放課後勉強会

 放課後、俺たちはさっそく学校近くのファミレスへとやってきた。

 他の生徒もよく利用するたまり場のようなところだ。

 店内にはいると、四人掛けのテーブルに案内された。


 周囲をよく見てみれば、俺たち以外にも同じ学年の生徒は多い。

 みんな英語の教科書を出してるから目的は同じだろう。

 英語の小テストは毎月行われるからな。月末恒例の光景だ。


 ちなみにバイトもうちの生徒が多い。

 客も生徒だし店員も生徒だから、ほとんど学校の施設みたいなんだよな。

 おかげで利用しやすいっていうのはある。ドリンクバーがある図書室みたいなものか。


 俺が座ると、すぐにとなりになじみが座った。正面の席には佐東と志瑞が並んで座る。


「ドリンクバー4つでいいわよね」


 志瑞がテキパキと注文してくれる。

 何度も利用してるから慣れたもんだ。


「プリンも食べたいなー。ちらっ、ちらっ」


 視線を送りつつ口でも「ちらっ」と主張している。口でちらっとか言う人はじめて見たよ。かわいすぎでは?


 志瑞がため息をついた。感嘆のため息ってやつだろう。

 同姓さえも魅了してしまうとは、なじみのかわいさチート過ぎ。


「プリンは勉強が終わったらね」


「和歌ちゃん知らないの? 勉強するには糖分が必要なんだよ?」


「まだしてないでしょ」


「勉強をはじめるためにはエネルギーが必要なの」


「車も動き出すにはガソリンが必要だからな」


「さっすがコウ! アタシもそういいたかった!」


「けど頭が疲れると確かに甘いものほしくなるよな」


「ほら佐東君もこういってるし」


「……太るわよ」


 ぼそっと告げられた志瑞の言葉になじみの表情が固まる。


「べ、別に、アタシは食べても太らない体質だし、それに最近はぽっちゃり女子も魅力的だっていうし……。ねえコウもそう思うよね!?」


「もちろん、なじみならなんでも……」


 いきなり話を振られて俺がうなずきかけたとき、テーブルの下で軽く足を蹴られた。

 正面に目を向けると、志瑞が視線だけでスマホを見ろと促してくる。

 確認すると、いつのまにかラインの新着メッセージが届いていた。


 なぜか両手がテーブルの下にあるなと思ったら、スマホを操作していたらしい。

 目の前にいるのにわざわざラインしてきたということは、なじみには聞かれたくないことなんだろう。

 確認すると、予想通りだった。


『なじみの成績が落ちたらあんたも困るでしょ。協力しなさい』


 志瑞は性格がキツめに見えることもあるが、なんだかんだで根はいいやつなんだよな。

 こうしてなじみに勉強させようとしてるし。

 俺だったらついつい甘やかしてしまうからな。


 成績が落ちたら会える時間が短くなってしまう。それだけは本当にイヤだった。

 なので、涙を呑んで声を絞り出す。


「……まあ、あえてどちらかを選ぶなら、俺はスレンダーな子のほうが好みかな……」


「!!!!」


 ガーン!! という擬音が似合いそうなほどショックを受けて固まるなじみ。


「いやあくまでもあえて選ぶならであって、もちろん俺はどんななじみでも好きだから気にはしないんだけど、なじみと会う時間が減るのはイヤだし、できれば一緒に勉強して……」


「……する」


「え?」


 なじみがその場で勢いよく立ち上がると、堅く握った拳と共に宣言した。


「ダイエットする! 勉強なんてしてる暇ない!」


「まあ落ち着きなさいなじみ」


「でも!!」


「人間の脳は糖分をエネルギーにしてるんだって。だから疲れると甘いものが欲しくなるのよ」


「そんなこといわれたってもうケーキは食べないんだからね」


 プリンじゃなかったのかよ。

 そりゃ太るわけだ。


「糖分をエネルギーにしてるということは、つまり勉強するとカロリーを消費するってことよ」


「……っ!」


 志瑞の言葉を聞いたなじみがはっとしたように動きを止めた。


「ということは……つまり……?」


「勉強はダイエット」


「!!!!」


 なじみの顔に衝撃が走る。

 数秒後に立ち直ると、真面目な顔で向けて力強く宣言した。


「みんな、今日はたくさん勉強しようね!!」


 おお……。あのなじみがこんなことをいう日が来るなんて。

 感激のあまり涙しそうになった。

 それにしても、さすが志瑞はなじみの親友なだけあって扱いがうまいなあ。

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