷や領地を宛がわれたが、

今まで通りの方が気楽だと、屋敷にはたまにしかいかないそうだ。



迎えに来たジュリに拘束され、俺はジュリの転移で

ユートリアへの船が出る港まで行く。


「元気でね。

体に気を付けて。」


「うん、母様もね。」


そして俺達は王都から消えた。




「まずい、忘れ物をした……。」


「何ですか唐突に。」


ジュリの何度目かの転移で、ようやくユートリアへの船が出る港に着いたんだけど、

そこでおなかが空いて思い出した。

母様からお弁当を受け取るのを忘れていた。


「ジュリ、すぐに取って来るから待っていて。」


「仕方ありませんね。

信用していますから、絶対に帰って来て下さいね。」


「分かってるよ。」


ジュリに連れてきてもらったから、この港ニシュラには

俺も転移できるようになったからね。

ジュリは転移を何度か繰り返したけど、

俺なら一発だな。

さて、お弁当お弁当。



「母様、お弁当~。」


5秒後には家の扉を開け、叫んだ。


「あ…ら?ヴィー?」


「母様、お腹空いた。

お弁当ちょうだい。」





それから俺は度々家に帰って、飯を食うようになったし、

母さんは俺が渡した通信用魔石を仕込んだ装置で、

時々連絡してくる。

まぁ、野良猫が裏で子猫を生んだとか、

ジュールが様子を見がてら、総菜を買いに来たとか、

王女イライザと茶飲み友達になったなど、

他愛も無い話がほとんどだったけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る