第6話 新しい家族

「おい小僧! いやともやだったか? お前は今日からここの子供になるからな!」

「えっ?」

「ここの子供になる? 誰が? ボクが?」いきなりのことで困惑し、どう反応して良いのか解らず、戸惑ってしまう智也。


「どうせ行くとこねぇんだろ? だったらずっとここにいればいいだろ。なんせここには、お前みたいなヤツばかりだからな……」

「で、でも」


 間いれず朝子が言葉を続けた。


「デモもヘチマもねえ! どうせお前は母親がここに来るまで待つつもりなんだろう? だったら同じことじゃねぇか!」

「……う、ん。わたしもその方がいいと思うな。外は寒いし雪も降ってるしね」


 朝子の言うことに同意する沙代子。窓の外を見るとゴーッと、雪が吹雪いていた。


「い、いいんですか? 迷惑なんじゃ……」

「ちっ。めんどくせぇな。さっきからイイって言ってるじゃねぇか! 馬鹿かてめえは!?」


  朝子は問答にれたのだろう「もう勝手にしろや!」と言うと、靴を乱暴に脱ぎ捨て家の中に入って行った。


「もうお姉ちゃんたらっ! いつも言ってるでしょ!」


沙代子は朝子が乱雑に脱ぎ捨てた濡れた靴を丁寧に揃えて、「これでよしっ!」と納得したかのように智也の方を向いた。


「私は沙代子。夕日沙代子ゆうひさよこだよ。よろしくねともや君♪」


 沙代子は右手を出し「よろしくね♪」と可愛らしく笑いながら握手を求めた。

 そんな同年代の女の子の沙代子を素直にカワイイと思ってしまい照れる智也。赤くなった顔を隠すように俯きながら、「よ、よろしく」っと無愛想に言って握手をした。


「さっきのこわ~い、見た目美人、中身が残念なお姉ちゃんは朝霧朝子あさぎりあさこって言うんだよ。まぁ、あんなんでもここの責任者みたいなものでみんなのお姉ちゃん役(?)なの。……で、さっき恋人に振られちゃったみたいで機嫌が悪いみたいだね(笑)」


 などと笑いながら付け加えた。お姉ちゃんの後の『?』は、沙代子なりの含みというか、嫌味が籠められているのだろう。


「沙代子! そのガキに余計なこと言ってんじゃねぇぞ!」

「ぷぷっ」


 聞こえていたのだろう奥から朝子が怒鳴り散らす。そんな二人のやり取りを見て智也は思わず笑ってしまった。


「ふふっ。やっと笑ってくれたんだね、ともや君♪」

「う、うん」


 さっきまで悲しい気持ちだったのが嘘のように思えた。


「ちっクソガキどもが! この美人で優しいお姉さん属性の私を笑ってんじゃねぇよ! ったくよぉ」

「ちょっとアレなお姉ちゃんのことは放って置いて、ささ靴を脱いで上がったら?」

「あっ、うん。じ、じゃあおじゃましま~す」

「ああダメダメ!」


家の中に上がろうとする智也のことを、慌てた様子の沙代子が止めた。

「えっ? なんで?」と戸惑う智也に対し沙代子は、


「この家では、外から帰ってきたらちゃんと元気よくただいま! が基本なんだよ。もうここは智也君の家なんだからね」


智也はそんな沙代子の態度に少し驚いたが、すぐに「うん!」と元気よく頷いた。雪が降り、とても寒いクリスマスだったがその言葉に智也の心は少しだけ温かくなった。


「沙代子ちゃん! 朝子! ただいま!」

「なんだぁガキンチョ!! 沙代子はちゃん付けなのに、私のことは呼び捨てかぁ!? 生意気なクソガキだなお前!!(怒)」


これが朝子と沙代子との出逢いであり、智也が朝霧智也あさぎりともやとして、初めて家族と呼べる大切な存在ができた瞬間だった。

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