歩数計と他人の時間

 歩数計、万歩計ともいいますが。今では携帯の機能として付いていたり健康管理のウェアラブルに脈拍数と一緒にカウントしてくれたりしますね。


 学生の時や若いうちは歩数なんて気にしてないだろうから、たぶん大方の若い人は持っていないと思います。


 社会人になってデスクワークが増えてくる。そうするとある時自分の体力が落ちていることに驚愕するんですよ、マジで。

 若い時には2階に上がるのに階段使っても特に何ともなかった。それどころか3階まで上がって疲れを感じたとしても数10秒後には何ともなかった。それが2階に上がるだけで疲れを感じる。


「ヤバい、筋肉落ちてる」


 最近あまり歩いてないからかな? とか考えてふと自分が1日にどれくらい歩いているのか気になったりする。


 だからと言って皆が歩数計を持ち歩くわけではないけれど、私は気になって買ってみた。お父さんが持っていたベルトに挟む黒い物と比べると少し見た目がスタイリッシュだったり、燃焼率とか速度とかも出て面白い。


 私が買った物は3秒以上継続的に移動するとカウントを始めるタイプの歩数計。

 立ち座りのちょっとした動作や数歩動いただけでは数字は上がらない。なるほど、父さんの持っていた歩数計よりちゃんとしている。(笑)



 持ち始めてから気付きました。はい。


 先ほど書いたように、3秒以上連続して動かないとカウントされません。だから・・・。結構動いても歩数が増えないことがあるのです!


 例えばショッピングモール。

 服や雑貨を見たりして店舗内でも足を止めながら商品を見たりしますね。結構大きな建物の中の店舗をあちこちと見て回り数百メートル歩いた所で確認してみる・・・が、100歩程しか歩いていないことがある。


「嘘でしょ!? 結構歩いてるよ。チビの私が100歩程でこの距離歩けるわけないでしょ!」


 そうです、数歩進んでは立ち止まり数歩進んでは止まる。そんな事をしていると1キロ歩こうがカウントされる数字は微々たるもの!


 掛けられた洋服を見ては立ち止まり雑貨を見ては手に取る。ウインドウに飾られた装飾品や服に目を留めて足を止め、今度はどの店を覗こうかと迷い立ち止まる。


 そのたびに、はい止まりましたね一旦カウント停止って歩数計のやつは連続してない動きで止める。ほんの2秒動きを止めただけじゃないかッ! と言っても、連続してないからって事で歩数を足してくれない。


 台所で洗い物をしている時、当然の事ながら歩数はカウントされません。

 洗濯物を畳んでいる時、はいカウントされません。

 掃除機を掛けているときにもほとんどカウントされません。


 え? 台所仕事や畳む時と違って動いてるじゃん。そう、動いてます。でもね、CMみたいにすいすいと掃除機掛けられる家なんて少ないし、大抵ヘッドを前後に動かして入念に絨毯の埃を取ったりする。そうすると3秒ルールに引っかかるのですよ。


 手を上げ下げする洗濯物干しも腕は疲れるけれどカウントされないし、料理を作っているときにもあまり動きを拾ってもらえない。


 掃除機を掛ける前に椅子をテーブルに上げたり、猫どもがいつの間にか落とした物を拾ったりするときにも一端止まるからカウントされない。


 数字だけ見るとまるでソファーで横になって一日中テレビ見てたんだろ・・・みたいな数字。トイレと台所しか行ってないみたいな感じがするしょぼい数字。



 そして思ったのです。



 専業主婦で子供もいなかったら、家でゴロゴロしてるみたいな歩数になるんだろうか・・・と。


 私みたいに趣味が小説書いたり絵を描いたり、クラフトする事だったりすると必要以上には外に出ないことがある。家の中では数メートル動けば事足りることが多いからなかなか歩数を稼げない。外で仕事をしてきた人と比べると呆れられたり心配されるレベルの歩数しかたたき出せない。


 歩数という数字だけを見ると「主婦は楽そうでいいな」って言葉が浮かんできそうな状態です。


 主婦に限らず誰でも歩数に加えられない仕事を沢山している。それは結果としてはっきりとした数字で見えない仕事。


 努力もそうだ。


 目の前で走り込みをしている陸上選手を見るとどれだけ頑張っているかが分かる。しかし、自分の見ていない所でどれくらいその人が努力しているかは分からない。


 天才と言われるイチローさんも努力の人だそうだ。


 イラストレーターや漫画家、小説家。

 描いては消し書いては手直しして一枚、1作品書き上げるのにどれぐらい時間がかかったかなんて読み手や観賞する人にはハッキリした形では届かない。


 凄く大変だっただろうな

 時間かかったんだろうな


 そんな事くらいは想像できても、その場面、漫画なら1コマの表情を何度も描き直し仕草を再考し、悩んでかかった時間と苦労は伝わりにくい。


 プロの仕事に密着した某番組を見て、0.5ミリくらいの微妙な線の違いで漫画家がキャラの表情に納得できず何度も描き直すのを見たことがある。

 書いている本人には分かるかかった時間と苦労、でも、それはあたかもカウントされない歩数の様に他人に示せない時間の凝縮。


 漫画なら1ページが一歩だろうか。1コマか?

 小説なら原稿用紙1枚(400文字)が一歩にあたるだろうか。


 2000文字、原稿用紙にして5枚。たかだか5枚書くのにどれくらいの時間がかかるのだろう。


 簡単に何気なく仕事をこなしているように見える人も、見えないところで努力をしているのかもしれない。楽しくお気楽に見える元ZOZOTOWNの宮澤さんも、楽しくなるためのなんらかの努力はやっているんじゃなかろうか。その努力はぜんぜん見えない(笑)


 フィギュアの羽生結弦君が軽々とジャンプしてクルクルと回転している姿はとても簡単そうに見える。頑張って努力をすれば自分も出来るようになるんじゃないかと勘違いさせてくれるくらいに軽く跳んでくれる。


 自分が努力していることも頑張っていることも私は知っている。でも、他人が努力し頑張っている事はあまり考えず結果という表面だけを見て私達は判断しがちなんじゃないかな。


 世の中にはカウントされない努力や時間が存在する。


 だから分かってもらえないことは多いし、分かってあげられないことも多い。効率を重視してしまいがちな昨今、カウントされないそんな諸々を思うほわっとした時間をどれだけの人がもてているだろう。


 時間がない現代人だから効率を重視するのも悪くない、悪くないけど・・・人を思い深く考える時間も人間を熟成させてくれる気がしたりするのです。



 あなたのカウントされない頑張りに、努力に感謝♪



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