第3話 新任教師の出現で一波乱!?


―――


 あの日から一週間、俺と優は相変わらず喧嘩三昧。


「お前が悪いんじゃねぇか!」

「いや、お前だよ!」

「いいや!優だ!」

「涼だ!!」


「ふ、二人ともそのくらいにして座ったら?先生が終わるの待ってんだけど……」

「ちっ!」

「このくらいにしといてやるか、優。」


 奈緒の仲裁にひとまず休戦。しかし……


「だから何度も言うけどな……」

「何度も言われなくても涼が悪いんだって!」

 続行中でした……


「えー、オッホン!あの二人はいつもの事じゃからほっといて、皆さんに大事なお話があります。」

 60歳のおじいちゃん先生が改まって言うから教室中がざわめいた。

 俺も優も互いの胸ぐらを掴みながら教壇の方を見た。


「今月で辞める事になったんじゃ。ま、定年退職っちゅうやつじゃ。」

「え……?」

「そんな、急に!」

 皆が口々に言う。そんな生徒たちをぐるりと見渡すと言った。


「じゃから、皆今までありがとう。」

「辞めんなよ、じいさん!」

 俺は思わず立ち上がって言った。


「俺、こんなだけどさ……じいさんの事大好きなんだ。それは皆思ってる事なんだよ。だから……!」

「涼、やめろ……」

「何だよ、優。お前は悲しくないのかよ?じいさん、辞めちまうんだぜ?何とも思わねぇのかよ!」

「こんな時に何とも思わねぇ奴なんかいないよ。俺だって先生には辞めて欲しくねぇけど、仕方ねぇじゃん。定年退職なんだから……」

 優の言葉は正しい。正論だ。けど俺は…俺は……


 気づいたら俺は拳を握りしめて泣いていた。

「涼……泣いてんのか?」

「~~~!仕方ねぇじゃん。勝手に涙が出てくんだから……」

 俺は恥ずかしくて情けなくて下を向いた。

 そしたら優が俺を抱き寄せて、背中をポンポンと叩いた。


「……子ども扱いすんなよ。」

「してねぇよ。」

 しばらくの間、俺たちの様子を見ていたじいさんが口を開いた。

「ありがと、安西。その気持ちだけで充分じゃよ。」

「じいさん……」

「じゃあ今からわしの代わりの先生を紹介する。入ってきなさい。」

 じいさんがドアの方を向いて言うと、皆が一斉にそちらを注目した。


「失礼します。」

 俺の一番嫌いなタイプの奴が入ってきた。

 背はスラッと高く顔の作りもまぁまぁ。でもどこかナルシスト感漂う雰囲気と、何より油断のならない目つきが気にいらない。(注! 第一印象)


 そして案の定、女子たちが騒ぎ始めた。

「……何だぁ?」

 俺は優と顔を見合わせた。


「笠倉先生の後を任されました、高遠晃一と申します。よろしく。」

 正面を向いた顔はまぁ……悪くはねぇけど、やっぱり俺は好みじゃねぇな。(バッサリ)


 そう思っていたら、いまだに立ったままだった俺と優の方を向いてニッコリ笑った。

「……はぁ。」

 一応会釈でもした方がいいと思って頭を少し下げると、こっちに歩いてきやがった。


「な、何ですか?」

「安西涼さんですね?」

「あ、あぁ……そうだけど?」

「君の噂は聞いてるよ。っていう事はさっきの怒鳴り声って君?」

「……聞いてたのか。」

「どんな娘かと思ってたけど、へぇ~……こんな可愛いとは思わなかったな。」

「は……!?」

 高遠は上から下まで全身眺めた後、おもむろに俺の手を握った。


「なっ……!」

「何するんですか!!」

 俺が動くより先に、優が俺と高遠を引き離した。


「ほぉ~これはまた随分とかわいい彼氏だね。」

 イヤミっぽく高遠が言うと、優は真っ赤になって高遠に詰め寄った。


(うわっ……ヤバい!優がキレた!)


「てめぇ……!」

「やめろ、優!」

「離せ。一回ぶん殴らねぇと気が済まねぇ!」

「気持ちわかるけど、先公殴ったら退学だぞ?いいのか?」

「………!」

 優の動きが止まる。俺はホッと胸を撫で下ろした。


「それにお前は俺の彼氏なんかじゃねぇんだしさ。けど、助けてくれてサンキューな。」

「あ…あぁ……」

「僕もちょっと冗談が過ぎたようだね。ごめんね。」


 高遠はそう言うと、教壇へと戻っていく。

 ふと優の方を向くと、まだ恐い顔をして高遠を睨んでいた。



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