第25話 葵と智也の繋がりと、別れさせる理由

「あの日の学校の帰り道、洋子は買い物があるからと私たちと別れて一人で駅前に行ったそうなんです。ですが門限の時間になっても帰って来なく、朝子と私はずっと心配していました。でも朝になっても洋子は帰って来ませんでした。朝子を心配しながらも、もしかしたら学校に来てるかも……と朝子と一緒に登校したのですが、朝のホームルームで担任の先生から洋子が退学したと聞かされました。

 ほんといきなりで最初は何言ってるかわかんなかったんですが、どうやら洋子本人から退学すると電話があったそうなんです。そして施設に帰るとポストに洋子から手紙が届いていたんです。『理由は言えないけど、ここを去ります。ごめんなさい。』そう私と朝子宛に書いてありました。それ以降、洋子とは1度も会うことはありませんでした」


 碧はもう冷めてしまったコーヒーを一口飲み、言葉を続ける。


「もちろん警察に届けましたし、私や朝子、養護施設の方も心当たりを探したんですが、見つかりませんでした。学校では、男ができたとか子供を妊娠したから退学したなど色んな噂が広まってましたが、そんなもの朝子も私も信じてなかったのですが……。クラスメイトのある子が、お腹が大きくなってた洋子が産婦人科に入るところを見かけたそうなんです。だから余計、噂が広まり……」


 碧はそのまま言葉をつまらせた。


「……それからどうなったんですか?」


 ショックを受けてる智也だが、なんとか声を絞り出し碧に話の続きをと急かした。


「それから6年後、ある男の子が養護施設の玄関に捨てられてました」


 智也はそのことに心当たりがあった。いや、それは智也が体験したそのものだったのだ・・・・・・・・・


「雪が降ってたクリスマスのことでした。運よく朝子がその子を見つけ保護したそうなんですが、翌日手紙が届いたそうなんです。それは洋子からの手紙でした」

「(あの女から手紙が! そんなこと朝子や沙代子からもそんなことは聞いたことがない!)」


 と智也の心はとても困惑していた。


「手紙には『碧、この子(智也)をお願いします』とだけ書かれていました。すぐに洋子が書いた手紙だと気づきました。どんな理由があったのか知りませんが、あの日良くないことがあったのは分かりました。たぶん噂どおりだったんだと……」


 そう話す碧も暗く落ち込み、ハンカチを取り出し涙を堪える。


「洋子はとっても良い子だったんですよ! それが! それがぁっ!!」


 碧は涙で言葉を続けられない。


「だからと言って子供を捨てて、いいわけがないだろがっ! オレはどうすればいいんだよ! あの女に捨てられて、今更そんなこと聞かされても!!」


 ダン! っと怒りを表すようにテーブルを叩く。智也のところにあった冷えたコーヒーカップが倒れの見残しが零れる。それを碧は慌ててハンカチで拭いた。


「智也さん。ショックだとは思いますが……まだ本題ではないんです」


「これ以上何があるって言うんだ!」っと智也は碧の話に憤慨ふんがいしていた。


「実は、洋子の子供は双子だったんです。それも男の子と女の子の。男の子の名前は『智也』、そして女の子の名前は…………『葵』と言います」

「(……い、今なんて言った?あの女の子供が双子でしかも男の子と女の子? 名前が智也とあおいだってのか? アオイ? 青い? 葵!?)そ、それってもしかして……」


 喉がカラカラに渇き、言葉を続けるのが怖かった。だが無常にも碧は言葉を発する。


「今……智也さんが考えてるとおりです。葵さんは洋子の子供、そしてあなたの実の双子の姉なんです」


 その瞬間智也の世界から色がそして音が消えた。智也は目の前が真っ暗になった。金縛りにあったように体は動かず、声も出せず、何もできない。


「…………これが、私が智也さんと葵さんとの交際を認められない本当の理由なんです」

(もしそれが本当だしとしたら、葵は女? しかも俺の双子の実の姉だっていうのかよ!?)

「そ、そ、そんなこと信じられるか!!!!」


 バン!バン!バン! 

 っと先ほどよりも強く両手でテーブルを叩く。叩く。何度も叩いた。


「智也さんショックなのは分かりますが、どうか落ち着いて下さい」


 そんな言葉すら智也の耳には聞こえていない。店員が「どうかしたんですか?」と来たが碧が「大丈夫ですから……」と断りを入れ納得させた。


「葵が……葵がオレの実の双子の姉だったなんて…………」


 放心状態で葵の名前を呟いている智也。


「この事は葵さん自身も知りません。ですから、酷だとは思いますができればあなたから別れを告げて欲しいんです。今ならまだ間に合うはずです」


 そう碧は言ったが、既に遅かった。智也と葵は恋人同士になり互いがいないと生きていけない、既にそんな関係になっていたのだ。


 ファミレスを出てから碧と別れると智也は一人、寮へと戻った。葵はそのまま実家に泊まり、明日もそのままサーキットに直行すると連絡があった。葵から智也に明日の朝家まで迎えに来て欲しいとメールがあったが、なんと答えたかすら覚えていない。


「……ほんと、どうすりゃいいんだよこの状況。…………なぁ朝子」


 それはまるで今は亡き、朝霧朝子に語りかけるように智也はそう呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る