第20話
エナジーポーションのインストール完了。
するでしょ? しない手はないでしょ? だからした。そういう事だ。
だが無限増幅は出来なかった。
何故なら。
「ラジコンポーション……」
「らじこん? なんだ、それは。それよりユウト殿。じっとしてくれないと、ポーション掴めない」
そう。ポーションもラジコンなのだ。
悠斗の手の動きに合わせてヒュンヒュン飛ぶ。しかも小さい分、掴もうにもなかなか掴めない。
悠斗が起立の姿勢で直立すると、三角フラスコがピタリと止まる。それをルティが掴もうと手を伸ばすと――
パリンッ。
音を立てて割れてしまった。
中身を浴びてしまったルティは、体がほんのり暖かくなるのを感じる。
どうやら飲まずに中身を浴びるだけでも精神力の回復が見込めるようだ。
「これは……飲むという動作を省けるが……濡れる」
「あ、うん。ごめん」
「いやいい。新たに効果が分かるのは良いことだ。だがこれでは売りさばく事は出来ないようだな」
「うぅん。無限増幅するかなって思ったんだけどなぁ」
世の中そんなに甘くない。何を言っているのだこの主人公は。
そんな訳で、ポーション売りさばいてお金がっぽがっぽ作戦はあっさり消え、だが精神力の枯渇を心配する必要はなくなった。
だからといってスキルを乱用してはならない。そもそも俺の剣五十本なぞ、邪魔だし誤操作して自分やルティを切り刻み兼ねないのだ。
「となると、今はまだ雑魚魔物ばっかりだからいいけど、もっと強いのが出てきた時の事も考えたいな」
「私の大魔法で存在ごと消してやるが?」
「いやだから、女の子に守られるのは男としてね?」
「……やはりもうダメなのか……」
遠い目をして、男装が通じないことを悲観しているようだ。何故ダメじゃないと思うのか。
これが残念エルフたる由縁だろう。
暫く遠くを見ていた彼女は、気を取り直して悠斗の下へとやってくる。彼は寝るための準備をしていた。
「ユウト殿。その銀板は中に取り込んだ物を……その、スキルとして使えるのか? そもそもポーションはスキルではないが」
「あ、えっとね。取り込んだ物をインストール……えぇっと、移動させる意味だと思ってくれ。そのインストール先に俺が選択肢に出てくるアイテムもあるんだ」
そして自分にインストールするとああなった、と。
「そうか……では今朝、ゴーストたちから貰った防具類をいんすとーる出来るのか?」
「あ、そう言えばしていなかったな。剣が出来たんだから出来るよね」
早速試すべくDLフォルダを確認。プロパティを見つつ、どの防具が一番性能が良さそうか調べていった。
だが悠斗はふと、恐ろしいことを想像してしまった。
もし甲冑を呼び出して、自分の中からにゅるーっと出てきたらどうか。
剣は自分より小さい。だが甲冑はほぼ似たような大きさだ。恐ろしい。
そして何より……
「中身のない甲冑をただ操作して、動く甲冑にするだけとかだったら……怖くないかい?」
「……デュラハンだな……」
しかも精神力がある限り、大量の甲冑を出せるのだ。踊るデュラハン軍団だって夢じゃない。
いや夢に出てくるからやめろ。
だが盾ならどうだろう。攻撃を防御するという点では使える。どんな攻撃も完璧に跳ね返す鉄壁の盾。
「護りの盾。なんちゃってね」
そんな独り言を呟きながら、悠斗はファイル名を書き換えインストールを実行する。
無駄に三つあった内の、聖なる力が込められたという、なかなか高価そうな盾を選んだ。
ポーションのおかげで精神力もある程度回復し、迷わずスキルを実行した。
「"護りの盾"」
さぁどこからにょっきする。手か、頭頂部か?
いや、そもそもサイズ的に無理なのだ。だが盾は出現した。
神々しく光る盾として、突然彼の間の前に現れたのだ。
「え? な、なんか今までと違う?」
「お? それは確かに『護りの盾』スキルだな。聖属性の司祭が使う神聖魔法で、防御魔法だぞ」
「え?」
「なんだ。知らないで使っていたのか。あ、いや。盾をいんすとーるしたんだったか……何故そうなった?」
まったく何故こうなった。
インストールした盾は、聖なる力が込められたという品だった。そしてこの世界には『護りの盾』という名の神聖魔法が存在する。それもまた聖属性だ。
それらの偶然によって完成してしまったのだろうか。
何にしても好都合だ。なんせこの盾は――
「ラジコンじゃない。俺の前方を守るスキルなんだ。これなら両手で剣の操作も出来る!」
「うむ。予想とは違う展開になったが、結果的に好都合だったな」
その夜。結界魔法でテント周辺を囲ったルティの魔法を、興味本位でタブレットに触れさせてみた。
出来なかった。
当然だ。目に見えない結界なのだから。
盾は目に見える、そして触れることも出来る物だ。そもそも防具はアイテムでもあるわけだし。
だがタブレットには「アイテム以外にも」と書いてあった。
アイテムでもなく生物でもない物とはいったい……。
(考えても仕方ない。とにかくなんでもかんでも収納出来るか検証しながら温泉探しをしよう。ま、その前に捜索だけどね)
いろいろ検証して歩く。それはそれで楽しいかもしれない。
そんな期待を胸に、悠斗は
尚、ベッドが大きいためテントから少しはみ出ているが気にしてはいけない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝目を覚ました二人は、テント周辺に群がるソレにげんなりした表情を向けていた。
「なんだろうね、あれ」
「まぐどろどんだ」
「え? マグロ丼?」
「ちょっと違う。マグ泥ドンだ」
一文字違いであった。
テントをぐるりと取り囲む結界の外で、じぃっと中の様子を伺う物体。
それは黒くどろりとした形の泥の塊で、これも魔物なのだという事だ。
厄介なことに、こいつは見た目は泥だが中身は溶岩。触れれば熱で大火傷をしてしまう。表面は『熱い』だけで火傷で済むが、攻撃し、傷でも付けようものなら内側から溶岩が吹き出し火傷では済まなくなる。それ以前に武器が溶けてしまう。
何にしても厄介だ。
「ユウト殿の俺の剣は物理攻撃……のようだが、溶けるのだろうか」
「ど、どうなんだろう。そもそも掴めないから実体のある剣なのかどうかも分からないし」
掴もうとして手を伸ばしても、それに合わせて『俺の剣』も動く。悠斗がどんなに頑張っても触れないのだ。
まぁここは試すのが一番だろうという事で、さっそく――
「"俺の剣"」
悠斗の体からにょきっと現れた一本を飛ばす。結界魔法は中から外には容易に出ることが出来る。
飛んで行った剣は一体のマグ泥ドンにずぶりと突き刺さると、シューっと白煙を上げ剣先が溶けた。
実体のある剣だった。
ただまぁ幸いなのは、一本溶けようがまったく痛くないということだな。何本でも作りだせるのだから。
じゃあどうするか。
「中身が溶岩なら、冷やせばいいんだろ? 水もタブレットに入れているし――」
水は屋敷の井戸から汲んできている。貴重だが、必要ならまた取りに帰ればいい。
タブレットから水を取り出そうとした悠斗だが、ルティがそれを制する。
「勿体ない。それに数本の水筒に入った水など、それこそ焼け石に水だぞ」
そう言って彼女は指をパチンと鳴らす。
するとどうだろう。
ヒュー……ンという音が上空から聞こえ悠斗が振り仰ぐと、そこには三角錐の物体が落下してきていた。
それは全て氷であり、どっかんどっかん降り注ぐ巨大な氷柱はマグ泥ドンに突き刺さっていく。
じゅーじゅーっと音をたて蒸気を上げるマグ泥ドンたちは、いったい何をしに出てきたのか分からないほど、あっさり崩れ去っていった。
「さて、では朝食にしようかユウト殿」
にっこり微笑むルティを見て、悠斗は彼女を怒らせまいと心に誓った。
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