第36話 アクセルは厚かましめに、そしてブレーキは遅めにかけましょう♪

「へっ? 先生、今なにか言いましたか?」


 イヤホンの片方を外して聞いてくる。この仕草ちょっとかわいい。


「もうなんでもいいです」

「そうですか♪」


 っと気にも留めない。


「あっ、赤になりそう!」


 信号が青から黄色に変わろうとした矢先グオングオンっという強い衝撃が。どうやら信号に間に合うよう、さらに車が加速させたみたいだ。むつみは速度が気になってしまい、運転席前のタコメーターをそっと覗き見る。


「…………っ!?」


 むつみさん言葉が出ません。それもそのはず、車の速度計には法廷速度を大きくオーバーする数字がデジタルで示されていたのだ。詳しく言うとアレなのだが、法廷速度プラス1っと言ったところだろうか。そのプラス1がどこに当てはまるかは、これを読んでくれている読者あなたの考え方次第だ。たぶん41キロくらいかなぁ~っと遠い目で本作の作者は思いたい今日この頃。すぐにスーパー牧瀬に着いた。


「(いやぁ~ほんとあっと言う間だったね)」


 もう体感としては140km/h以上は出てる感じでしたよ(むつみ後日談より)


「うぅ~…………きもちわるい」

「だ、大丈夫ですか先生!? なんだか映画の|昨日香(きのうすか)っぽいセリフですよね、それ♪」


 それは一体誰に首を絞められているのでしょう……きっとみやびさん(の車)ですね。


「あっ、ちなみに今のはたった160km/hくらいしか出てませんよ。この子(車)ならかる~く、300km/hまで出せるようにしてますし♪」


 みやびさん……ここは日本なのです。日本の一般道の最高速度をご存知でしょうか? ドイツのアウトバーン(速度無制限)ではないのです。むつみはなんとかドアを開け車から降りた。


 ふらふら~、ふらふら~……とふらつくむつみさん。


「おっと、ほんと先生は甘えんぼさんなんですから♪」


 ふらってるむつみを、みやびが腕を組んで支える。


「に、にゃんか恋人っぽいよね、これ」

「へっ? なにか言いました?」


 どうやら聞こえていない。フラグは立たなかったようだ。


「さぁさぁ、先生も好きな物買ってくださいよね。あっ、もちろん費用はこっち(会社)持ちなので安心してくださいね♪」


 すこぶるご機嫌にむつみと腕を組みながら、反対の手で買い物かごを持つみやびさん。


「あ、あんまりいらないかも……」

「もう先生ったら、遠慮さんなんですから♪」


 きっと遠慮ではない。本能で胃が本格的に食べ物を拒絶しているのだろう。いやむしろ今のむつみなら逆に元食べ物だったモノを提供してくれそうな勢いだ。


「じゃあ、私が適当にジュースやお菓子買っちゃいますね。先生も好きなのあったら、遠慮なくかごの中にどうぞ♪」

「……」


 むつみの胃さんが、もう喋ることすら拒絶反応。


「あ~っ!? このポテチ新作みたいですね♪ 是非ともコレは買いましょうね♪」


 みやびはグロッキーのむつみを尻目に、新作のポテトチップス『イカにも人参っぽい味』をポイっとカゴに放り入れた。


「おぉっ! これも探してたやつですよ! これも買いっと♪」


 どうやらみやびさんはお菓子が好きらしい。……特に会社の金(経費)で買うことが。


 ピッ♪ ピッ♪


「……合計で8832円になりま~す♪」


 レジのカワイイ店員さんがニコリと笑顔(0円スマイル)接客をする。対して未だグロッキー状態のむつみさんはマイナス0円スマイル実施中。


「……では、これで♪」


 みやびが差し出したのはなんとあの有名なクレジットカード様であらせられる、そうブラック・クレジット・カードゥだった。もちろんむつみは初めてブラックを見た。


(黒い! 黒すぎる!? どんな悪いことをすればこんなに黒くなれるのだろう……)


 とむつみは訝しげに見ていた。


 じ~っ……とむつみがブラックカードを見てそう考えていると、


「ん???」


 みやびの頭に『?』マークがたくさん。「いや、なんでもないよ」とむつみは動揺を隠す。


 そして会計を済ませ袋詰めの場所にかごを降ろすと、みやびは紙をもぐもぐしているヤギが描かれたエコバックを取り出す。カードはブラックでもエコバックをちゃんと持ってるわけなんだね。


「あっ、これですか? えへへっ~。かわいいでしょ。私のお気に入りのエコバックなんですよ♪ なんと表だけじゃなく、ほら裏にもちゃんとヤギさんが描かれているんですよ♪」

「(意外と言ってはなんだが、みやびさんってかわいい女性ひとなのかも……)」


 そんなことを思いつつ、むつみは袋詰めをした。

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