4人で勉強すると4倍はかどる

「おなかすいた」


 突然なじみがそんなことを言い出した。


「とうぶんがたりない」


 言葉もなぜかカタコトだ。

 これは重傷だな。


「今すぐに勉強を中止して糖分を補給すべきだ」


「崎守はなじみに甘すぎるでしょ……。せめて勉強が終わってからにしなさいよ。勉強が終わった後にデザートが食べられる、と思うと勉強もはかどるっていうし……」


 ピンポーン。


「ごめーん、押しちゃった♪」


 なじみが呼び出しボタンに手をかけながら、てへぺろっ、とおどけてみせた。これはかわいすぎて勉強にならないやつ。


「そうかそうか。呼んじゃったならしょうがないな。間違えでしたなんていうのも店員に悪いしな」


「そうそう。仕方ない仕方ない」


 なじみもニコニコ顔でうなずいている。


「そんなに甘いもの食べたいならせめて人工甘味料のものにしなさいよ」


「あー、アタシあれダメなんだ。なんか美味しく感じられなくて」


「わかる。なんか後味がちょっと普通の砂糖と違うよな」


「きっとカロリーがないのがいけないと思うんだよね。カロリーって結局糖分なんでしょ。つまり糖のない砂糖はただの砂」


「……はあ。まったくあんたらはしょうがないわね……」


 志瑞がため息をつく。

 どうやらあきらめてくれたようだ。

 俺たちほどではないとはいえ、志瑞とも付き合いは長いからな。


「そのかわり注文は私がするわよ。あんたたちに任せるとまたとんでもないものを頼みそうだしね」


「はーい。和歌ちゃんチョイスのスイーツ楽しみだなー」


 悪気なくハードルを上げていく。

 もっとも、なじみにそのつもりはないだろう。

 純粋に友達が選んでくれたスイーツを食べるのが楽しみなんだ。

 そういう素直なところがあるからな。


「ちょうど、さっぱりしてて飲みやすいし、カロリーオフだから体重も気にしなくていいドリンクがあるからそれにするわよ」


「そんなすばらしい飲み物があるの!?」


「それがあるのよ」


「新商品かな? アタシがそんなものを見落としてるなんて。楽しみだなー」


 ウキウキした様子を隠せないなじみ。

 やってきた店員に志瑞がその商品の名を告げた。


「水4つください」


「和歌ちゃん!?」


 絶望の表情を浮かべるなじみ。

 さっぱりしてて飲みやすくてカロリーオフのドリンク。まあ嘘は言ってないな。

 そんな光景を見てたらふと昔の話を思い出した。


「実は前になじみがさあ……」


「まて、お前らのイチャイチャ話なら聞かないぞ。その糖分は脳に効かないからな」


 即座に佐東からブロックされた。悲しみ。



「やっぱりみんなで勉強すると楽しいね」


 なじみが水を飲みながらニコニコとつぶやく。

 結局水でもよかったようだ。

 地球にまで優しい天使だなあ。


「なじみはいつも寝てるからな」


「なんかさー、授業中ってみんな静かでしょ。それでシャーペンのカリカリって音を聞いてると、だんだん眠くなってくるでしょ?」


「たしかになー。なんか授業中の教室って、独特な空気があるよな」


「だからきっとシャーペンからアルファ波が出てるんだと思う」


「なるほど。一理ある」


 あるかなあ、という佐東のぼやきが聞こえた気がしたが無視した。


「だから、授業中に眠くなる原因は、みんなが勉強してるからだと思うんだよね。つまり、みんなが勉強をやめれば眠くならないから、勉強もはかどるってこと」


 なじみの完璧な推理に、俺はハッとして目を見開く。


「ということはつまり……」


「勉強をするためには……」


 俺たちは声をそろえて叫んだ。


「「今すぐ勉強をやめて遊んだ方がいい!!」」


「いいから勉強しなさい」


「「はーい……」」


 志瑞のクールなツッコミで俺たちはまた勉強に戻った。



 そんな感じで俺たちはしばらく真面目に勉強していた。

 ……真面目にしてたんだよ。

 成績を落とすわけにはいかないからな。


 まあ人によっては真面目には見えないかもしれないが、これがいつもの俺たちだった。

 ちょっとした雑談は息抜きみたいなものだよ。

 何時間もいっさい集中を切らさずに勉強し続ける、なんてことは無理だからな。


 適度な休憩を入れた方が、結果的には効果も上がるんだ。

 学校だって授業のあいだに中休みがあるだろう。あれと同じだよ。

 雑談は必要悪。糖分も必要悪。


 そういうわけで勉強も進み、一段落ついたころ。

 あの事件が起こったんだ。

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