3話:おっぱいを揉みたいと叫ぶ30分前の話 PART2

 琥珀こはくの性格を一言で言い表すと、男勝り。


 ボーイッシュなどと可愛げある表現はそぐわないレベルで、そんじょそこらの男子より男が勝っている。

 勿論、夏彦より。


「琥珀、次のページめくっていい?」

「あかん」

「……」


 夏彦は思う。

 何故、自分の金で買ったマガジンを、好きなタイミングで捲ることができないのかと。

 何故、ジャンプ派の奴にページを捲る権利を握られているのかと。

 ジャンプの日は、琥珀の金で買ったものだから、途中で捲られても俺は我慢しているのにと。


 反抗心が芽生えた頃には、夏彦は次のページを捲っていた。

「あっ」という言葉が横から聞こえる。隣を見れば、琥珀がムスッとした表情で睨んできているではないか。


「だって琥珀読むの遅すぎ。バトルシーンで読むとこ殆ど無いのにさ」

「何言ってねん。今の戦闘シーンに、どんだけの熱量が込められてるのかナツには分からんの? 漫画は読むだけじゃなくて、見るのも楽しみの1つちゃいますのん?」

「にしても時間掛けすぎだから。言いたいことは分かるけど」


「分かってくれるなら、ページ戻して」

「いやだ」


「戻って」

「やだ」


「……」

「……」


「戻って!」

「やだ!」


「……」

「……」


「「やんのかコラァ~~~!」」


 ついには、雑誌の取り合い。ギャースカ騒いでワチャつく光景は、高校生とはとても思えない。小学低学年にも鼻で笑われるレベル。


「ナツかてラブコメ読むとき、めっちゃ遅いやん!」

「ラブコメは心理描写が大事だから仕方ないだろ!」

「いっちょ前にキュンキュンしとんちゃうぞ! 童貞のくせに!」

「ど、童貞関係ねーだろ! そもそも、童貞にこそキュンキュンする権利があるだろ!」


「はんっ。エッチなシーンになったら、そそくさ読んだフリするくせに。どうせ家で1人のときは、コソコソそのページ使ってるくせに」

「使う言うなぁ! せいぜい、ガン見程度――、うわぁぁぁぁぁ!」

「その程度でうろたえんな。だから童貞やねん」

「コイツのデリカシーのないところ大嫌い……」


 言葉の殴り合いの勝者、琥珀。

 黙っていれば美人。琥珀のためにある言葉と言っても過言ではない。

 口を開けばこのザマなのだから。


 もはや、楽しく読める気分でなくなった夏彦は、琥珀へと雑誌を献上。


「さんきゅー♪」


 えくぼができ、白い歯が見えるくらい屈託のない笑顔で感謝されれば、大抵の男は何を言われても許してしまうだろう。それくらいの魅力が琥珀の笑顔にはある。

 実際、その笑顔に当てられ、勘違いした男たちも引く手数多あまた。告白して死んでいった男たちも以下同文。


 その点、ずっと一緒にいる夏彦は、しっかりと琥珀に対して免疫が出来上がっている。

 その笑顔が自分の不幸で成り立っていることを知っている故、その笑顔にアンパンチしたいくらいだ。

 鼻歌交じりに雑誌を読み始める姿も、競馬新聞を読むオッサンにしか見えない。

 

 とはいいつつ、実は琥珀のことを夏彦は好きなのでは……?

 ということは有り得ない。

 だとすれば、実は夏彦のことを琥珀は好きなのでは……?

 ということはもっと有り得ない。


 2人はしょうもないことを言い合える悪友なのだから。

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