1話:傘井夏彦という男

 傘井夏彦かさいなつひこは、多くを望まない平々凡々な男子高校生だ。


 中流サラリーマン気質とでもいうのだろうか。地位や名誉を望まず、無病息災、家内安全といった『現状の維持こそ幸せ』を信条とするマイペーススタイル。


 そんな人畜無害さを評価され、小中時代、さらには高校2年生になったばかりの今現在も、『程良い』ポジションで『それなり』の学園生活を謳歌し続けている。

 人気者ではないが、クラスメイトの誰にでも話しかけられる、クラスに1人はいますよね的なキャラ。


 良く言えば。


 悪く言ってしまえば、中途半端なのだ。誰とも会話できるからといって、誰とも仲が良いかといえば話は別なわけで。

 エグい話、夏彦がいなくても世界は回る。いたら楽しいし、彩りを加えることはできるが、いなければいないで特段支障は出ない。



 おでんでいうところのハンペン、

 色鉛筆でいうところの白、

 モンハンでいうところの狩猟笛、

 アニメには出演するが、映画には出演しない出木杉君。



 そんなクラスの打ち上げには誘われるが、仲良しグループで行く旅行には誘われない悲しきごうを背負った男。


 とはいえ、夏彦自身、満足しているといえば嘘になるが、特に不満も無かった。

 中途半端な立ち位置こそ、自分の強みだと理解していたから。誰にでもできるポジションのようで、誰にでもできないポジションだと自負していたから。


 中間管理職的ポジションを苦と思っていない点も大きいだろう。

 向こうがどう思っているかは不明だが、気を許す友だっている。ふうがわりな奴ら故、許した気をいつ八つ裂きにされるかは不明だが。



 以上、中流サラリーマン、中途半端、中間管理職など、『中』の文字に愛されてやまない平凡な少年こそが傘井夏彦である。

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