第18話 この想い、添い遂げて……

「なぜ? どうして?」そんなことを思い、面食らう智也に葵からこう告白された。


「初めて逢ったときから、ずっとずっとお兄ちゃんのことが大好きでした。ボクの気持ちに答えられないのは解かってるけど……それでも! それでもこのお兄ちゃんに対する想いだけはどうしても伝えたくて……」


 っと葵から告白されてしまった。

 葵の目には涙のようなモノが今にも流れ落ちそうだった。


 智也と葵は同じ想いだったのだ。

 そのこと、そして葵からの告白が智也を勇気付け、今度は智也からこう告白した。


「葵……お前の気持ちすっげぇ嬉しい。ほんとは『男同士』で、こんなこといけないんだろうけど、オレ、お前に対する今の気持ちが抑えられない! ほんとはオレの方から告白するつもりだったけど、もし葵に断られたら今のこの関係が壊れると思ってできなかった。いや、お前に告白する勇気がなかったんだ! だからこれだけはオレに言わせてくれ! 葵、オレはお前のこと好きだ! 大好きだ! 俺と付き合ってください! お願いします!」


 智也は右手を差し出し、頭を下げ一世一代の告白をした。葵は『もちろんだよ!』と返事をする代わりに頷くと嬉しさからか、泣き出してしまう。泣いている葵を慰めるように強く強く優しく抱きしめ、そして唇を塞ぎ、初めてのキスをする。智也と葵の関係が、兄と弟の『兄弟の関係』から『恋人』になれた瞬間だった。


 智也と葵は10年越しにやっとの想いで恋人になれたのだが、『男同士』といった手前周りの友達にも宣言できず、堂々と恋人らしくデートなどはできなかった。隠れながらの交際は『二人だけが知る秘密♪』と逆に背徳的でより親密な関係になっていた。


 そんなある日の放課後、教室で葵は珍しく腕を組み何かを悩んでいた。


「んっ? 葵そんなに何に悩んでんだ? ……って進路調査か?」

「あっ、お兄ちゃん♪ ……う、ん。進路調査で悩んでいるんだよぉ」

『はぁ』といつもの元気な葵には珍しく元気なく落ち込み気味でため息をついていた。

「あっ、そうだ! お兄ちゃんは進路どうするの!?」


 葵が「是非とも参考にしたい!」と目を輝かせながら聞いてくる。


「オレか? オレは……とりあえずここを卒業したらすぐにでも働きたいな。自分で部屋を借りて生活して生きたいと思ってる。今のバイトも嫌いじゃないが、生活していくには金額的に厳しいからなぁ……」

「あっ……そっか。お兄ちゃんは就職するんだね。ボクはどうしようかぁ~」


 葵にしては珍しく悩んでいる。いつも冗談交じりに笑っている元気がそこにはなかった。


 こんな葵は見ていたくないと思い、智也はこう告げた。


「と、とりあえず就職か進学かだけでも決めとけば、大体の方向性が決まるだろう。あとはもし叶えたい『夢』があればそれに向かって行動する……とかな!」

「そっか……『夢』かぁ~」


 そう呟く葵はどこか寂しげだった。


「なぁ葵。唐突なんだけどさ、…………お前の夢ってなんだ?」

「ボクの? ふふっ…………現実的にはお兄ちゃんのお嫁さんかな♪」


 冗談交じりにそう言う葵だったが、智也は笑わなかった。


「だったら、現実的じゃない夢の方は……なんだ?」

「……あっ。そっちも聞いちゃう?」


 葵はなんとも言えない笑いをする。


「ボクの夢は……『F1ドライバー』になることかなぁ~……なんて、ね(笑)」


 冗談交じりに笑いながらそう言うがきっと本気の夢なのだろう。


「F1? サーキットとかのアレか? そ、そうなのか……」


 F1とは『フォーミュラ・ワン世界選手権』の略であり、4輪自動車レースの最高峰と呼ばれ、時速300km/hを超えるスピードで1万分の1秒を競ってサーキットを駆け巡る。数あるスポーツの中でも1番苛酷で一瞬の判断が簡単に死を招く。それはスポーツと呼ぶにはあまりにも危険かつ『狂気である』とも言われている。


 モータースポーツに興味のない人にとっては、ただサーキットを周ってるだけにしか見えないが、そこには現代の技術のすべてが詰まってると言っても決して過言ではない。そこで培った技術は一般車などにも知らず知らず確実に応用されているので、興味のない人にもその恩恵はあるのだ。

 車に乗らずとも、物を買うといった行為自体が既にそれにあたる。ちなみに日本国内のモータースポーツにおいては『F3』のカテゴリーが最高である。


「ボクなんかがF1ドライバーになりたいなんて、ほんと笑っちゃうよね。あははっ……」


 そんな自虐的に乾いた笑いをする葵。

 それは諦めにも似た笑いなのかもしれない。


「……いや、笑わねぇさ。それがお前の本当の夢なら尚更な! ……ほんとになりたいんだろ?」

「お兄ちゃん……うん♪」


 智也の真剣なその言葉に、葵は目が少しウルウルしていた。それを誤魔化すようにごしごしと制服の袖で拭う。


「もしお兄ちゃんが応援してくれるなら、ボク頑張ってみようかな♪」

「応援?」

「お兄ちゃんはボクのこと応援……してくれないのぉ?」


 葵の目がまたウルウルしだし、もししっぽがついていたのなら元気なさげにペタンっと萎れていただろう。

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