第14話 討伐戦

ジュリが飛べるようになった事を幸いと、

俺達は当初の問題をかたずける事にした。

そう、凶暴化した魔獣の駆除だ。

あくまでも狂暴化したもののみを狩るつもりだ。

そうでない奴まで駆逐してしまうと、生態系が崩れてしまうだろうからな。

それに冒険者にとっても、営業妨害になってしまうだろう。


俺とジュリなら凶暴化した奴を狩るのは多分容易にできる。

どうやら数もそう多くないようだ。

俺達は狂暴化した奴を感知すると、飛びながらそいつを追いつめる。

それから、なるべく苦しめる事の無いように急所にとどめを刺す。

でも変だ、駆除を開始してしばらくたつが、まあ最初より数は減った気がするが、先が見えないのだ。


「なあジュリ、確かに当初よりは数は減ったみたいだよな。」


「そうですね。1頭も遭遇しない日もありますし。」


「でもさ、次の日には、また俺達のサーチに引っ掛っかったりするじゃないか。

それって新たに狂暴化している奴が生まれているって事じゃないのか?」


「その可能性は大いにありますね。」


「てことは、俺達はいつまでたっても、此処を離れられないんじゃないのか?」


「まあ、お師匠様が切りが無いからと、此処に見切りをつけて故郷に向かうのであれば、それも仕方ないと思いますが。」


「お前、やな言い方するな。」


「そうですか?気にしすぎですよ。」


お前が心配しなくても、俺は途中で投げ出したりしないよ。


しかし、狩る事だけをターゲットにしてもだめなようだな。

これは原因を探らなければ切りがなさそうだ。


それから暫くしたある日、確かに他の奴に比べ、どう見ても巨大化してるのだが、

すっげー大人しい奴に遭遇した。


「ジュリ、どう思う?」


「ええ~、そんな事言われても私だって分かりませんよ。

ただ…微弱ですが、おかしな魔力を感じますね。」 


「そうだな、俺も感じる。凶暴化した奴からは何も感じなかったのにな。」


「少しマークする必要がありますね。」


俺はコクリと頷き、そいつの後を追う事にした。

この堂々巡りの問題の、解決の糸口がつかめるかもしれない。


普通コルトドンは大人しい性格だ。

そして前を行くこいつも、例にもれず大人しい。

近くに寄っても不思議そうな顔をしてこちらを見ている。

何か愛嬌があって、こんなに大きな奴なのにかわいく見えてくるほどだ。

俺は見失わないよう、追尾用の魔方陣を埋め込もうとしたが、

しかしなぜか奴に拒絶された。

拒絶されたというか、跳ね返されたんだ。


「どういう事だ?

すでに他の魔術師が追尾用の魔方陣を埋め込んでいるのか?」


「どうやら、そのようですね。」


それならどうする?

決まっている、直接後を付いて回るしか無い。



「お師匠様~、何も二人で着いて歩かなくてもいいのではありませんか?

ただついて廻るだけなんてもう飽きてしまいました。」


まあ仕方がない、追跡を始めて凡そ5時間以上も

こいつに付き合っているんだから。

ジュリよ、そう言ってくれるな、俺だって眠いの我慢しているんだから。

(すでにお子様御昼寝タイムに突入している時間なんだよ。)

コルトドンは、散歩するかように気ままに歩き回ったり、

木に実った果物を捕食したり、昼寝したり。自由気ままに過ごしている。

俺だって眠いのに、一緒にそれをしないのは分かるだろう?

俺が爆睡している間に、こいつがどこかに行ってしまう可能性が有るし、

何よりジュリが、俺が昼寝をすると、

ずるいだの、一人だと暇ですと文句を言うんだ。

でも、俺も限界……。


「それもそうだな。じゃ、ジュリ後を頼むぞ。何か有ったら呼んでくれ。」


「そんな、ずるいです!お師匠様はコルトドンとゆっくりしていて下さい。

私は飛行魔法を極めたいんです。」


「チッ、仕方ないな……、それじゃあ勝負で順番決めるか?」


「いやですよ、私が負けるに決まってます。

そういえばお師匠様、じゃんけんって知ってますか?」


「じゃんけんて、グー、チョキ、パ、て、奴だろ。」


「よく知ってますね!!

それ、私が以前お会いした、異世界からの転移者さんから教えていただいた、

簡単な勝負の仕方なんですよ。」


「異世界からの転移者?」


「ええ、私も噂には聞いていましたが、そう言う方には初めてお会いしました。

しかし、話を聞けば聞くほど、この世界ではありえない知識などをお持ちで、

まるで、絵物語の中のお話を聞いているようでした。

じゃんけんもその一つで、まさかこんなやり方で、

簡単に勝負をつけられるとは思いませんでしたよ。」


「ちょっと待て、異世界って、どの異世界だ?

その世界の詳しい場所や名前とか聞いたか?」


「いえ、あまりにも常軌を逸した話で、カナエさん、

ああ、その転移者さんの名前なんですけどね、

カナエさんは一生懸命説明してくださいましたが、

なかなか私が理解できなくて。

えっと、確かカナエさんの世界には、獣人や、エルフ族などいなく、

いるのは人族だけだそうです。

あと魔法は存在していないそうです。」


「魔法がない……。」


「どうかなさいましたか?お師匠様。」


「あ、いや、別に…。

魔法が無いとは、ずいぶん不便だろうなと思ってさ。」


「いえ、それが、その代わりにカガクというものが発達しており、

町の建物は見上げるような高い石造りの物が多く、

遠方への移動手段は馬や馬車ではなく、

クルマというものすごく速く走るものがあるそうです。

どうやら私たちの世界より、快適に生活しているようですよ。」


ちょっと待て、なんか俺、それらに覚えがあるんだけど……。

転移者と言うのも凄く引っかかる。

それに、そのカナエと言う名前にも覚えが有るんだ。ものすごく。


「ジュリ、そのカナエさんは今どこにいるんだ?」


「さぁ、分かりません。何せ、お会いしたのは2年ほど前でして、

護衛の騎士を一人連れて旅をなさっているようでした。

何でも人を探しているとの事で、

見つかるかどうか、全然分からないけどと笑っていらっしゃいましたが。」


「そのほかに詳しい話を聞いたか?」


「異世界と言う物の在り方を。まあ、カナエ様のおっしゃっには、私もうまく説明できるかどうかわからないのですが、たとえばこれが私たちの全世界とします。」


そう言いながら、ジュリは足元から石を2つ拾い上げ、そのうちの一つを示した。


「そして、これが異世界とします。」


ジュリはもう一つの石を俺に見せた。


「そして、多分この2つの世界が何らかの原因で、こう少し触れあった時、その接点でこちらにわたってしまったのではないかと言っていました。」


そう言いながら、ジュリは2つの石をほんの少し触れ合わせた。


「カナエさんは、自分の世界と、この世界がある以上、

多分、異世界は2つだけではないと思うと言っていました。」


「それって、カナエさんの生きていた世界と、この世界のように、それぞれ存在する世界がいくつもあるってことか?」


「ええ。まあ、カナエさんの推測だからその説が正しとは言えませんが。」


「なるほどな、多元宇宙論を持ってきたか。」


「何ですかそれ?」


ジュリからもたらされた情報は、多分俺にとって他人事では無いだろう。

カナエと言う名前も覚えがある。

多分間違えなければ俺が転移してきた元の場所と関係有るだろう。


「ジュリ、カナエさんに会ってみたいと言ったら可能か?」


「どうでしょう。何せ2年も前の話ですから。いったい今は何処にいるのやら…。

もしお望みでしたら調べてみますが。」


なんて話をしながらコルトドンの後を付けていると、

ふいにコルトドンの前方の空間に揺らぎを感じた。

誰かが魔力を使ったな。

俺とジュリは気配を消し、じっとその場所を見つめる。

するとコルトドンの近く、ドリーの大木の下の空間がぼやけ、

一人の魔術師らしき人間が現れた。

身長はジュリより少し小さく、やや小太りだ。

気配から察すると、多分魔術師だろう。

しかし、もうちょっと質素でもいいんじゃないか?

ゴテゴテと刺繍され、宝石らしきものを散りばめた派手なローブは、

悪趣味としか言えない。


「久しぶりですね、ずいぶん大きくなりましたね私のコルトドン。

お前の核もさぞや立派になったことでしょう。

さあ収穫してあげましょうね。」


そういうとそいつは呪文を唱え始めた。意識が朦朧としてきたのか、

しばらくするとコルトドンがズシンと大きな音を立てて倒れた。

次に魔術師はやつの胸の下あたりに手を当てまた別の呪文を唱える。

やがてまばゆい光に包まれコルトドンの胸から何かスッと出てきた。


「あれはコルトドンの核の宝石でしょうか。」


「多分そうだろう、しかしあの大きさは尋常じゃあないぞ。」


それはリンゴほどもある真っ赤な宝石だった。


「思ったより大きくなりましたね、ご苦労様でした。

さてあなたも開放してあげましょうね。

後は自由になさって結構ですよ。」


そういうと魔法使いはコルトドンの額に人差し指でさわり何かつぶやく。

すっと青い光が淡く光ったと思ったとたん

コルトドンは目をかっと開け、立ち上がり、暴れだした。


「今追尾魔法を解除しましたね。なるほどこういう訳だったのですね、

あの子は大きな核を収穫する為の、

魔術と言う栄養を与えられ、畑とされていたのですね。

酷いことをする。」


「ああ、行くぞジュリ。」


「はい。」


俺達はコルトドンの核を手にした男を、転移する寸前で捕まえた。


「何をする!」


いきなり引き戻された男は驚いたのか、俺たちに食って掛かった。


「それはこちらのセリフです。」


「どうやらお前の目的はその宝石のようだな。」


すると男は、眼を輝かせ、まるで自慢するかように

俺達に向かってすごい勢いで話し出した。


「おお、分かりますか。見て下さい、この輝き、透明感そして何よりこの大きさ。どこを取っても最高級品、宝石の中の宝石、第一級品です。

これほどの品はめったにお目にかかることはないですよ。

どうです、素晴らしいでしょう。」


まあ、作り方はどうあれ、品物的から言ったら確かにそうだろう。


「実は、これは大っぴらにできないんですが、

私が考え出した方法によってできたものなんです。

大した物でしょう?」


「ああ、大した奴だ。お前みたいなクソッタレ見たこともない。

お前、自分が何やっているのか分かっているのか?」


「ええ、この芸術品を生み出す方法を考えた私の偉大さは、

誰にでも分かるはずです。

そうだ!他に幾つも持っているのですよ。

よろしかったらお見せしましょうか?」


「それはいいな。お前のアジトに、ぜひ連れって行ってもらおうか。」


「特別ですが、喜んでお連れしましょう。

私の素晴らしいコレクションをお見せしましょうね。」


「ああ、だがその前にその手の宝石を渡してもらおうか。」


「な、何をするつもりだ!これは私が時間をかけて作り上げた逸品だぞ!私の物だ!」


「うるさい!(ソウルタイ)俺の言う事を聞いて、その核を渡すんだ。」


奴は逆らうことができず、宝石を俺に手渡した。


「ジュリ、俺はこれをコルトドンに返してくる。お前はこいつを見張っていろ。」


「一度抜いた核を元に戻すなど、可能なのですか?」


「以前1度だけやった覚えが有る。やってみる価値はある筈だ。」


「分かりました。でも無茶はなさらないで下さいね。」


「ああ。」


「それと!

このまま何処かはトンズラなどしないで下さいね。

そんなことしても無駄なこと分かってますよね?」


「ばーか、しねえよそんな事。

当分お前を見捨てるつもりはない。信じろ。

んじゃ行ってくる。」


俺は急ぎ自我を失ったコルトドンの後を追った。

遠くでジュリが大声を張り上げているが聞こえる。


「ありがとうございますお師匠様!

でも当分ってどういう意味ですかー!」


…返事はしないでおこう……。

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